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3.永久の名を謳う規律―13


 アギトは言い放ち、動いた。手にしたアクセスキーを変化させる。柄を振り上げるようにするとアクセスキーは、巨大な『槍』へと変化した。柄が伸び、その先に鋭利で巨大な刃が現れ、刃がやたらと大きな薙刀に似た槍となった。

 漆黒の龍が暴れるその頭上で、アギトは槍となったアクセスキーを逆手で両手に構え――突き刺す。

 ズブリ、と沈んだ切っ先はその刀身を全て漆黒の龍の頭蓋に埋め、更に、まだまだ、突き進み、漆黒の龍を屠る。突き進んだ切っ先は脳――そう設定された――を二つに切り裂き、生命として電脳世界ディヴァイドに宿る漆黒の龍に深刻なダメージを与えた。

 辺りに悲痛な漆黒の龍の雄叫びが響く。それは決して、今までに聞いた滅びの叫びではない。ただ、本当に辛辣なモノだった。それは大気を揺るがし、辺り一帯を震わせながら、急降下した。

 アギトが頭上に居続ける中で、漆黒の龍は急所にダメージを負って――死んだのだ。揚力を失ってただただ墜ちる漆黒の龍は地上に到達するまでで紫色に淀んだ光の粒子へと変わり、消え去った。

「よっと、」

 やっと、地上に足を着けたアギトはそこでやっと溜息を付いた。辺りを――何か――確認する様に一瞥した後、アギトは嘆息して槍状となったアクセスキーを振るう。と、それは柄の状態に一瞬で戻った。それを腰に戻し、アギトは歩き始めた。走ろうかとも思ったが、それは体力的に叶わなかったのだ。

 なんとかして漆黒の龍を倒したアギト。だが、アギトはそれを遺憾に感じていた。アギトはこの『アクセスキーのスキル』を、余程の事がない限り隠し通そうとしていたのだ。当然、今の漆黒の龍との対峙は『余程の事』であり、アギトも仕方の無かった事だと諦めてはいるのだが。

 殊更に考えるまでもない事ではあるが、アギトは元傭兵であり、そして今は世界のエラーを閉じて周る数少ないアクセスキー所有者だ。特異的スキルの存在は知られるとそれだけで戦力ダウンと言っても過言ではなく、それが知れ渡るなんて尚更だ。アギトのアクセスキーはマルチウエポンという、剣がメインウェポンである世界では特異点である。それは、絶対に在り得ない存在で、僅かでも目撃者がいればその情報はあっという間に広がってしまうだろう。だから、アギトは出し惜しみ、決着を付けた後でもまず辺りを確認したのだ。

(さて、フレギオール。今度こそ倒してやるぜ……)

 アギトは決意を固める。相変わらず寂れた道を行きながら、アギトは歩みを止めて駆け出した。




「もう!」

 アヤナはもどかしげに吐き捨てながらアクセスキーを斜に振り払った。金属同士が打ち合う鋭利な音が炸裂し、バケモノ、そしてアヤナは大きくバックステップして互いの距離を取った。

 アヤナの睨みつける先には西洋鎧の騎士が立つ。相手はバケモノだけあってかまだまだ余裕の体勢を崩さない。だが、対するアヤナは息が上がり、疲弊してきている。まだまだ元気な様子を無理矢理に見せるのだが、それは強がり以外の何者でもない。

「さっさと斬られなさいよ、もう!」

 アヤナは吐き捨て、地を蹴った。その瞬間にはもう、相手も動き出している。

 アヤナは騎士でなければ傭兵でもない。アクセスキーを所有する前は尚更、それからも元老院連中に重要機密として保護され、まともに戦闘訓練すら受けていない。当然、経験もない。アクセスキー自体の破壊力でそれはある程度カバーされど、戦闘訓練を受けていたり、経験を積んでいる者が相手になればその力の差も埋められてしまう。それが現状だ。

 アヤナは戦闘中に遥か遠くの僻遠に漆黒の龍のモノであろう業火が注がれるのを見た。熱風がアヤナにまで届き、その威力を直に感じ取った。当然その渦中にはアギトの姿があると容易に予想した。

(早くアギトの場所までいかないと……!)

 アヤナは単純に心配していたのだ。彼は去る時にアヤナの心配をした。その行為は、アヤナに安堵を与えた。初めて、素顔を見れたかの様な温かみのある気持ちがアヤナの中に生まれた。だが、今はそんな気持ちや心配等が混ざり合ってしまい、アヤナの頭の中は猥雑に荒れていた。そして、焦燥が生まれる。

 衝突、そして、炸裂。

 アヤナの巨大な鎌の側面にギョロリと浮かび上がる紫色の巨大な目玉がバケモノの鎧の隙間で赤く淀む目玉を睨む。刃と柄が衝突。そこから、アヤナは巨大な鎌を小さな体で巧みに扱い、捻るようにして――ツバメ返しの容量で――バケモノの細身の剣を弾き飛ばした。

「やっと!」

 そしてすぐさまそこに会心の一撃が叩き込まれる。斜めに叩き込まれた巨大な鎌の巨大な刃は西洋騎士の鎧を確かに穿ち、抉り、砕き、破壊した。石で石を打ち合って砕く様な音が炸裂する。そうして、鎌の巨躯は振り切られ、西洋騎士の姿をしたバケモノを斜めに一刀両断した。して、決着。

 断ち切られたバケモノはその身を光の粒子に崩しながら、僅かに時間を掛けながら消滅した。

「時間を掛けすぎたわね」

 未だ強がりを吐き出しながらも、アヤナはアギトが心配でしかたなく、一息着く間も入れずにアクセスキーをしまうと同時に駆け出した。

 アヤナはアギトに秘匿ながら感謝していた。エラーを閉じて周るから、という名目でありながら、アヤナのサポートとして外へ連れ出してくれた――そういう結果にしてくれた存在――アギトに。もし、そんなアギトが死んでしまったら、自身の感情を別にしても、フレギオールの様なアクセスキーを悪しき理由に使わないと確定しているアヤナは殺される事を危惧され、また、元老院に匿われる、何もできない日々に戻されてしまうかもしれない。

 それだけは避けたい。それに、アギトが死ぬことも拒みたい。

 とにかく、結果は見えていないのだ。裸眼で力説確認していないのだ。と、なればそれはアギトが生きている可能性でもある。駆けて先に進むが、漆黒の龍の姿は見えてこない。もしかしたらアギトは殺されてしまったか、いや、漆黒の龍を倒したか。

(心配させて、もう!)

 

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