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6.女尊男卑の国―11

 ズブリ、と背筋に悪寒が走るような効果音が付加された気がした。

 アギトの腹部は確かに貫かれ、漆黒に染まったサーベルの刃を通していた。

 ――だが、アギトのアクセスキーの刃も、スカーエフを貫いていたのだ。

「な、あぁ、あああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 まさか、の光景を見下ろして気付いたスカーエフは、まるでスイッチが入ったかの如く、突如として悲鳴を上げ始めた。

 アギトのアクセスキー、刀の形となったそれは、確かに、スカーエフの胸元を貫いていた。見れば、心臓の位置丁度を貫いている。

 スカーエフは今、体内に異変を感じているだろう。全身に血液を循環させる、心臓が止まるのだ。それはもう、分かりやすい程に、その異変を感じているだろう。

 スカーエフはアギトを刺した事など最早頭にないのか、その場から、瞬間移動にて移動した。して、次に現れたのは店内のカウンター奥、そして、そこには一秒も留まらず、次に身を表せたのは店内端、端、端、端、とスカーエフは次々と場所を変えて瞬間移動を繰り返した。その間、スカーエフの情けない悲鳴、そして胸元から噴出す鮮血はアチコチに引きづられるようにばら撒かれていた。

 鮮血が溢れる、という光景自体にアヤナは目を見開いたが、それはアクセスキーによる弊害だ、と割り切ってその場はとにかく光景に集中した。スカーエフが複数人いるかの如く、スカーエフはあちこちに出現し、消失し続けた。

 目に終えない速さでスカーエフが移動するからか、店内にはただただ、どこからともなく悲鳴と鮮血が出現して、ばら撒かれている様にも見えた。

「大丈夫!?」

 エルダが早速アギトの心配をして寄りそうが、

「大丈夫だ。この程度なんて事はない」

 思いのほかアギトはダメージを受けていないようで、自身の腹部に突き刺さった漆黒のサーベルを引き抜いたのだった。引き抜かれたサーベルはアギトの左腕に収まると、漆黒を剥がすように失い、ただのアマゾネス部隊が所有するサーベルへと戻った。

 サーベルが引き抜かれた事でか、アギトの腹部、口から色鮮やかな鮮血が溢れた。

「……ッ、」アギトは自身から漏れた鮮血を腕で拭ってから、吐く。「やっぱりかよ……」

 この瞬間、アギトは先に出会ったエラーから出てきたバケモノの事を思い出していた。あの、内臓のエフェクト、オブジェクトが存在するあのバケモノの事である。

 内臓のオブジェクト化なんて話は今までのディヴァイドにはかった。そして、血液描写も、だ。だが、今現在、事実としてアギト達の眼前に出現している。

 これは、ディヴァイドのエラーである。エラーの出現によって、ディヴァイドを支えているサーバーが揺るぎ始めているのだ。

「な、なんで、なんでだぁああああああああああああああああああああああ!!」

 数分の時間が経ったか、というところでやっと、スカーエフの影は定まった。アギト達から数メートル離れた位置で、辺りのテーブルとチェアーを押し倒しながら、暴れながら、スカーエフは苦しげな声を上げた。大通り沿いに面したガラスが割れて吹き抜けになっているが、やたらとその声は店内にこだました。

 スカーエフは嗚咽を漏らし、過呼吸を繰り返しながら胸元に空いた穴を両手で押さえ、表情だけを上げて、アギトを睨む。

「な、なんでそんな事をおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 糸切り歯を野獣の様に剥き出しにし、涎を零し、漆黒を剥がしながら――スカーエフは落ちる。

 ガタン、と落ち、スカーエフは漆黒を溶かし、元の姿へと戻った。

 人間らしく戻れたスカーエフはそれでも、変わりない。

 鮮血を漏らして、ゾンビの様に這い蹲る。

 アギトを睨む様に見上げ、ただ、出ない声で吼える。

「黒いのぉおおおおお、くっそ、くそぉおおおおおお!! どうしてだ、どうしっ、」

「うっせーよ」

 アギトは鮮血溢れる腹部を押さえながら、鋭利な眼光を平伏すスカーエフに叩きつける。

「お前に実体が合って、ダメージが通る事はさっき首筋に刃を這わせた時点で把握していた。そして次に問題になるのはどうやって、攻撃を当てるか、だ。捕まえでもしなければならない。なら、捕まえれば良い」

「ふっざけるな! 自身を犠牲にしてまで捕まえるなんてどうかしてるッ!!」

「どうかしてんのはテメェらの方だっての。本当にもう、呆れちまう」

 吐き出したアギトは自身を支えようとするエルダとアヤナの手を退かして、一人立つ。して、ゆっくりとした歩みで歩き出す。

 一歩、一歩、迫る。脅す。

 右手にはアクセスキー、左手には元に戻った「切れ味」のスキルが付加したサーベル。アギトは、サーベルを適当に放り投げた。

 右手に残るは、殺すという意思。

 数秒を要して、アギトはスカーエフの頭上に到達する。

 地を這うスカーエフの体勢では、視線が持ち上がらず、アギトのその『おぞましい』表情を視認する事は出来ない。

 ジャリ、と金属音。アギトのアクセスキーが軽く振られる音だった。

「今回はコイツに助けられたしな」

 アギトは言う。

 そして、右腕に持たれるのは――巨大な鎌。

 アヤナのアクセスキーの様な、巨大な鎌だった。だが、デザインは大分異なる。アヤナのアクセスキーの目印とも言える巨大な眼球はなく、ただ、純白に輝いていた。良く見れば、刃のとぎ跡を繋ぐように薄く、灰色のラインが刃に幾何学的に伸びて紋様を浮かべている。そして、何より特徴的なのが、刃の外側から生える、槍の先端の様な棘である。刃の意味はあるのか、という程にその棘は巨大で、刃の先から柄との連結部分まで等間隔で生える様に付いている。

 敵の身を抉る、棘。

 刃の先端で敵に切りかかり、引っかき、蛇腹の様に棘が這い、一撃で敵を殺す。

 アギトは肩にその巨大な鎌を掛けて、

「これなら、何をどう間違えようが一撃で死ねるだろうよ」

 持ち上げ、空いた左腕を沿え、一気に――振り下ろす。

 だが、振り切れなかった。


「攻撃を止めなければ、だな」


 声がしたからだ。

 鎌の刃は中途半端なところで止まってしまった。

 刃の先端がスカーエフの背中を切りつけ、棘が身体を二分しようと振り切られ、五つついた棘の内二つがスカーエフの身を吹き飛ばし、えげつない赤を撒き散らしたところで、アギトの手は止まってしまった。

「ぎゃあ、ああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 スカーエフは身を焼く痛みに悶え、悲鳴を上げていた。が、その悲鳴ですらアギトの耳には届かない。一番近い所にいるというのに、だ。

 アギトは生唾を飲み込み、止まりかけた意識《時間》を取り戻し、ゆっくりと、振り返る。

 すると、見えてきたのは、エルダとアヤナの間。先程まで自分がいた場所に静かに屹立する、ローブを纏った長身の女性の姿。フードは背中に落とされ、表情は露になっていて、特徴的な赤毛が窓があった場所から吹き込む風によって揺らされていた。

 ――ルヴィディアだ。

 

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