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6.女尊男卑の国―4


「そう、なら帰らせてもらうわ……」

 アヤナはツンと素っ気無く言って、二人を追い越して部屋の扉へと向かう。アヤナが近づいて反応したセンサーが扉を斜めにスライドさせ、鋭利な音を発てて開かれる。して、アヤナはその扉を出ようとして――足を止めた。丁度扉がある場所を跨いだ所で、立ち止まり、首だけで振り替えし、肩越しにスカーエフ、アイリンの二人を覗いた。

「何かな?」

 相変わらずの笑みを浮かべたまま、スカーエフは不思議そうな演技をみせながら問う。

「アギトの居場所……教えてくれないかしら?」

「アハ、良いよ。このアジトから出て、南に真っ直ぐ行けば街に出るから。そこに、いるはずだよん」

「そう、ありがと」

 素っ気無い感謝の意を口から漏らして、アヤナは視線を前へと戻した。して、進みだす。アヤナが解放される、という事を把握しているのか、近未来的デザインが支配するアマゾネスアジト内では、如何わしげな視線こそ集めれど、アヤナを制止しようとする者は一人も現れず、アヤナは容易く外へと出る事に成功したのだった。

 そんな光景から見ると、アマゾネス部隊内でのスカーエフを支持する者の比率は多いように思えた。単純に、スカーエフが偽の情報でも流してアヤナを止めないようにしたのかもしれないが、アヤナは、そう感じたのだった。

「さって、と」

 アジトの建物から無事出る事の出来たアヤナは一度振り返り、自身が囚われていた建物の全貌を仰ぎ見る。

 新設した高校校舎の様な、箱型且つ丸みを帯びたフォルムを誇る巨大な建造物だ。白い基調を群青色のラインがなぞり、建物のスタイルをシャープに見せている。窓は見当たらないが、中からは外が覗くことが出来る様になっている。ディヴァイドの中でも突起している科学力を持つアルカディア大陸では珍しくもない光景である。入り口は見えるのはアヤナが出入りした巨大な豪華ホテルを思い出させるガラス張りに似たそこのみで、そこだけ見れば閉鎖的空間にも見える。建物を出てからも暫くはアマゾネス部隊の領地なのだが、そこに囲いや外壁の仕切りはなく、見張り、哨戒の影もないため、特別警戒する必要はないようだ。

 森林地帯にも似たごたごたとした木々の雑踏が並ぶ道を南下しながら、アヤナは先の事を考える。

「アギトはこっちから探さなくても、ホープとやらからアクセスキーを取り戻すために乗り込んできそうな気もするんだけどなー……、でも、まぁ、何があるか分からないしねぇ……」

 独り言がついついと漏れてしまう。見渡せど周りに確認出来るのは木々、雑草等の緑のみである。そうして誰にも観察されない独り言を漏らしながらアヤナが進み続けていると、やっと、周りの光景が変化した。それはフェードインする様に入り込んできた光景だった。屹立する木々の数は急激に少なくなり、辺りは開けた土地へと変わった。そして、僻遠の彼方には建物郡の蜃気楼にも見える影が見え始めた。

「あれね……」

 歩き疲れたのか、アヤナは疲弊を表情に浮かべ、気だるそうに呟いた。溜息を吐き出せば咽喉が干からびるように乾く。まるで、砂漠を一日歩き続けたかの様な体感だった。アヤナの矮躯にはここのところぶっ続けとなって居る移動も未だ慣れる事が出来ずにいるのだ。

 ともかく、歩き出さなければ進むわけがない、とアヤナは歩き出す。僅かに猫背になっているのは憔悴しきった身体から力が抜けている証であろうか。




「さぁて、後はホープの帰還を待つばかりだね。アイリン」

 スカーエフの言葉にアイリンは静かに首肯する。

 場所はアマゾネス部隊アジト内に存在するスカーエフの自室だ。それなりの広さを誇り、それなりのシステムを備えた極上の一室である。スカーエフは腰にエルダから奪い取ったアクセスキーをぶら下げたまま、腰を下ろせば低反発に沈む巨大なソファーに腰を下ろしている。アイリンは警戒でもしているのか、部屋の扉の近くで一人、待機している。

 スカーエフがホープの帰宅を待つ理由。それはスカーエフの目的にある。

 スカーエフがアマゾネス部隊リーダーであるホープよりも先にアクセスキーという脅威を手に入れたというのに、今まで目立った行動を起こさなかった理由は簡単である。それは、より、進むため、という事。

 スカーエフは知っている。ホープの事を知っている。自身より立場が下であるスカーエフが力を得て、跋扈しようとすればホープは焦燥感に悩まされ、急かされ、自身も同等、もしくはそれ以上の力を得ようとする。アクセスキーと同等、それ以上の力となれば――アクセスキーの他にない。

 そして、時は来た。

 アギトという漆黒のアクセスキー所有者が、やってきて、ホープにアクセスキーを与えてしまった。ホープはその力を保持していることを主張するだろう。そして、スカーエフと今までと変わらない部下上司の関係を維持しようと提案するか、もしくは――スカーエフをもアクセスキーの力で抑え込もうとするだろう。だが、スカーエフは既にそこまで見通していた。

 力が有利な内に、ホープの行動を予想した結果を通達し、仲間を増やしていた。出来るなれば、側近であるエルモアをも、としたが、エルモアはガードが固く、それは叶わなかった。だが、それでも、十分過ぎる程に数は集まった。それは、このスカーエフの作戦が未だホープに知られていない事で明瞭だろう。

 そうして、アマゾネス部隊をより『強く』した所で、スカーエフがアマゾネス部隊を奪う。それが、スカーエフの狙いであった。一つの部隊に二つのアクセスキー。これ程に恐ろしい部隊がこの世のどこにあるというのだろうか。

 もし、そうなれば『スカーエフが率いるアマゾネス部隊』が世界を支配する日が来ても、なんらおかしくはない。と、いう事になってしまう。

「女尊男卑の世界ってのを作ってから、世界を一番高い所から俯瞰する……最高だねぇ!!」

 部屋に、スカーエフの高笑いが反響する。それを、黙って聞くアイリンも、秘かに期待に胸を膨らませているのだ。

 ホープからアクセスキーを取上げて、次の使い手になるのは当然――スカーエフの側近であるアイリンだ。いくら二つあっても、二つを一人で使いこなすのは難しい。側近であり、一番に信頼を置くアイリンに渡すのが当然であり、スカーエフもそう宣言している。戦いが仕事とも言えるアマゾネス部隊で、その『アクセスキー』という恐ろしい力を手にする事は、自身が駆け上がる事をも意味する。そんな期待に興奮し、秘匿ながら胸を躍らせているのだ。

「ッ、きましたね……」

 スカーエフの高笑いが響く中、アイリンは『その存在』に気付いた。

「おっと、やっとか!」

 笑いを止めて、反応するスカーエフ。ソファーから腰を上げて、意気揚々と扉へと向かう。スカーエフが出ていくと同時、その背後にアイリンが並ぶ。

 アジトに、ホープが辿り着いたのだ。これから、やっと、待ちわびたスカーエフの作戦実行の時が迫る。

「無様な姿を拝見させてもらおうか! ホープ!」

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