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6.女尊男卑の国―3


 だが、アギトは彼女のその姿勢を厭わない。

「じゃあよ、」一息つく間を開けて、エルダと視線を重ね、固定して言う。「俺がエルダのアクセスキーを取り返してきたら、仲間になるってのァどうだ」

 言い終えたアギトの得意げな表情は、エルダに面食らわせる程度の威圧となった。

 エルダは目をまん丸と開きながら、慌てふためくように言葉を並べる。

「そ、そんなっ! 私は君なんかと肩を並べる事は出来ないよ……」

「そうじゃない」

 アギトは自信を失わない。謎の得意げな表情、したり顔でエルダの表情を覗き込む。その距離がかなり近くまでなってしまったのだが、気付いたのはエルダのみである。エルダは恥ずかしさから顔を真っ赤にして僅かに身を引くのだが、勢いづいたアギトは止まりそうにない。

「俺は仲間を、探しに来たんだ」

 そうだ。アギト、それにアヤナはガンマまで仲間を探しにきたのだ。アクセスキーを所有し、エラーを閉じるという同じ目的を持った仲間を、だ。その仲間、彼女、エルダが眼前に控えている。なのに、何故、目的を、仲間を手放すような事をしなければならないと云うのだろうか。

「はえ? え?」

 アギトの言葉を焦燥感から理解できないのか、エルダは表情を真っ赤に染めて慌てふためきながら必死に応える。顔の前で両手をわたわたと慌しく振るっているのは、それはもう可笑しな光景だった。

「言ってなかったか? 俺とアヤナはガンマに俺達と同じアクセスキーでエラーを閉じてる人間――仲間がいるって聞いて、そいつを仲間にしようとガンマまで来たんだ」

「え、そうなの?」

「そうだ」

 情けなく間抜けな表情を全開にして驚くエルダと、その眼前、すぐ鼻の先でしたり顔を続けるアギト。

「で、どうする?」

 勢いのまま、アギトは半ば強引に詰め寄り、問う。

 と、

「……でも、」

 もどかしげに言葉を詰まらせる。

 そんなエルダに、アギトはその近すぎた距離を引いて、

「ま、そん時になれば考えりゃいいさ」

「そ、そん時って何よもう」

 顔を真っ赤にしながら、エルダは喚くように返した。その表情だけ見ていれば、柄でもないようである。

 して、二人はそんな話を頭の隅に入れながら、次の行動へと移る。どうやって、アクセスキー、アヤナを取り戻すか、だ。




   11




「アイリン、ちょっとこっち来て」

 スカーエフは軽々しい口調で側近であるアイリンを呼ぶ。彼女らの眼前には椅子に座り込まされるアヤナ。アヤナはフードを深く被ったままだが、既に事情を把握しているのか、フードの隙間から覗く大きな瞳が鋭くなり、スカーエフを覗いている。

「何でしょうか」

 アイリンは長いローブの裾を揺らしながら部屋の端から滑るようにしてスカーエフへと近づいてきた。

 眼下にアヤナを控えながら、二人は見張りなどないかの如く会話を交わす。

「ホープの奴、アクセスキーの使用方法聞き出せたと思う?」

「そうですね、こちらには一応、人質もいますし……、成功しているのではないでしょうか」

「ハハッ、そうだね。でもまぁ、私達が部下でいる、って思ってるところは変わりないだろうね」

「でしょうね」

 スカーエフは静かに首肯。

 眼下ではアヤナが話しを聞いているのだが、聞かれても構わないといわんばかりにスカーエフ達はそれなりの音声で会話した。六畳程度の真っ白な部屋。二人の声は聞き逃そうとも聞き逃せない程に響いていたのだった。

「……アンタ達さ」

 アヤナがそこで、声を発した。突然の発言にスカーエフ達は首を捻って視線をアヤナのフードに集中させる。と、フードの隙間から覗くアヤナの視線に二人は視線を重ねた。スカーエフはそんなアヤナを面白そうに笑みを重ねて見ている。

「どうしたの? 急に」

 アイリンは言葉を発する気がないのか、フードの陰になって見えない視線をただ、アヤナへと下ろしていた。

 アイリンの視線を確認する事が難しいため、アヤナはスカーエフへと焦点を合わせて、詰まらなそうに言う。

「アンタ達、アタシの見張りの意味あるの?」

 訝る様な表情のアヤナ。対してスカーエフは大音声の笑みをばら撒いた。後、未だ引ききらない笑いを堪えながら返す。

「そうだね。ハハ、察してるだろうけど、私達は実際、ホープに大人しく従う気はないしね。君の見張りをする理由はないんだなー全く」

 スカーエフの笑いに隣にただ屹立するアイリンは静かに首肯する。

 と、同時だったかもしれない。スカーエフは手短な動作でさっと何か合図をした。その瞬間、アヤナは『見張り』という肌で感じていた危機感から解放されたように、気持ちが軽くなったのを感じた。その合図を立ち上がってよい、と理解したアヤナは一応に二人を警戒しながら、椅子から腰を上げる。長時間座っていたからか、目眩の様な立ちくらみに数秒程悩まされたのだった。

 ――アヤナは運良く、自身のアクセスキーの存在をアマゾネス部隊に知られないでいた。それは、どこからでも取り出せ、何処にでも出現させられる、というスキルの副産物だったともいえる。フレギオール戦の時にも役立ったが、今回でもそのスキルは役に立ったのだ。地味そうなスキルでも、意外と何処かで役立つモノなのだ。

 アヤナはアギトのアクセスキーがホープの手中にある事を把握している。そして、スカーエフがホープを敵対視している事を知っている。言えば、唯一の事情を知る第三者でもある。

(さってと、今回、アタシががんばらなきゃね……)

 そして何より、アヤナは女性である。この場で一番の強みを持っているのは――アヤナなのだ。

「こっから、出てっていいの?」

 皺の付いてしまった純白のローブの裾を叩きながら、アヤナは大変気だるそうに聞く。

「いいよ。別に。アギトって奴の情報は貰えたし、何より女の子だからね。私がどうこうする理由はないから」

 スカーエフはアヤナなんてどうでも良いといわんばかりの気軽な口調で、そう返した。

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