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3.永久の名を謳う規律―19

 考えると、吐き気がしてきた。生きた人間を自身のために犠牲にする。殺されると、分かっていながら。

(くそったれが、フレギオール……)

 かと言って、アギトがその手を止める事は出来ない。武器はアクセスキーであり、防具はアクセスキーである。その手を止めれば、エラーは世界に跋扈する。

 自身の周りで光の粒子と紫色の粒子が舞い上がる光景はそんなアギトを脅すかの様だった。

 浮かんでくる嫌な気持ちを振り払い、アギトは、

「とにかく、進もう。とっとと終わらせないとゲンゾウ達が被害を被る」

「そうだね。急ごう」

 して、アギト達は先を急いだ。道中襲い掛かる兵士達を薙ぎ払いながら、監視カメラの存在をアギトが見つけ、それを辿った。道中でエラーから出てくるバケモノが全く襲ってこなかった事は疑問に思ったが、フレギオールが力を蓄えているのだと予測したら納得がいった。

 暫く、数十分の時間を要してやっと、アギト達はフレギオールがいるであろう場所へと辿り着いた。白の最深部、二人の眼前には屈強で、且つ豪華な装飾が施された巨大な扉だ。

 アギトは一瞥だけアヤナへと送って覚悟を確認した後、視線を扉へと戻して、蹴破った。アギトの強力によって容易く蹴破られた。引きずる様な重々しい音と共に巨大な扉は両開きで開かれ、アギト達にその先の光景を映し出した。

 それは、漆黒の斑点紋様だった。

 巨大な空間の最深部にフレギオールの姿がある。その手には当然の如く杖状のアクセスキーが握られていて、フレギオールは佇んでいる。その姿を照らすのは高い天井に数多く、規則的に配置された豪華なシャンデリアやライト。そして、エラーだ。

 フレギオールの守りを固めるかの如く、エラーが、無数のエラーが渦巻き、部屋の奥に、天井から床、壁を埋め尽くすかの如く存在している。そして、その真下、真ん中に居るのがフレギオールだ。

 戦慄した。アギトもアヤナも、同時にこれだけの数のエラーを目の当たりになんかした事はなく、ただ、驚愕し、戦慄し、恐れ慄いた。

「来たか……」

 フレギオールはその格を存在で示すかの如く、荘厳な雰囲気を醸し出して顔を上げた。

 杖を足にして三足で立つ。その姿は、ボス、まさにそれだった。周りを埋めるエラーがその迫力を示すかの如く加速する。

 存在こそフレギオール一人だとしても、その力はエラーの数以上に増す。対して、アギト達は体力を消耗した姿でたった二人。とてもじゃないが、対峙出来るとは思えなかった。だが、アギトは今まで、巨大な、異常な程巨大なエラーから出現したバケモノを倒してきた手足れである。それに、ここまで来て身を引く訳がない。

「あぁ、来てやったぜ。お前を倒すためだけにな」

「そうよ! さっさと終わらせてやるんだから!」

 二人の言葉に、フレギオールは嘲笑で返した。

「これだけの数のエラーを見て尚、その減らず口が叩けるのは素晴らしく評価してやる。だが、」

 して、始まった。フレギオールが杖を振るうと、エラーの渦巻く速度が急加速した。同時、それぞれアクセスキーを構えたアギトとアヤナも疾駆。真正面からフレギオールへと突っ込む。

「避けられるまいて!」

 フレギオールの怒声の直後、エラー、ありとあらゆる弧の場に存在する全てのエラーから、バケモノが吐き出された。エラーのサイズは小さい。大きいモノであっても直径二メートル程で、そこから出てくるバケモノのサイズも限られてくる。が、数が多い。数百は居ようかとバケモノ共は群れになってアギト達に降りかかった。

「チィッ!」

 アギトは忌々しげに舌打ちし、アクセスキーを二刀流へと変える。その横で、アヤナが鎌を携えて叫ぶ。

「アギトはフレギオールを目指しなさい! アタシがなんとか雑魚の相手をしてみるから!」

 出来るか、とアギトは一瞬心中で思った。だが、

「分かった」

 首肯した。今はフレギオールの対峙が最優先である。して、アギトは疾駆した。アヤナに後方を任し、アギトは全力で前進した。時折流れて降り掛かってくるバケモノ共を二刀流で薙ぎ払いながら進み、不気味に面を構えるフレギオールへと衝突する。

 衝突する寸前で、アギトはアクセスキーをクレイモアへと変化させ、その重量を乗せてフレギオールへとぶつかった。それを両手で構える杖で受けるフレギオール。衝撃が拡散し、部屋の中を、そして、城そのものを激しく揺さぶった。

「なる程なぁ……。スキルはマルチウェポンというわけか……」

 押し合いの中で、フレギオールは吐いた。

「そういう事だッ!!」

 クレイモアの重量を追加したアギトの強烈な一撃は、アギトと張り合うだけの力を持っているフレギオールをも圧した。アギトが前のめりになり、フレギオールは上体を逸らす。

 暫くその競り合いが続いて――フレギオールが杖を振るい、弾いた。して、二人の間には距離が生み出される。その一瞬の間にアギトはアクセスキーを柄状に変化させ、レーザーを飛ばしてエラーを一つ閉じた。して、体勢を直すと同時にアクセスキーを節剣へと変える。

 足に力を入れ、後方に跳んだ勢いを遮断。そして、アクセスキーを振るう。右から左に振るわれた節剣はその刀身を伸ばし、一○メートル程の刃の鞭となって大げさな横一閃でフレギオールに襲いかかった。

 フレギオールはその強烈な攻撃に眉を潜め――真上に跳んだ。それによって横一閃からは逃れる事が出来た。だが、その行く先には自身で配置した無数のエラーが待ち構えている。

「バカが! 頭上にはエラーだっての!」

 アギトが吼える。だが、フレギオールは大した反応を見せなかった。言われずとも分かる、そうとでも言いたげに、余裕の姿勢を崩さない。

 して、フレギオールはそのまま頭上に渦巻くエラーの中へと、呑まれた。

 だが、終わるわけがなかった。エラーへと人間が呑まれて、無事なはずがない。アギトはそう思っていた。結果は、真実は知らない。だが、そうなると容易く予想できた。だが、結果は予想外の姿を見せる。

 フレギオールが進入したエラーとは全く別のエラーから、フレギオールが姿を覗かしたのだ。

「何ィ!?」

 流石のアギトもその光景には面くらい、一瞬だが隙を生んで怯んでしまった。そこに、エラーから勢い良く飛び出してきたフレギオールの蹴りが突っ込まれる。首元にそれを受けたアギトは情けなくも大きく後方へと転がった。

「ぐっ、あぁ……っ」

「俺はアクセスキーを手にしてからずっとエラーを作り出してきたエラーのスペシャリストである。エラー同士を繋げて移動手段にするくらい容易いわ」

「ッ、くっそ……」

 まだ一撃貰っただけだ。首を握り潰すような痛みに耐えながら、アギトは立ち上がる。節剣の刀身を引っ張るようにして柄に収め、振り、次はクレイモアへと戻す。

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