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6.女尊男卑の国―10


 アギトは珍しく、焦燥に駆られていた。

 今まで相対した事のない力を使うスカーエフに、恐れを感じ始めていた。

「きゃあッ!!」

 短い悲鳴が店内にこだました。アギトの右方から響いた声はアヤナの物だった。

 アヤナの眼前にスカーエフが突如として出現し、拳を振るった瞬間だった。アヤナの反射神経はそれなりのモノだが、流石に、追いつくには至らなかった。スカーエフの拳がアヤナの頬を嬲り、アヤナの華奢な身体を吹き飛ばしたのだ。アヤナの矮躯は容易く飛ばされ、すぐ背後の壁に衝突、隣のエルダがすぐさま防御の体制に入る。

「くっそ!」

 気付いたアギトは即座に疾駆した。床が穿たれるのではないかという程に床を強く蹴り、一気にスカーエフとの距離を詰める。だが、そのアギトの足音を察したか、スカーエフは瞬時に気付いた。振り返り、アギトの迫る姿を見つけて、にやり、と笑んだ。

 瞬間、スカーエフの姿が消えた。アギトがそこに到達したのと同時である。

 アギトがアクセスキーを振るった瞬間にスカーエフは消え――再出現した。

 アギトの眼前にその身を置いたスカーエフはそのまま、サーベルを握った拳をアギト鼻面にたたきつけた。

「ぶっ、」

 アギトは後方に大きくよろめく。が、なんとか踏み留まり、アギトは体勢を維持し、すぐに表情を上げた。だが、すでにスカーエフの姿はない。

「くっそ! いい加減にしろよ畜生」

 アギトは苛立ちと共に吐き捨て、振り返ると、数メートル先にスカーエフの影。不気味に笑み、淀んだ影を揺らしている。

「面倒ね……」

「そうだね。君、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だ。つっても……、何もできちゃいないがな」

 並んだ三人は忌々しげに吐き出す。

 と、そんな三人をニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら、言う。

「さ、本題に入ろうか」

「本題?」

 スカーエフの言葉にアギトは眉を顰め、怪訝な表情を浮かべて首を傾げた。

「そうだよ」スカーエフは言って、右手に握るサーベルを軽く振って、『何のために生かしてると思ってんだ』と無言の圧力を三人に掛ける。思えばそうだ。スカーエフはいくらでも相手の背後に回り、サーベルで斬り付ける事が出来たはずだ。だが、そうしなかった。今までの攻撃は全て致命傷にはなりえない打撃のみで、確かに、生かされていた。

 そう気付いたアギトは冷や汗を垂らして、秘匿に息を呑んだ。

「で、その本題ってのが――君達三人が持つ、全てのアクセスキーの無条件譲渡だよ」

 言い切ったスカーエフは、得意げに笑んで、「どうせ、渡さなかったら無理矢理にでも奪わせてもらうから、私としてはどっちでもいいんだよね。生きるチャンスを上げてるんだよ」

 して、スカーエフはまた笑む。

 そんな笑みに苛立ちを感じながら、アギトは思考する。して、即座に答えをだす。

「条件を付けさせろ。冥土の土産って事にでもしてよ」

 アギトは引かなかった。

 冥土の土産。という言葉を聞いてエルダはアギトが諦めた、とでも思ったのか、目を見開いて驚愕の表情を浮かべて、隣のアギトを見上げる。対して反対側にいるアヤナは、それでもアギトは諦めてなどない、と気付いているのか、何も言わずにただ、隣でアギトの意図が吐き出されるのを待った。

 アヤナとアギトも一緒に行動してそれなりである。本日、新規参入したばかりのエルダでは、どうしてもアヤナに勝れない事もあったのだった。

 エルダは暫くして、アギト挟んで反対側に位置するアヤナのその様子に気付いた。気付いて、その心中まで察してやっと、アギトを信じる、という結論に至ったのだった。

「無条件って言ったのに条件を付けろとは……。いいね。面白いよ。聞いて上げる」

 アギトの誘いにスカーエフは乗った。

 その間、アギトは秘匿に、スカーエフを倒す方法を考えていたのだった。当然、アギトは諦めてなどいない。どうすれば、スカーエフを倒せるか、という考えで一杯だったのだ。

(考えろ。瞬間移動能力に似た力を持っていて、出現場所ポップポイントも分からない。そんな今まで相対した事のない敵に対してどう行動すれば勝てる……? 落ち着いて考えるんだ)

 アギトはスカーエフのその姿を見る。影、影。攻撃は確かに通る。先の首筋に這わせたその瞬間、確かな感触をアギトは感じていた。間違いはないだろう。つまり攻撃を当てれば勝てる。では、どうすれば攻撃を当てる事が出来るか。

(くっそ……。どうしろってんだ……。捕まえる事が出来るとは思えないし……)

「で、その条件って、何かな?」

(捕まえ……、そうか)

 アギトは、気付いた。気付いたその瞬間、アギトの表情は上がる。目を輝かせているその表情にエルダ、アヤナ共に気付いて安堵の溜息を吐き出すのだった。

「条件は……俺から、殺せ、だ」

「面白いこと言うね?」スカーエフは興趣の笑みを表情に貼り付けて言う。「仲間思いの偽善かな? それとも、仲間が死ぬ所を見たくないって言う傲慢かな? どっちも、黒い子の柄じゃないだろうに」

 高笑いを上げるスカーエフ。だが、対するアギトはふざけた雰囲気を一切ださず、ただ、真剣さを伝える――そう演技する――ためにただ、スカーエフを睨む様に見詰めている。

 そんなアギトの表情にスカーエフは確かに真意を感じた――勘違いした――のか、はいはい、と吐き出して吹っ切れたような表情を浮かべる。

「分かったって。じゃあ、さっさと殺そうかなぁ……」

 そう吐き出した瞬間だった。スカーエフの手は早い。一瞬にしてアギトの眼前へと到達、して、サーベルを――突き出す。

 アギトの腹部、水月を抉るように、サーベルの曲刃はアギトの腹を貫いた。

 

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