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5.理想郷へ―7


 ホテル一階の一角のスペースを領する巨大な高級レストランにアギトは一人入店する。場違いな服装に場違いな人数。状態で入店したからか、僅かながら周りの視線を集めてしまい、アギトは少しばかり航海する。だが、ホテルにチェックインした時点でこのレストランを使う権利が発生しており、誰も文句は言えなかった。フロントの綺麗なお姉さんに導かれ、アギトはレストランの隅の席に案内され、腰を落ち着かせる。

 外の景色を映し出す巨大な窓の側の席だ。アギトは二人用の席に一人で腰を落ち着かせると、適当にオーダーをし、肘を付いて退屈そうに外を眺めて料理を待った。

 料理を待って暫くの時間が経過した時だった。それは長く感じたがたった数分の事で、料理が運ばれてこないのには納得がいく。そんな時間、そんな時、アギトは見つけた。

「ん?」

 思わずその瞬間には、アギト自身、自分の視力を疑ってしまった。アギトが見たのは、道行く人ごみの中を縫う様にして歩く――赤毛の少年の姿だった。

「…………、こんな簡単に見つかるとはよ」

 口内にそんな言葉を溶かしてアギトは早々に席を立った。

「お客様?」

 丁度料理を運んできた店員が不思議そうに、また、軽蔑するかの様な視線を載せてアギトの様子を一歩下がった場所で伺ってきた。そんな店員等気にもならないのか、アギトはコートの内ポケットから財布を出すと、適当に札束をテーブルの上に放って、

「すまないな。急用が出来たから料理は食えない」

 言って、そそくさとレストランから去った。周りはアギトのその行為、そして、置いていった札束の金額に騒然とした。札束を手に取った店員の手は震えている。当然だ。アギトは元老院から給与として多額の金額を貰っているのだから。




「おい。坊主」

 人混みを掻き分けながら、大勢に迷惑を掛けているな、と心の隅で思いながらアギトは進み、やっと、赤毛の少年に追いついたのだった。先を急ごうとする赤毛の少年の肩に手を置いて引きとめ、アギトはやっと安堵する。

「んん?」

 僅かに驚きながらも、赤毛の少年は素直に振り向いて、アギトを見上げた。

「何?」

「ルヴィディア、知ってるか!?」

 ハーフの様な綺麗な顔立ちをした少年の問いにアギトは早急に返した。問い掛ける言葉を事前に決めていたかの様な、素早さだったと言えよう。

 そんなアギトの切羽詰まった緊張を察したのか、少年は首をかしげながらも応える。

「……なんで、その名前を、」

 言った少年はすぐに目を見開き、驚愕の表情を見せた。まさかその名前を聞くとは、そうとでも言いたげな表情だった事にアギトはピンと来た。して、早速話しを進めてやろうと僅かに興奮しながらアギトは問う。

「俺はルヴィディアの知り合いだ。共通の知人から君の存在を聞いて、偶然見つけたから声をかけた」

 興奮しているせいなのか、アギトは自身で言いながら訳の分からない事を吐き出した。ポーカーフェイスでそれは隠されるが、少年からすればそれは変人にしか見えない。

 だが、少年はハッと何かを思い出したかの様に表情を改めて、

「もしかして……、アギト?」

 眼前の彼の名前を、呟いた。

 アギトはそれに対して僅かに面くらいつつも、しっかりとした態度で応える。

「そうだ。俺がアギトだ。……ルヴィディアから、聞いてるか?」

 アギトの問い掛けに少年はその赤毛を揺らしながら首肯する。まだあどけなさの残るその姿は大変に可愛らしかった。つい頭を撫でたくなる様な、そんな少年。

 少年は顔を上げて、そのビー玉の様なくりくりした丸い目でアギトの無表情に近すぎる厳つい目を見返して、静かに返す。

「昔の……『友人』だって、言ってた」

「そ、そうか……」

 ルヴィディアの言葉に何故か微妙な、機微な反応を見せるアギト。それに気付いた少年が「どうかしたの?」と問うが、アギトは首を横に振って「なんでもない」と応えた。すると誰もアギトには追及できなくなる。

「飯でも食いながら話さないか? 金の心配はしなくていい」

 場所を変えようとアギトは提案する。と、急いでいた様子だが少年は時間を持余しているのか、アギトのその提案に素直に頷いて返したのだった。

 そうして二人は場所を移動する。アギトはせっかくの情報源だ。と、少しばかり、少年には持余すであろう高いレストランへと向かったのだった。

 ――するとやはり、珍獣を見るかの様な視線を浴びての入店となったが、高揚した気分でいるアギトにはそんな事は気になりやしなかった。一方で少年はそんな視線と慣れない場所へと来たからか、落ち着きない様子で辺りをキョロキョロと見回していた。

 正装に身を包んだ店員に案内され、アギトと少年はレストランの奥の方の席へと案内される。腰を落ち着かせ、向かい合うようにして座った少年とアギト。店員から受け取ったメニューを少年の眼下に広げてやり、「好きなモン頼んでいいぞ」と言って、少年の反応を待った。食べながらでも、話しを進めればいいだろう。そう思ったのだ。

 少年はアギトの言葉に甘える事に決めたのか、それとも興奮して頭が上手く回っていないのか、表情を真っ赤にしながら眼下に広げられたメニューを舐める様にして眺めていたのだった。

 暫くして少年と朝ご飯を逃したアギトが注文を決め、食事が運ばれてきたその時点でアギトは少年に話しかけることにした。

「今更だが……名前を聞いていいか?」

「知ってるんじゃないの?」

「いや、赤毛の少年で、アルカディアにいるって事しか知らなくてな。正直見つけられたのも運が良かったとしか言えない」

「……ヴァイド」

「ヴァイド、か」

 言ったアギトは彼の名前にルヴィディアの面影を感じながらも、アギトは特別気にせず話しを進めるのだった。

「ところで、だ。ヴァイド。ルヴィディアとはどういう関係なんだ……?」

 そして早急に、アギトは本題へと映る。

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