表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/169

4.未来―4


 ミライはそのまま、アギト達が見えなくなるまでそうした。して、彼等を追いかけてしまいたいという気持ちを無言のままに押さえ込んで、そうした。

 やがて、アギトとアヤナの姿が見えなくなる。猥雑とした景色の中に消え去った彼等を三人は然り、見送ったのだった。

「行ってしまったな。短い間ではあったが素晴らしい仲間だったと思う」

「そうだな」

「うん」

 三人は一言二言交わした時点で無言を作る。静謐な空間がアーケード街の中に浸透する。周りで商売をしている人間も、偶然そこに居た人間も、皆、アギト達を秘かに見送っていたのだ。だから、だからこそ、この場は静寂を生んだ。仲間を見送った、家族を見送ったような、そんな和やかな雰囲気。

「これから、頑張らなくちゃ、ね」

 静かに、その手に握り締めたアクセスキーの感触を確かめながら、ミライは呟いた。




   7




 ミライは眼前で両親を失った。

 自身も泣き叫び、喚き、驚愕し、恐れ慄き、旋律し、焦燥に狩られ、理解すら出来なかった。冷静さを失ったミライはその瞬間の記憶を鮮明に脳裏に焼き付けながらも、その当時の記憶を曖昧にしか思い出せないでいた。

 何か、声が聞こえた。何か、悲鳴が聞こえた。何か、おぞましき雄叫びが響いた。

「アルゴズム! 貴様の独裁政治はこの瞬間に終焉の幕を下ろすだろう!」

 フレギオールは怒声と共に、エラーから出現させたバケモノを連れて現れた。物陰に身を潜めていたミライはその光景を身を震わしながら見ていたかと思う。観葉植物の葉の隙間から覗かせたミライの大きな目は確かに光景を見た。記憶した。だがそこに、はっきりとした、明瞭な意識、自我はなかった。ただ、恐れ、身を震わして見つからない事だけを祈っていたのだから。

 ベータの王であるアルゴズムの自室は巨大だ。その巨大な空間を、たった一跳びで部屋の奥まで着き、王妃を食らった。

 悲鳴が上がった。

 王妃の白い肌は一瞬にして噛み千切られ、噴水の様に鮮血を撒き散らしながら――消滅していく。紫に淀んだ光の粒子となって、死んだのだ。ミライはそこで理解は出来なかった。今やその景色はハッキリと思い出せないのだから。

 続いて、フレギオールが純白に輝く、場違いな杖を翳してバケモノを引かせ、自身の手でアルゴズムへと迫った。

「貴様……その腐った宗教思考を世にばら撒く事がそんなに重要な事だと言うか!?」

「腐った独裁政治よりましであるぞ」

「言いがかりも甚だしい! 独裁政治などしていないではないか!」

「では何故、我が組織を追いやる!?」

「危険だからだ! 大衆を騙し、金銭をせびり取り、思考を支配するその横暴さはベータの危険にも値する!」

「それこそ甚だしい! 貴様の一方的な考えで俺を潰すとは、余程の欺瞞を持っていると伺う」

「ッ!! ……いい加減にッ、」

 言葉は最後まで続かなかった。フレギオールの杖がアルゴズムの咽喉を貫いた。して、数秒の静止を挟んでそれは引き抜かれる。杖という支えを失ったアルゴズムはそのまま力なく倒れる。その、倒れる一瞬、そのたった一瞬だけ、アルゴズムとミライは視線を重ねた。

「、」

 声は出なかった。互いに。

 数秒の時間を要さずにアルゴズムは完全に力を失った。仰向けに倒れたかと思うと、頭上で不気味に笑むフレギオールを睨み、声にならない声で何かを吐き出しながら――消滅し始めた。紫色に淀んだ粒子となって、空気中に溶けてしまうかの如く。

 その場で、運良くフレギオールもバケモノもミライの存在には気づかなかった。アルゴズムを殺した事で満足でもしたのか、フレギオールは侮蔑する様な高笑いを巨大な部屋に響かせた後、バケモノを引き連れたまま部屋を後にした。

「そん、な……」

 物陰から這い出てきたミライは呆然とするしかなかった。ただ、両親が消え去った跡を視線でなぞり、確かに存在した両親を記憶で補完する事しか。

 そうして永遠に呆然としていたミライを救ったのが、ゲンゾウだ。フレギオールの狼藉を知って、アルゴズムの身を案じ、駆けつけたのだ。当然――間に合いはしなかったのだが。

「ミライ!」

 ゲンゾウはミライを呼んだ。だが、反応はなかった。まるで魂を抜かれたように、巨大な部屋の中心でただ座るミライの姿は目も当てれない程に憔悴しきっていた。目は虚ろで、生気が全く感じられないその姿はエラー出現まで『死』という概念がなかったディヴァイドでさえソレを感じさせる程に恐ろしい姿だった。

 ゲンゾウはそんなミライに恐れまで感じながらも、すぐに我を取り戻してミライの下へと駆け寄った。して、抱き抱えてやる。まるで、赤子を抱きかかえるように。すると、やっと、ミライは人間に戻った。

 声は殺しながらも、ゲンゾウの胸元にしっかりと抱きつき、溢れんばかりに涙を流した。部屋にはそんなミライの泣き声だけが響く。最初こそ声を殺していたが、それはやがて漏れ出す。わんわんと喚くような声がやたらと響いたのだった。

(アルゴズム、そして、フレギオールよ……。どうしてこうなったのか)

 ゲンゾウは部屋を出る一歩手前で首だけ振り返り、どこも荒れていないながら人が殺された現場を見ながら、二人の事を思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ