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4.未来―6


 そんなミライの様子に気付いてか、フレミアは僅かに笑んでみせた。幼子を相手する大人が見せるソレの様な、笑みだった。

「ありがとう」一言置いてから、「私はフレミア。それを、」ミライの部屋の隅に立てかけられた純白の杖――アクセスキーを視線で指し示して、「作った人間なの」

「そうなん、ですかぁ」

 アクセスキーとフレミアと視線を交互にやりながら、ミライは心からの関心を見せて感銘の溜息を吐き出した。

 そんなミライは決してフレミアを疑わなかった。突如として眼前に現れ、アクセスキーなんて危険なモノの事を知っていようが、それでも、フレミアのその独特の雰囲気を察して、自然に感じて、感じ取って、ミライはただフレミアの言葉を受け入れた。当然それは『当たり』で、特別どうこういう結果を残す事にはならないのだが。

「じゃあ、どうして、ここに?」

「それはね、」

 フレミアは微笑む。それはもう、アギト達の前では絶対に出さないような、最高の、彼女らしい笑みだった。

「貴女がアクセスキーを持ったから、確認しにきたの」

「確認?」

 ミライは不思議そうに首を傾げた。

「そう、確認」フレミアは首肯して、「貴女が、どんな人間なのか、ね」

「どんな人間……?」

 相変わらず首を傾げたままのミライにフレミアは「フフッ」と笑って、ミライに笑みを向けたまま、儚げに、「まぁ、何も心配は要らないみたいだね」

 言ったフレミアはその言葉を終えた瞬間から身体を空気中に――光の粒子へと変換して――溶け始めた。

「あ、」

 ミライは言葉を詰まらせた。眼前のその光景を見詰めるも、止める方法を見つける事はならないし、なにより止める理由がない。ただ、眼前で消えていくフレミアのその姿をただ呆然と見る事しか叶わない。

「『またね』」

「え、あ。うん……」

 最後に見たのはフレミアの儚すぎる表情だった。笑みであり、悲しみであり、何かを言いたげであり、そんな、様々な意味を込めた、そんな表情だった。




 気付けば、ミライは走りだしていた。

 ゲンゾウ、仲間達に見送られてからも、その小さな身体に鞭打って走り出したのだった。

 何故か。それは、――ミライ自身がアギト達に付いていこうと決心したからである。

 当然、反対する者もいた。ミライの手にはアクセスキーがあり、エラーを閉じる事ができる。それは、これからベータにエラーが出現してもある程度の保身が出来ていた。だが、それがなくなってしまうというのだ。反対する者がいても不思議ではないし、ミライ自身も発展途上の頭脳でそれを危惧していた。だから、ミライはアクセスキーをゲンゾウに托した。托して、走り出した。ゲンゾウは「いらない、持って行け」と拒んだ。行くことは止めず、アクセスキーは持って行けというゲンゾウの考えは『まだ』ミライには理解が及ばなかった。

 だが、ミライは托した。例えそれがバカな行為だと言われようと、アギト達に追いついた時にアギトに嫌がられようと、それが責任だと感じたからだ。

 ゲンゾウにアクセスキーを押し付けて、ミライは走り出した。駆け出した。こんなに走った事があるだろうか、それは、ミライ自身でなく、その姿を見た第三者もそう思うだろう。思っただろう。

 ミライは襤褸を纏っている。それでも、それはアルゴズム派レジスタンスの仲間があるモノで最大限に作ってくれたモノであり、脱ぎ払う気はない。装備は数日分の食料、小型のナイフ等が入った白い布袋一つ。なんとも心もとない装備である。が、ミライは特別気にしてはいない。

 だから、疾駆する。

(うん。大丈夫。アギト達はガンマに行く、って行ってたし……。ガンマまで行けば、きっと、なんとか、なる)

 ミライは、アギトと、アヤナと、その二人の、『お手伝い』がしたい。と思ったのだった。

 


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