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2.向き合う世界―6


 そんなちょっとした気分の上昇を感じながら向かったアギト。が、役人兵士の下へと到達するや否や、アギトは役人兵士に単独で声を掛けられる。

「あ、アギトさんは、」

「? 何だ?」

「元老院から直接のお呼びが入りました。戦争の参加は良いの今すぐ中央塔へと来いとの事です」

 聞いたアギトは首を傾げる。何故、自身が元老院に呼ばれるのか――それについては多少の当てはある。が、何故、『今更』なのか、という疑問と、何のために、という二つの疑問が沸いた。が、それを目の前の役人兵士に問うたところで答えが返ってくるはずもない。仕方なしにアギトは首肯した。そして、

「で、今回の報酬はどうなる?」

 そこだけは聞いておかなければ、とでも思ったのだろう。生活するには金が必要になる。多少場の雰囲気が悪くなったとしても、把握しておくに越したことはない。それに、元老院に向かって一銭にもならないのであれば、アギトは元老院へとは向かわず、どこか他の戦場を駆ける選択をするだろう。

 が、そんな不安を拭い去るような言葉が返ってくる。

「あはは、心配しなくて大丈夫ですよ。こちらの報酬プラスで元老院から大金が入るみたいですし。私が行きたいくらいですよ」

 クスクスと笑いながら、役人兵士は頷いて返した。

 役人兵士の招集の声で集まってきた傭兵達がアギトと役人兵士の会話を盗み聞きし、それぞれの考えをあちらこちらで述べていて、アギトは僅かに不快感を受けるが、相手にすっる理由はない、と、

「了解。じゃ、入金だけよろしくな」

 言って、傭兵達を退かしてアギトは戦場を後にした。

「がめついなぁ」

 そんなアギトの背中を見送る役人傭兵は、静かにそんな事を呟いて呆れるのだった。




 中央塔とは、ディヴァイドの中央に位置するディヴァイドを管理する元老院達が住まう巨大な塔『コントロールタワー』を大部分に占めた島だ。戦争の管理、政治はこの中央塔で行われれ、ディヴァイドという国の首都だと思えば分かりやすいかもしれない。当然、中央塔で元老院の下について働く者は公務員とでも言えよう。

 ディヴァイドの世界は中央に中央塔を置き、その周りに四つの大陸を備えている。北西に一つ、南西に一つ、南東に一つ、北東に一つ、だ。ちなみにアギトは先ほどまで北東に位置する大陸『エルドラド大陸』の某国の端にいた。そこから移動し、船に乗って、と数時間掛けて中央塔に辿り着いた所だ。移動手段が現実と大して変わらないのは、きっと機械的な負荷があるんだろうな、なんて事を思いながらアギトは島に上陸してすぐのコントロールタワーへと向かう。

 中央塔の敷地面積の九割をコントロールタワーが占めているため、到達するに時間は要さなかった。ただに陸地をただ数分もない時間を歩いてアギトは辿り着く。

 デザインは赤いレンガが積み上げられたようなモノ。だが、その屈強さはレンガなんかの非ではない。直径は大よそでみても数キロはあり、上空からでも見ない限り目安すら知りえないだろう。高さは真下から見上げれば天にも届いてしまいそうなほど高く感じ、遠くのどこかの大陸から見ても、その先端を雲に突き刺している程に高い。

 これが、この電脳世界ディヴァイドの全てを掌握するコントロールタワーだ。

 壁に溶け込むかの様な巨大な両開きの扉の前にアギトが立つ、と、扉は自動的にアギトの存在を認識、確認し、それこそアギトを迎え入れる様に両側にスライドして道を空けた。

 そうして出現した巨大な穴の様な入り口をアギトが潜り終えると、背後で自動的に扉が閉まる気配を感じ取った。が、音はなく、大変静かなため、意識しないと気付かない程度の事だった。

 まず入るとそこはワンフロア丸々使ったエントランスルームだ。中央にフロア半分程の受付カウンターが円を描き、そこに綺麗なお姉さん達が受付嬢として客の相手をしている。入り口が南側だとして、西、東、北の壁にそれぞれ『エレベーター』が設置されている。エレベーターとは言ってもあくまでディヴァイドのエレベーターであり、想像する箱型のソレとは違う。

 地面に人が乗れる機械的デザインの受け皿を置いたような形をしていて、それにに乗って何階へ向かうか思考すれば瞬間移動的な移動方法でその階に辿り着けるというエレベーターと呼ぶよりはワープ装置に近い代物だ。

 アギトは黒いコートの裾を靡かせ、歩き、北に位置するエレベーターへと向かう。彼の黒いコートが役人やセレブリティばかりが集うこの場所では目立ちすぎる程に異質だからか、はたまた、エルドラド大陸最強がいる、と知られてか、周りの人間の注目を密かに集めていた。勿論、アギトはそれに構わないのだが。

 エレベーターの前まで辿り着いたアギトはエレベーターの横に、空間投影モニターとして浮かぶ階の案内を確認して、最上階へと移動する。

 エレベーターに乗れば一瞬だ。神経が一瞬だけ途切れる嫌な感覚の後、目を開ければそこは最上階。まず目に入ったのが、高級ホテルの受付の様なスペースだ。電脳世界ディヴァイドでは滅多に見る事のない高級で機械的且つ、自然を感じさせるデザインには思わずアギトも目を奪われた。

「アギト様ですね?」

 受付カウンターの向こうに立つスーツ姿の美女がアギトが声をかけようとする前に先手を打ってきた。

「ああ、そうだ。知ってるとは思うが呼ばれてきた」

「はい。聞いております。中へどうぞ」

 美女受付が言うと、カウンター横に鎮座していた木目が綺麗に曲線を描く高級そうな重量のある扉が開いた。

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