3.永久の名を謳う規律―7
ゲンゾウの眼光は鋭い。だが、その奥には不安や苛立ち等の何かどんよりとしたモノが垣間見れた。
なるほどな、アギトはそう思って自身の内に跋扈する負の気持ちを一旦心の奥底へとしまいこんだ。そして、問う。
「ミライは特別扱いってか?」
アギトの鋭い視線は確かにゲンゾウを射抜いている。アヤナが、やめなお、と止めに入りはするが、そこはやはり無駄に終わってアギトはただゲンゾウの答えを待っている。
が、その問い、もとい脅しに答えたのはゲンゾウではなく、彼に寄り添うミライだったのだ。
「それは、私、が、……私のお父さんが、今のお父さんと、友達で、」
出ない声を無理やり出すようにして吐き出されたミライの言葉はどこか億劫で、アギトから恐怖を感じているのが声色で分かった。そんな震える声を聞いたアヤナは当然、そろそろ、とアギトを止めようとする。だが、そんなアヤナ自身もコロロギ村の住人の危うい立場を理解している。そのままどこかへと適当に放浪させる事となれば、また、同じ目に合うのは目に見えている。
だからなのか、未だアギトを強引に止めようとする事は出来なかったのだった。
「だからなんだよ。それで、コロロギ村の住人を見殺しにしていい通りにはならないだろうが」
アギトの言うその言葉こそ。アヤナの思う事であり、ミライでさえもが思っている事であった。
言葉に、ミライもアヤナも黙り込んでしまう。そして、アギトはゲンゾウを見下ろし、その視線の先でゲンゾウはただ、眉を潜めて何か思案するように間を空けた。
そして、
「……そうだな。そうだ」数回納得するように頷いて、「相手こそ悪だと思うのであれば、自身は正義でなければいかない。……レジスタンスなんて妙なくくりに私が……馬鹿みたいに拘り過ぎていたのかもしれない」
言うゲンゾウの表情を覗き込めば分かる。改心だ。
「そうだ。戦うなら協力する。危機に瀕している生存者を救う事こそ、戦いでもあるだろうが」
言って、アギトは表情には出さないものの自己嫌悪していた。
自身の正義を押しつけるような形になってしまった事が不本意でしかたがないのだ。コロロギ村の人々のためでこそある、と自身にも言い聞かせて納得はさせるものの、そこに嫌悪感を抱いていないわけではなかった。当然である。アギトだって、人間なのだから。
そうして、レジスタンスの活動修正も決まって、やっと一息、そして、アギトはこれからの(漆黒の龍の対処や、障壁についての事)を話そうとするのだが、その前に、アヤナが声を上げた。
「アギト! 今アギトが斬った人達が……」
「なんだ?」
アギトは本当に今までの光景を目に入れてなかったのか、話の腰を折るな、と言わんばかりの惚けた様子で問うた。
「何って、見てなかったの!?」
アヤナの異様なまでの驚きに身を引きつつもアギトは首肯。
そんなアギトに迫るかの如く、アヤナは大そうな剣幕で、声色で、アギトをしかり付けるように言った。
「なんか紫色の粒子になって消えたのよ!! もしかしたら、アクセスキーで斬ったのが……」
アヤナの様子を伺って、その言葉が真実だと知る。だが、アギトはそれに納得をいかせる訳にはいかなかった。それは、
「その消え方には心当たりがある……、」
その消え方が、エラーから出てきたバケモノを退治した時の、つまりは『死んだ時の』消え方であるから。そして、
「何よ? 教えなさいよ!!」
「だが、」
アギトは既に一度、過去に、アクセスキーで人を斬った事があるからだ。あの『試し斬り』の時だ。だが、その時は斬られた敵兵は光の粒子となって消えていった。再生される、今まで通りの死にかたである。そこに見間違いや勘違いのミスはない。敵兵は確かに光の粒子となって、正常な処理をされて消えたはずだ。
だが、アヤナはそうとは言わない。もとより、そうであれば、アヤナも何も言いはしないだろう。
アギトは真意を問う――ではなく、確認のためにゲンゾウ、ミライへと視線を投げる。が、返ってくるのは小さな頷き。
そこまで確認してやっと、アギトは嘆息し、話をする。
あれやこれやと記憶を掘り起こして、バケモノが死ぬ時の消え方、既に一度人間を斬っているという事実をこの場に残った三人に説明をする。
すると、暫くの思案の時間が生まれるが、答えが出るはずもなく、ミライを交えての四人はアギトの提案の下、障壁を張る、その話を進める事となった。
この部屋を片づける作業からそれは始まった。そうして、会議室のような形を戻して、アギト達はそれぞれ椅子に腰かけて話す。
「やっぱり、フレギオール派の障壁を崩すには障壁を張って返すしかねぇんだと思うのよ」
「成程な、戦争を持ちかけるわけだ」
いつの間にか、アギトとゲンゾウの蟠りは薄れていた。
「そう」頷いて、「中に入っちまえば、レジスタンスが粘ってる間に俺とアヤナがフレギオール派に突っ込んでエラーを閉じる。……、あの龍の事はまだ考えが思いつかないが、何とかする。とにかく、エラーをとじなきゃ事は進まねぇ」
アギトの言葉に一同は首肯。それぞれが現状を把握している証拠である。
良き傾向である。それだけ、全員が本気で話をできる環境が出来上がっているという事なのだから。
「エラーは私達がなんとかするわ。だから、障壁、戦争の事を……お願いします」
言って、先程の事の謝罪まで含めてアヤナは頭を下げた。アヤナがそこまでする理由などないに等しいのだが、どうしてか、アヤナはそう思ったのだろう。
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