3.永久の名を謳う規律―8
アヤナのそんな協力もあり、レジスタンスの仲間達に戦争の提案をする、という話をゲンゾウが持ちかけてくれる事となった。
そうして一段落ついたこの場。
アギトとゲンゾウは二人、アジトのとある部屋で二人、話をしていたのだ。話、といっても、アギトは聞く側に立ち、ゲンゾウがひたすら、静かで、途切れ途切れの言葉を放つという会話。
包み隠さず話そう、ゲンゾウはその言葉から話を始めた。
「私と、ミライの父親――国王のアルゴズム、そして、フレギオール派主導者であるフレギオールは……、全員顔見知りだ。いや、友人と言っても過言ではない」
言葉を聞いて、アギトもなんとなく、の予想を立てる事が出来た。それが、
「私を除いた二人、つまりアルゴズムとフレギオールは、互いを意識していたところがあった。詳細を説明したところで何かがあるわけでもなく、省略させてもらうが、それが、今回の惨劇を招いたと言ってもよい」
言って、ゲンゾウは暫くの間を空けて、アギトには伝わらない何か思案をした後、表情を上げ、
「あの蟠りさえなければ、フレギオールがエラーを使ってまで、アルゴズムを追い込む事はなかっただろう」
言い終えて、ゲンゾウは沈黙。彼は彼なりに何か思う事があるのだろう。当然だ、友人だというのだから。
「……、フレギオールがエラーを『どう』使っているか、心当たりは?」
間を置いて、アギトは問うた。アギトはゲンゾウが話さなかった『詳細』にこそ何かある、とまでは思いついたのだが、蟠りが解けたばかりのこのタイミングで問い正す気にはなれないのか、自身の中で疑問の重要性を格付けし、重要なモノを抜粋。
「そういえば……、」
応えようと、ゲンゾウは言葉を漏らすが、一度何故か噤んだ。そんなゲンゾウに違和感を感じたアギトは視線で脅す。それに気付いて、気圧されたゲンゾウは溜息を挟んだ後に応える。
「風の噂だと思って聞いてくれ」
沈黙、後に首肯。
「まだ、この状況になる前だ。フレギオールが『鍵』を手にいれたと、いう話が私の耳に届いた事があってな……」
「鍵だと?」
言葉にアギトは眉を潜める。鍵、と呼ばれてまず思いつくモノは、アギト達の場合は『アクセスキー』なのだから。
そんなアギトの心中を察したかの様に、ゲンゾウがアギトに言う。
「その腰の、確か、アクセスキーだったか? それで、エラーが開けるのか?」
「……知らねぇ。つっても、試す事もできないがよ」
言われてみて、アギトは初めてその可能性について思案した。アクセスキーはエラーを閉じる鍵、そうフレミアに云われ、アギトはそれだけの性能しか知らずに使ってきた。発想の逆転だ。閉じる事が出来るのであれば、開く事もまた可能なのではないか。当然、エラーを開くなんて事は試す場を得ない。真意はフレギオールを問いただす他では確認できないだろう。
「フレギオールが、アクセスキーを持ってる可能性が高いって事か」
再確認。アギトは嘆息と共に口にした。
あれから数日の時間が経っただろうか。そう、という日に作戦は実行となる。
「システムの承認が済んだ。確認済みだ」
レジスタンスアジト、最上階のあの部屋に、ゲンゾウがゆっくりと踏み込んできて、そう言った。
戦争の、障壁を張る準備が整ったという事だ。アギト達少数ではできない事を、レジスタンスという大人数でやりとげたのだ。アギト達もそれには感謝している。
部屋にいるはアギト、アヤナ、それに先の一件で幹部格へと昇進したであろう人物が数名。
ゲンゾウは部屋に入ってきたかと思うと、部屋の奥まで進み、そして、全員と向かい合う。その威厳のある態度はあの一件もあってこその進化したモノだろうか。
部屋の奥まで進んだゲンゾウは一度、咳払い、後に、重々しい口調で吐き出す。
「フレギオール派が既に進行していた事もあって、こちらの障壁展開エリアは大分狭まってしまった。大凡ではあるが、ベータ五分の一と言って良いであろう」
「十分だ。中に俺とアヤナが入れさえすればイイ」
アギトの言葉にレジスタンス一同の表情が決意で固まる。
作戦はこうだ。アギト達が中に侵入、エラーを閉じて相手の戦力の増加を防ぎ、フレギオールまでも倒せれば――ベスト。そしてその間、レジスタンスはアギト達の道を開くため、戦い続け、押し負けない様粘り続ける、だ。アクセスキーを所持する二人が、この戦いの、いや、ベータの鍵を握ってるも同然なのだ。そのための犠牲を、その役を、レジスタンスが買って出なければならない。
そのための覚悟だ。
これは、今までの電脳世界ディヴァイドでの戦争とは違う。本当の命を賭けた戦いなのである。だが、それを怠ればレジスタンスが、ベータが救われないのも事実。
その、覚悟の表れなのだ。
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