4.未来
4.未来
「くっそう! これじゃキリがない!」
「アギトさん、アヤナさん、早くしてくれ……っ!」
「っ、ダメだ……。数が多すぎる!」
「こっちに衛生兵! こっちに回ってきてくれ!」
ベータの東部。フレギオール派とアルゴズム派、レジスタンスの派閥がぶつかるそこで、アルゴズム派レジスタンスは追いやられていた。エラーから出現したバケモノを相手にして既に幾時間が過ぎ去った。人を『殺す』事の出来るエラーから出現するバケモノはアルゴズム派の人員を次々と葬っていった。その数はレジスタンスの半数にも上る。
ゲンゾウもアギト達に習って戦場へと出ていた。そして、何故なのか、ミライまでも出ている。当然ミライの出撃にはゲンゾウ含めたミライの仲間全員が反対をしたが、我儘を通してミライは戦場へと出た。ミライのカバーは当然付いている。
だが、限界も近づいてきた。当然だ。半数にまで数を減らされて手薄にならないはずがない。もとより、レジスタンスは手薄であり、更に、アギトに幹部格を――故意ではないにせよ――殺されてしまったため、戦力はフルと呼べる程ですらなかったのだ。そんな状態のレジスタンスに、ミライを完全に守りきる力は当然なかった。
「きゃああああああああああああああああああああああああああ!!」
ミライの悲鳴が上がる。
ミライを決めて守っていた護衛の合間を抜けて狼の姿を取った俊敏なバケモノがミライへと迫ったのだ。牙を剥き出しにして、ミライの首筋狙って飛び込んできた。
衝突する。バケモノの剥き出しになった牙がミライの首筋に触れる。うっすらと血が滲み、溢れ―ー出そうとしたその瞬間。牙がミライの真っ白な肌に突き刺さるその瞬間。バケモノは、消滅した。まるで、どこかへと還元されるかの如く、細かな光の粒子となってどこかへと立ち上って、消えて行った。
「……へ、」
ミライはその光景に一瞬気付けず、間抜けな面を晒して辺りを一瞥してしまった。すると気付く。周りに跋扈していた無数のバケモノ共全てが、消失していく光景に。
バケモノの中に混ざって活躍していたフレギオール派の配下の連中もその様子に気付いて、手を止める。辺りをキョロキョロと見渡して、事の様子を確認している様だ。そして、数秒の時間を要して気付く。
「う、うぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
して、次に悲鳴を上げたのはフレギオール派の連中。その渦中で、その悲鳴を裂く様にしてアルゴズム派、レジスタンスの歓声が上がる。その言葉の全ては「アギト達がやったぞ」という賞賛の言葉だ。
「……アギトさん達……、フレギオールを、倒したの……?」
ミライは一人、歓声の中で声を漏らす。
自身の両親の仇討ちを、アギト達がしてくれたんだ。という湧かない実感をひしひしと、少しずつ体感している感情を表現する呟き。そして、アギト達に助けられたんだ、という感謝の兆し。祥瑞だった。いや、この時点で既に幸せに足を踏み入れていた。
ベータ内戦。ベータの中で起こった宗教団体による実力支配と、それに抵抗するレジスタンスの戦いが、今、この瞬間終わったのだという体験。
「や、……った。やった! やったぁ!」
気付けばミライも湧き上がる歓声の中に溶け込んでいた。
して歓声はより大きくなり、ベータ中に浸透するように広がっていったのだった。
「重い」
アヤナは一人、疲弊しきったような表情で呟いた。
「悪いな。装備と筋肉の重さだと思ってくれ」
そのすぐ横でアギトの声がする。アギトはズタボロの状態で、アヤナに肩を借りてやっと歩ける。という姿なのだ。仕方なく、アギトはアヤナの小さな身体に頼って足を進めているのだ。
暫く歩くと、僻遠の彼方から、空間に浸透する様な無数の歓声が聞こえていた。
「お、……あっちも終わったみたい、だな……」
アヤナの横からアギトの憔悴した言葉が漏れる。それは憔悴しているとは言っても、内に活力が秘められている生きた言葉だ。
それを察したアヤナは一人満足げに、秘匿に笑むと、
「アンタのお陰よ。あんな歓声が上がるのはね」
「フン。そうかよ……」
わざと素っ気無い態度でアギトは言うが、アヤナはその内に秘められた感情に気付く。
「フフッ……。まぁ、向こうと合流したら気付くわよ」
「聞こえないように言ってくれ」
そうしてアヤナはアギトを担ぐようにして歩いて、進んだ。そうして一時間近く掛けてアギト達はやっと、ゲンゾウやクロム、そしてミライが祭りの様に騒ぎ立てる現場へと辿り着いたのだった。見えてきた数は最初に見た半数以下だった。だが、綺麗事を言っていられる状況でない事はアヤナでさえ分かっている。
歓声は止まない。
「アギト君!」
「クロムさん!」
して、全員は再び巡り会った。今度は危機を乗り越えたその後。悲壮よりも歓喜上がるこの現場でだ。




