3.永久の名を謳う規律―9
「任せろ。我々レジスタンスが全力で君達を支援する」
ゲンゾウは言う。自信有り気に、また、どこか臆する様に。憐憫に思う気持ちなんてない。だが、アギトはそんなゲンゾウに申し訳なさを感じていた。無理強いをしているのは重々承知である。だが、レジスタンス一同の手を借りなければ如何し様もないのは事実。アギトも、そしてアヤナも、早急に形を付けなければならないと理解している。
「あぁ、頼んだわ」
アギトはシッカリと目を据わらせ、集まっているレジスタンス一同に視線を配った。
5
戦争の風が吹き荒れた。ベータ東部一帯を境界線として、そこで火花と怒声が飛び交う。数の差、戦力の差は明白だった。明らかに、一目見て分かる程に、明瞭だった。何をどうしてもひっくり返る事は在り得ないといわんばかりの、屈強さ。当然ながらそれを誇るのはフレギオール派だった。
幸いにも、まだあの漆黒の龍の姿はない。最終手段として温存しているのか、それとも、アルゴズム派、つまりはレジスタンスを弄んでいるのか、それは分かりはしないが、何にせよ良い兆候ではない。
アギトとアヤナは最前線にいた。互いにアクセスキーを振りかざして向かってくるエラーから出てきたバケモノ共と戦っている。なるべく死人を出さないつもりなのだろう。だが、やはりその隙間を縫って奥へと向かってしまうモノもいた。が、アギト達は障壁を越えるために最前線に出ているため、下がる事は出来ない。とにかく、最速で、全てを終わらせなければならなかった。
廃墟が建ち並ぶ、西部劇の舞台の様な町並みを漆黒と純白の二つの影が流れるように走っている。そんな二人の影の向かう先からは無数の影が跋扈しながら空間を埋めていた。
獣だ。比喩するとすれば狼。だが、その姿は影により近い。真っ赤に淀めく瞳が紫色に近い、エラーの様な漆黒の毛並みからギラリと輝いき、二人の姿を捉えている。狼は俊敏だ。駆ける姿も早いが、跳躍力もまた凄まじい。数十は見えるだけでもいるその狼は地を蹴り、廃墟の壁を蹴り、また地を蹴り、空を蹴り、と飛びまわるように移動して、二人に近づいていた。
「アヤナ!」
「分かってるわよ!」
アギトの声をタイミングとして、アギトとアヤナは二手に別れた。とは言っても、道は大きな一本道。二人が別れたのは左右に開けたと同義である。
そんな二人目掛けて狼の群れは襲い掛かってくる。数十はいた群れが一気に二手に別れ、半分の数になってアギト、アヤナにそれぞれ襲い掛かる。――だが、それをいなすのがアギト達の強みである。
数十を半数に減らせば、それだけで戦力を減らせるとでも言わんばかりに、アギト達はモノの数秒で――片付けた。
ギャン、と言う獣らしい悲鳴が無数に轟き、狼の漆黒の身が投げ出されていく。あるモノは半分にされ、またあれモノは手足を斬りおとされ、と。
「大丈夫か!?」
「当たり前じゃないの!」
「聞いただけだっての」
言いながら、二人は駆ける事を止めない。
そうして数分走った後、二人は遠くに障壁がぶつかるそのエリアを見つけた。オーロラの様な壁が二つぶつかり合い、変色して無に帰ったその異常な景色はこの電脳世界ディヴァイドでなければ見れない神秘的な光景だ。
そこを――駆け抜ける。
走ることを続けたまま、アギト達は辺りを見回して、
「敵地に入ったな」
「うん。このまま進んでフレギオール派のアジトまで行ければ……ッ!!」
二人は駆けて、時折襲い掛かってくる敵をいなしながら進み、どこかの廃村まできた。廃村、といってもそこには『焦げ跡』しか残っていない。見るからに、あの漆黒の影を連想させる。コロロギ村が滅んだあの光景が、嫌でも蘇ってきた。
アギト達は走る事で体力を減少させていた。一刻の猶予もない様な状況ではあるが、体力の回復は必要である。電脳世界ディヴァイドの補正さえあれど、制限もある。回復させて極力ベストに近い状況をキープしていなければ――漆黒の龍の事もあり――戦えるとは思っていない。
歩きながら、辺りを警戒しながら、アギト達は廃村を進んでいく。
建物は燃やし尽くされているが、その一部が未だに倒壊しきれておらず、視界の良好さはまばらである。どこから敵が襲い掛かってくるのか分からない今、アギト達は気を休めることまでは出来そうになかった。
しばらく歩くと、アギトが一人、立ち止まった。
「どうしたのよ?」
小さな体越しに振り返ってアヤナも立ち止まり、問うた。
「何か来る」
アヤナに対して、アギトはギンと細く、鋭利にした眼光をアヤナよりもまた先に向け、警戒している様子だった。
アギトのその様子に気付いたアヤナは首を戻して、アギトが視線を向ける先へと自身の視線も投げる。降りと上りが相まって地平線の様になった田舎道のその先から、何かが、見えてきた。
足音と――杖を突くような音。三足歩行とでも言うべきその音はやたらと、大きく聞こえた。中央塔で元老院が使うその技術に似ているような、拡張された音の様にも聞こえた。
アギト達は徐々に迫り来るその影をただ、警戒し、見据えている。
そうして見えてきたのは――一人の老人の姿だった。坊主頭に、厳つい表情。歳の割には背筋は真っ直ぐと伸びていて、手にする純白の杖は必要はないかと見える。歳からして、初期メンバーなのだろう。
それが、その袴姿の老人が、フレギオールだと気付くのは容易かった。手にする純白が示すモノが、アクセスキーだという事も、だ。
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