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6.女尊男卑の国―15


 アギトがいるのはルヴィディアの家の前。つまり、デルタだ。ここからガンマまではかなりの距離がある。だが、アギトは諦めない。走り、駆けた。

(くっそ。ガンマまで全力疾走でどれだけの時間が掛かる……!?)

 数時間要してしまうのは容易く見えた。

 暫く走って、家が並ぶ通りを抜けて、店が並ぶ大通りへと出たアギトはそこで、見つけた。道の脇に、バイクが泊まっている光景を。

「借りるしかねぇよな……」

 側には持ち主と思えるライダースーツに身を包んだ若い男がいる。先の爆発を見ている様だ。視線を遠くへと投げて、バイクに片手を置いている。

 アギトはその男へと近づいて、

「悪い。バイク売ってくれないか!?」

 普段のアギトからは想像できそうにない焦燥にせかされている声色でアギトは男に詰め寄った。男は必死すぎるアギトの形相に少したじろぎながらも、

「え、え? いきなりなんすか……」

「バイクを売ってくれ。急いでるんだ。いくらでも出す」

 言ってアギトは財布を取り出して、開く。同時に携帯のウィンドウを展開。不可視状態のままだが操作し、財布に金を充填する。その様子を見守っていた男は愕然とする。アギトの口座から財布に充填された札束の数に、驚愕したのだ。

 見て分かる程の大金。財布ギリギリにまで収められた電子から紙幣へと変貌するその札束を見て、男はギョッとして思わずたじろいだ。

「で、いくらだ? 年式だの故障箇所だのどうでも良い。走ればいいから早くしてくれ。急いでるんだ!」

 アギトは走って荒れた呼吸を整えながら一般人には向けて良いモノではない視線で男を見る。そのあまりの形相に男はまた辟易してしまう。

「ひぃっ!? い、いいから持ってってくれ!」

 男は辟易し、そのまま二、三歩下がって胸の前で両手をバタバタと振って拒否反応。その可笑しな光景に周りの視線が集まるが、アギトは気にしない。視線でバイクにキーが刺さっている事を確認して、

「お前優しいんだな。俺が急いでる事分かってくれて……」

 アギトは言いながらバイクへと跨り、財布から大量の札束を手に取って、男へと放り投げた。

「少ないけど、取っといてくれ。謝礼だ」

 言葉だけ置いて、アギトはキーを廻し、クラッチを切り、セルでエンジンを掛ける。けたたましく鳴り響く排気音は男がバイクを愛しているという証拠だった。

 悪い事をしたな。そうアギトは口内で溶かして、アクセルを捻った。

 聞いていて心地の良い程度の爆音が辺りに響き、アギトを乗せたレーサーレプリカタイプのバイクは僻遠の彼方に見える煙と淡い灯りが揺れる先、ガンマへと向かって姿をあっという間に消した。

 男は札束を受け取って、その量に唖然としながら、ただ、アギトを見送って呟いた。

「新車で買ってもこんなにしねぇよ……」




「数が多すぎる……」

 アヤナは『戦火の中』で忌々しげに唇を噛み締めた。そのまま、背中に担いだ巨大な鎌であるアクセスキーを身体を廻す動作で一緒に振り切り、背後から迫ってきていた『敵兵』を真っ二つに切り裂く。切り裂かれた敵兵は甲高い悲鳴を上げたと同時、光の粒子となって消え去る。

 一戦終えた。だが、一息つく間もない。

 ここは戦場だ。エルダのカフェの前の大通り。だが、戦場だ。アチコチから火が上がり、次々とオブジェクトを灰へと変えて、粒子へと変えて消滅させている。

 そして、この大通りの奥に――巨大なエラーが、鎮座していた。

 通りの道を塞ぐ程の、巨大なエラーだ。そこからは無数のバケモノが止めどなく溢れだしている。

 バケモノの姿は騎士だ。だが、その姿は明らかに人間ではない。鎧の関節部等の隙間からドス黒い何かが溢れ出し、所々鎧を覆って不気味な姿へと変えている。まるで、悪魔が宿っているかの如く、その姿は歪だった。騎士の武器は刃渡りの大きな両刃の剣だ。それを振り回し、近隣住民や反応して出てきたヤジウマを切り殺している。当然、切られた人間は紫色に淀んだ粒子へと還元され、死んで逝った。

 そのエラーの前で、エラーに溶けてしまうかのような漆黒が、揺れていた。

 ゆらゆらと揺れているのは楽しんでいるからなのか、どうにも楽しそうに見えるその姿。表情と思われる部分に目が二つだけ浮かび上がっていて、その姿はスカーエフを連想させる。だが、スカーエフは死んだ。惨めに死んだ。だからその漆黒はスカーエフではない。

 では何者か。

「最高だ。気分の抑揚が抑えられない」

 そう言って、見えない興趣の笑みを浮かべる漆黒。そしてその影は腰からサーベルを引き抜く。漆黒に染まりあがったサーベルを、だ。

「さて、私達も行こうか。アイリン。エルモア」

 言った漆黒は一歩、踏み出す。そして、その両脇に控えていた二人のフードで顔を隠した側近達も続く。

 漆黒の影はホープ。そしてその漆黒は、ルヴィディアのもう一つのプレゼントだった。

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