表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/169

3.永久の名を謳う規律―18

 どうしたんだこいつ、とアギトは思った。珍しく素直な感想を述べるアヤナはアギトの予想したアヤナの性格とは若干のズレを見せる。アヤナはもっと、何事にも素直じゃないような、そんな悪戯な女だとアギトは思っていた。それだけに、アギトが感じる照れも膨れ上がり安かった。

 あくまで冷静を装い、

「褒めても何もでねぇからな」

 歩みを進める。その横に小走りで並んで、アヤナは『まだ』続ける。

「そうでもないわよ」言って、微笑んだ。それを感じ取って歩みを止めたアギトは隣のアヤナを見下ろす。

「何言ってんだ、お前」

「ふふん。いずれ感謝するわよん」

 何故なのか楽しそうに言って、アヤナはアギトの歩みを進めさせた。

 門を越えると暫く広大な敷地が続いた。城の入り口まで伸びる一本道がそこに敷かれていて、アギト達は辺りを警戒しながらそこを進む。特別装飾があるわけでもなく、そこの視界は広い。敵が近づいてくればすぐにでも気付けそうで、アギト達は僅かに気を抜いてもいた。精神的な安らぎにもなった。

 して、休息を得た二人は城の足元にまで到達した。見上げる程の巨大な扉を蹴破ると、見えてきたのは豪華絢爛な装飾のなされたエントランスホールだ。して、そこに犇くフレギオール派の連中。様々な鎧で身を固め、腰や背中に剣を構えた兵士達。それは待ち構えていたと言わんばかりにアギト達へと視線を集中させ、武器を構え始める。意外にも作戦を立てているのか、前方には剣を強化するタイプのスキルを持った連中が集まり、後方には補助やら遠距離のスキルを持つ剣を掲げる連中が固まっている。

 アギトとアヤナは互いに見合った。して、一瞬の後には動き出す。

 アヤナの手には巨大な鎌のアクセスキー。前方真正面から突っ込んで来たアヤナに殆どの視線は集中する。と、同時、その背後でアギトがアクセスキーを節剣へと変化させ、連中の頭上へとその刀身を伸ばした。ジャキジャキと音をたてながらそれはあっという間に伸び、それは連中の遥か頭上に飾られた、巨大なシャンデリアを支える天井から伸びる支柱へと向かった。突き刺さり、突き抜ける。切断され、支えを失ったシャンデリアはあっという間に落ち――連中を踏み潰した。

 僅かに、悲鳴が上がり、生命を消失した連中は光の粒子となって空気に溶ける様に消失する。が、これは死ではない。時間が経てば現実世界の機械共の操作によって復活させられ、リポップさせられる。だからか、数こそ減れど連中は怯まない。

 剣に様々な物を宿した連中が一斉にアヤナへと迫ってくる。

 アヤナは数の迫力に僅かに気圧されながらも、大きな刃で一刀両断。その破壊力と速度に対応出来る兵士はそこには存在しなかった。一瞬にして薙ぎ払われる戦士達。上半身と下半身を真っ二つにされ、光の粒子となってシャンデリアの後を追うようにして消滅する。

 そうして切り開かれた道。そこに、アギトが疾駆し、突っ込んだ。手には二刀流の刀。降りかかる剣のスキル。無数のそれは他者を補助しつつ、自身の力を上げてアギトへと迫り来る。

 気付けば、アヤナがアギトの一歩前に出ていた。鎌を両手で振るい、アギトの補助をしようとした。炎を剣に宿した連中とアヤナの鎌は打ち合い、衝撃で炎が吹き荒れ、アヤナを追い越して、背後のアギトを追い越して開けるように吹き荒れた。その炎の壁を掻っ切るのがアギトの両手の刀である。斜の一閃を入れられた炎は断ち切られる。発生源のみに押し止められた炎を越えて、アギトは飛躍する。跳んだアギトは上空でアクセスキーを僅かに振るって、クレイモアへと変える。して、着地。両手で構えたクレイモアを振るう。破壊力のある薙ぎは兵士達の構えを崩す。

(こいつら……戦闘慣れしてねぇな)

 眼前のその光景でアギトは思った。フレギオールの身を固めるこの連中は、格好こそ兵士の姿であれ、実力を伴っていない。フレギオールのアクセスキーによる力で支配をし、数頭そろえるためだけにこうやって兵士になったが故の失敗だろうか。

 だが、そこまで考えて気付く。今、自身の攻撃によって紫色の粒子となって葬りさられる兵士達は、何故、戦場に出ているのか。

 考えずとも、先の遭遇から気付くべきだった。

 フレギオールがアクセスキーでエラーを開き、そこからバケモノを生み出して、敵を識別させて襲わせる事が出来るのに――何故。人間が必要ではない環境のはずなのに、何故。

(何故だ?)

 眼前で怯んだ敵を一人屠り、アギトは次の敵と向き合って思案した。眼前に迫る敵兵は兜の下に隠したその表情をどう歪めているのか。気になってしかたがなかった。

 ――する事で、その敵が自分の一撃で『死んで』しまう事に対して、億劫になってしまった。

 アギトの手が止まる。

(どうしてだ。……。死ぬ必要があるのか。なんでこいつらは戦場に出る……!? 兵士でもねぇくせによ!)

 アギトに迫った敵兵をアヤナがカバーして始末した。振り替えらずにアヤナは叫ぶ。

「何ボーっとしてるのよ!」

 叫ぶだけ叫ぶと、アヤナはすぐに次の手に回った。

 未だ面食らったように目を見開くアギトは言葉で僅かに自我を取り戻す。すぐにクレイモアを握る手に力を込めて、立ち向かう。して、一閃。視界の隅で紫色に淀んだ粒子へと変換される敵兵を見ながら、アギトはそれでも立ち向かう。

 そうして、数分の時間戦い通した。最後の一人を屠り、数を減らして落ち着けた事でアギトはやっと気付く。

(監視カメラ……)

 アギトがアクセスキーを腰に戻して視線を上げた先に、何かの『気配』。それは、不可視であり、ただ、設定されてそこに『ある』と過程された存在。電脳世界ディヴァイドのソースコードの隙間に埋め込まれたシステムである。アギトの思考通りそれは、監視カメラだ。見る事は叶わないが、確かにそこに存在する。アギトの気配を察知する能力あってこそ、見つける事が出来たのだ。

 監視カメラは空気中を移動し、そこか通路の先へと消えて行った。それをアギトは視線で追い、見えなくなるまで辿った。

 気付いたアヤナがアクセスキーを消してアギトに近づく。

「何?」

「監視カメラだ。恐らくは覗いてたんだろうな」

 言いながら、アギトは気付いた。

「え、何!? アンタ監視カメラにも気付けちゃうの!? それって相当スゴイわよ? 誇ればいいのに」

 隣で喚くように言葉を並べるアヤナを無視して、アギトは一人思う。

(知性のよりある人間をぶつけて、俺とアヤナの戦い方を見て、今のうちにでも対策を練るつもりだってか……)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ