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3.永久の名を謳う規律―10


「アヤナ! 下がれ!」

「う、うん……!!」

 アギトの危機を察した声に反応してアヤナは身を引き、アギトと並ぶ。そうしているうちに、フレギオールの姿は完全に地平線を越えた。そして、その背後にまた、複数の影がある事を確認できた。

 数は三。フレギオールのボディガードなのだろう。フレギオールの身と、アギト達の距離を確認する様に視線を蔓延らせている。姿は侍のようで、現代風な装束を纏っている。当然、腰には刀がぶら下げられている。

暫くして、互いの距離が三メートル程に縮まった所で、フレギオール一同は足を止めた。自身有り気に笑んでいるフレギオールは確かにアギト達を見下ろしている。一瞥してみると、フレギオールの背後の連中は、フレギオールに指示でもされて下がらされているのが分かる。彼等はフレギオールの背後に立ち、何事にも動じずに、微動だにしない。

 ともあれ、フレギオールがこの場に、ここまで、前線に出向いてくれた事は吉だ。アギトは秘かに手を腰にぶら下げたアクセスキーへと添える。

「おっと、アクセスキー所持者だからと言って、アクセスキーを所持し、護衛までつけている俺に勝てるとでも思っているのか?」

 アギトの動きに気付いたフレギオールは嘲る様に言い放った。その言葉を引き金に、弾けるようにアギト、アヤナとそれぞれがアクセスキーを構えた。刀と鎌を構えた二人が、ギンとフレギオールとそのイド同を睨みつける。

「トップが前線に出てくるってのはどう言う事だ? ふざけてんのか、それとも、馬鹿なのか」

「そう思いたいならそうしておけ」

 言って、フレギオールはアギトの手に握られる刀の形を取ったアクセスキーに視線を向ける。そして、言い放つ。

「刀が現れるだけの収納がスキルの底辺アクセスキーか。それで俺をどうにかできるなんて思ってるとはな。滑稽だ。憐憫にまで思えてきた」

「そう思いたいならそうしておけよ。爺さん」

 アギトは挑発し返して、アクセスキーを構えなおす。スキルについて、明確な反論を返さなかったことに違和感を抱いたのは、その場ではアヤナだけだった。そんなアヤナは気付きつつもあえて声にせず、ただ、アギトに何か考えでもあるのか、と押し黙って警戒を強めた。

 アギトの挑発が鼻に付いたのか、フレギオールは一度鼻で笑って、背後の三人に視線で何か合図を出した。すると、三人がそこでやっとフレギオールの前へと出て、腰から剣を取り出し、構えた。

 フレギオールはこれを、前座だ、としか思っていない。アギト達の力量を測る、前座。そして――、

「前座はいらない」

 ――アギトも、アヤナも、同様だった。

 モノの数秒だった。いや、一瞬だった。一斉に掛かってきた三人を、アギト二人、アヤナ一人とアクセスキーで応対すると、あっという間に、一瞬で、いなしてみせた。その影は――アギトが切り落とした影は――紫色に淀んだ粒子に溶けて消え、消滅した。

「うん?」

 アヤナのアクセスキーが切り伏せた影は今までの電脳世界ディヴァイドの殺人と同様にして消滅するのだが、アギトのアクセスキーはどうしてかそうならない。そんな不可思議な光景を見て、フレギオールは疑問を浮かべた。

(何故あの黒いのが斬ったモノだけが『死ぬ』……?)

 フレギオールの眼前にアクセスキーを構えた二人が立つ。

「さぁ、手早く終わらせようか」

「降伏するなら今のうちよ。二対一なら、どうかしらね!」

 アギト達は一歩だけ進んで、フレギオールを脅す。ジリジリと距離詰め、降伏を誘う。

 だが、

「それはどうだか」フレギオールは心からそう思っているのだと言わんばかりに吐き出して、アヤナを見下し、「貴様のは本体をどこにでもしまえるタイプのスキル、だったかな」して、視線をアギトに移して、「そしてそっちの黒いののは論外。SF映画ごっこの用途以外にない」

 嘆息を挟んで、フレギオールはニヤリと笑んで見せた。

「だが、俺のはそんなチンケなスキルでない」

 笑んで、手にした純白の杖――アクセスキーを構えた。その姿はさながら、魔法使いのようだった。

 だが当然、この電脳世界ディヴァイドに『魔法』という概念はない。全てが操作コントロールされ、乱数で現実へと調節される。そんな世界に魔法という不可思議な概念は存在しない。科学はともかく、魔法等のファンタジーなモノは絶対にありえない。

 ――だが、

「感じ取れ」

 フレギオールは掛け声に似た声と共に手にしたアクセスキーで空を切った。すると、まるで『魔法』みたいに、直径三○センチ程の火球が、フレギオールの体の回りに数個、出現した。

(魔法……な、訳ねぇわな。何の力だ? アクセスキーがあんな魔法みたいな光景浮かべてるってのか?)

 アギトは剣を構え、その光景に訝る。アギトの視線の先ではフレギオールの火球を纏う姿。数個の火球はフレギオールの体を守るように周りながら、アギト達を見据えている様にも見える。

「これが俺の力だ」

 そして、次のもう一振りで、火球は飛びまわる勢いを全て向けるかの如く、アギト達へと向かって飛んだ。だが、その起動は一直線で変動しないモノ。アギト達がそれをいなすのは容易い。

「これがどうしたってんだ!」

 モノ珍しい光景ではあるが、所詮真っ直ぐ飛んでくる野球ボールを打ち返すに違わない。アギト、アヤナともそれぞれアクセスキーを振るって火球を切り裂き、切り落とし、それを全て回避した。

 だが、

「これだけがアクセスキーの力ではなかろう」

 次の一手が、既に迫っていた。火球を切り落として、次にフレギオールへと視線をやると、彼のすぐ脇に、手に握る杖状のアクセスキーの側に、漆黒の穴――エラーを確認できた。

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