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5.理想郷へ―15


「……そうか」

 アギトは静かに首肯した。

 エルダはアギトの強さを見込んで、一度見たのみでアギトへと接触して、このようなことを頼み込んできた。その状況から、必死だ、という事は瞭然である。アギトは当然察する。

 どちらにせよ、アギトはアマゾネス部隊の下へと自身のアクセスキーを取り戻しに行かなければならない。ついでだ、とアギトは思った。自身に言い聞かせた。

「気にするな。どちらにせよ、俺もアマゾネス部隊には用事がある」

 アギトの当初の目的はガンマにて、アクセスキー所有者の仲間を探す、という事だった。アギトは今、眼前にその彼女を捉えている。一時の目的は達成された。次は、次に浮かんだ問題を片付けるべきだ。それに、アクセスキー奪還は最優先事項だといってもよい。

「いいの?」

「あぁ、任せろ」

 嘆願する様なエルダの目を見下ろして、アギトは僅かに口角を吊り上げて笑みを浮かべ、首肯した。

「だが、まずは武器がいる」

 話しを進めて、切り替えて、紅茶を一口。そんなアギトの言葉で気付いたのか、エルダが問う。

「そういえば……さっきの戦いでもアマゾネス部隊支給のサーベルを使ってたけど……。君のアクセスキーは?」

 言葉にアギトは返す。あれやこれやとガンマに到着してからの事を話すと、エルダは「あぁー」と短い唸り声と共に相槌を打って、納得してくれた様だ。して、呆れた様に言う。

「成る程ね……、まぁ、ありえる話だね」

「何か事情がありそうだな?」

 眉を顰めて詰め寄るように迫るアギトにエルダは頷いて応える。

「私のアクセスキーは幹部のスカーネフに奪われた。当然、アクセスキーの強大な力をアマゾネス部隊リーダーのホープは使役しようとした。ホープはスカーネフに命じてアクセスキーを奪った。でも、スカーネフは渡さなかった。アクセスキーそのものをネタにして抵抗した。だから、内戦、にまでは至らないけど『仲が悪くて』ね。ホープもまた、アクセスキーが欲しかったの。丁度、そこに、君が現れて……」

「成る程。アクセスキーの力も厄介なような気がしてきた」

 アギトはフレギオールとの一件を思い出しながら、そんな事を呟いた。

 すぐに切り替えて、アギトは進める。

「じゃあ、折角だし、アマゾネス部隊の事、アジトの事、知ってる事全て教えてくれ」




   10




「今度こそ、使えるだろうな」

 ホープはアマゾネス部隊のアジト最深部に控える自室で、豪華な装飾を施された王族が使うような椅子に腰掛け、アギトのアクセスキーを携えて、眺めながら吐き出した。側近として仕える一人のアマゾネス部隊の人間、ローブを纏って表情から素肌まで全部隠した長身の人物――エルモアに視線を投げる。

「それは、貴女次第かと、ホープ」

 静かな返事が返される。

「して、この柄状のアクセスキー……、どうして使えば良いのか……」

 ホープは手中に収めるアクセスキーを眺めながら吐息を漏らした。アギトのアクセスキーは柄状である。ホープの知るアクセスキーは武器の形を取っていた。が、今手中にあるそれはどうみても、武器になりえない。純白のその姿と、纏う雰囲気からこれをアクセスキーとしてホープは判断したが、こうやって見ていると、そうではない様な気までしてきてしまう。

「使い方が分からなければ、スカーネフも抑えられないというのに」

「そうですね」

 そのままホープは何度かアクセスキーを振るってみたり、叩いたり、様々なアクションを起こしてどうにかアクセスキーの力を確認しようとするが、どうにも反応はない。そんなアクセスキーをどうにかしようと、ホープは席を立つ。

 側近のエルモアを引き連れて、ホープは懐にアクセスキーを隠して部屋を出る。と、出て、広がった通路のすぐそこで、二つの影と正面を向き合わせた。ホープの足は自然と止まる。して、ホープの表情は歪に歪み、忌々しげに吐き出す。

「スカーネフ……」

 ホープの眼前に佇むはスカーネフだ。エルダのアクセスキーを奪い、その力を脅しと使ってアマゾネス部隊の中核に居座り続けるいかんせん納得のいかない存在である。かといってスカーネフはホープの地位を代わろうとはしない。何故なのか、理解は出来ないが、アマゾネス部隊の中で狼藉を働いているのも同然であるのは確かだ。

 比較的長身ながらホープと同じ程度の身長。スラッとしたアマゾネス部隊に良く見られる細身のスタイル。表情は凛々しく、ガンマ全体に見られる欧州風の顔立ち。バンダナをキャップにして頭、前を斜めに下ろして左目を隠している。バンダナの中から伸びる長い黒髪はどことなく海賊らしさを感じさせた。

 そんなスカーネフは悪徳の笑みを浮かべて、口角の端を吊り上げる。

「やあ、ホープ」

「なんだ。嘲りおって……」

 スカーネフの皮肉めいた表情にホープは苛立ちを隠せない。眉を顰めて糸切り歯を剥き出しにする。

 スカーネフの横、一歩下がった場所にはスカーネフの側近の護衛がいる。護衛はホープに遣うエルモアと同様、フーディローブで全身を隠していて、その全貌は定かではない。

 ホープとスカーネフの間で不可視の火花を散らしているのと同様、エルモアとその護衛――アイリンの間でも同様に火花が散らされていた。

 そんな悪い雰囲気の中で、スカーネフが一歩詰め寄り、ホープの表情を覗き込んで言う。

「なんか、聞いたよ。『鍵』を手に入れたってね?」

 して、皮肉めいた笑みを浮かべるスカーネフ。どうやら、アギトからアクセスキーを奪ったこと、そして、その使用方法を得ていないこと、どちらもスカーネフは把握しているらしい。得意げな笑みがそれを物語り、ホープにまで伝えていた。

 察したホープは苦渋を噛み締めながらも抵抗を見せる。

「貴様には関係のない事だ」

「そうかな? お互いアクセスキー所有者だよね」

 言って、スカーネフはタイトな鎧を飾る腰にぶら下げたバンダナの下で腰にぶら下げたアクセスキーを手に持つ。示す。それは、斧だ。だが、余りにも小さな斧。ハンドアックスと言っても小さいカテゴリーに分類される斧である。柄は五○センチ程しかなく、その上にギロチン刃の様な刃が付属している。一瞥するなれば何の力もないようなアクセスキーであるが、それはアクセスキーに変わりない。強大なスキル、力を持っているのだ。そして、当然、エラーを開閉出来る力も。

 

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