表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/169

3.永久の名を謳う規律―5


 アギトが視線を投げたと同時、やたら焦燥の感じられる表情を持ちながら、二人のお偉方がテーブルを蹴り、アギトへと一斉に飛びかかってきた。二人の手には二対て一つと想像させる金と銀のレイピア。そのスキルなのか、二人の動きは奇妙な物を見せた。

 焦燥を見せるのは、先の一人が謎の消え方を見せたのが原因だろうが、アギトがそれに気付く事はない。

 スキルが発動し、空中で二人は動きを変え、アギトを挟むような位置に移動して、両サイドに着地、そして、猛スピードでアギトに突っ込んで来た。レイピアの切っ先が妙に淀めき、あぎとノ横腹を狙い、突き出される。

 二つとも、移動を補助するタイプのスキルなのだろう。と、アギトは心中でそう思って――見切った。

 右から、左へ、頭上を通って振るわれた、アーチを描く様な一閃をアギトは描いた。その一撃で、右から迫った影の手に握られた銀のレイピアを上へと弾き、左から迫ってきた金のレイピアを持つ手を上から叩き斬った。そうして無力化した相手に、身体を捻るような横一閃で纏めて攻撃を叩き込む。

 両サイドから短い、悲痛な、悲鳴。

 振り切ったアギトはそのまま残りの連中を見据え、部屋の奥へ、奥へと進んで行く。その背後で、紫色の粒子となって消えていく影に、やはりアギトは気付かない。

(何かが、おかしい……?)

 アヤナやゲンドウの様に、その光景に気付いた者達はその異常に疑問を抱くのだが、エラーから出てくるバケモノを倒した事がないためか、気付けない。

 アギトが進む度、ゲンドウが焦りを見せ始める。残り三人。流石に大丈夫だろう、という安易な考えがゲンゾウの余裕を偽装しているが、それは偽りの他ではない。本人は認めないが、心中では、アギトが全員倒してしまう、という危機を感じ取っている。

 残り三人の内二人が、ゲンゾウを守る様な位置に移動し、残りの一人が、アギトへと向かってくる。手には刃を装備したトンファー。剣と呼ぶには億劫な代物であるが、剣という認識でいいようである。

 トンファーを片手に装備していた男は、そのトンファーのスキルを発動。トンファーをもう一つ生み出し、両手に一つずつ装備したのだった。そのまま鼻息あらくトンファーを構え、迎え来るアギトに飛びかかろうとしてきた。

 が、アギトが蹴り上げた長机にそれは阻まれた。

「むうっ!?」

 机に手を置いていたゲンゾウも流石に驚いて身を引いていた。側近となった二人に身を庇われながら、僅かに後ろに下がる。

 トンファーを装備した男は両手のトンファーで浮き上がって迫ってきた長机を受け、防御し、反撃に――出れなかった。

 アギトの一太刀が、持ち上がった長机ごと、相手の装備するトンファーごと、相手を斬り捨てた。

「がっ、あ! ぐはっあああああ!!」

 そして、机と一緒に、床にその身を崩し、落す影。どちらとも消滅し、机が通常の光の影となって、そして、トンファーを装備した男が紫の粒子となって、その二つが混じり、異様な光景を残して消えるが、その瞬間、既にアギトの視線はゲンゾウと残りの二人に突き刺さっていて、粒子は視界に入っていない。

 アギトは慣らす様にアクセスキーで空を切る様に振るい、握りなおして、残りの三人の眼前に迫る。

「アギト!」

 背後からアヤナの抑止の声が聞こえるが、アギトは耳に入れるつもりはない。

 ゲンゾウの表情に、もはや余裕はなかった。

「プライド、まだ持ち続けるか? 糞ガキ」

 アギトは冷酷な視線をゲンゾウへと落し、嘲るような言葉をあえて選び、挑発した。仕返した。

 初期メンバーであるゲンゾウはどう考えてもアギトより長い。が、アギトはあえて、糞ガキ、そう言い放った。外見だけ成長して、中身が成長してない糞ガキ。大の大人のくせに信号一つ守れない、傘程度なら盗んでもいいと常識を持たない、嘘を付いて見栄を張る、そんな、ゴミクズだ、とアギトはゲンゾウを見下し、脅したのだ。

 それに対してゲンゾウは――未だ妙なプライドを捨てきれず――アギトを睨み返し、糸切り歯を剥き出しにして威嚇してしまう。

「何をっ!」

 その言葉を合図にしたかの如く。ゲンゾウの両サイドに付いていた槍と剣を持っていた最後の二人がゲンゾウを守るように前に踏み出す。それを見たアギトは眉間に皺を寄せる。

「まだ、分からないのか? お前ら程度じゃ俺一人にも勝てないんだよ」

 言うが、ゲンゾウ達に反応は見れない。

 そんな様子にアギトは唾を吐き捨て、舌打ちし、苛立ちを露にして――動き出す。

 反応、槍を持つレジスタンスが一撃、アギトの横っ腹を狙って、真っ直ぐに槍を突き出すのだが、アギトはそれを横に出るだけで容易く交わした。

「終わりだ!」

 そのアギトの回避を見切ったと言わんばかりに、剣を持ったレジスタンスの一人の横薙ぎの一撃がアギトのの頬に迫っていた。アギトが槍を交わした時点で剣と頬の距離は迫っていた。ゲンゾウはその光景を見て安堵した。なんだ、ここまで勝てたのは偶然だろう。と。

 だが、剣は空を切った。アギトは驚異的な反射神経で、身を屈めていた。絶対に、常人では避ける事の出来ない攻撃を避けてみせたのだ。

(なっ……!! 馬鹿な!)

 光景を目の当たりにして、ゲンゾウは絶句してしまった。逃げ場のない王手を、説明の出来ない事象でひっくり返された、そんな、不可能を認めたくない傲慢な気持ちが奥からふつふつと湧き上がってくるかと思った。

 だが、実際はそんな暇もなく。

 アギトの空いた左手が突き出された槍を横から掴み、立ち上がると同時に恐ろしい程の力で捻り上げた。すると、槍を持っていた人間までもが巻き込まれ、転げるようにして槍から振り払われ、バランスを崩して情けなく床に転げ落ちた。そして、剣の軌跡が通り過ぎたその間に入り込み、アギトはただ、アクセスキーを突き上げる。その刃は剣を横薙ぎ払ったばかりで隙の出来た影の腹、水月から、心臓を抉るように身体を突き破り、貫通した。

 振り払うと、その身体は床に呆気なく落ち、紫色の粒子となって消え去る。

「くっそぉおおおおおおおおおおおお!!」

 と、そこで、槍を奪われ、振り払われ、間抜けにも床に落ちた影が雄叫びをあげ、アギトに迫る――が、武器すらない人間が、アギトの敵になる訳がなかった。

 アギトは振り返り、左手に奪った槍を逆手に持ち、振り返る勢いを利用して、影の顔面に突き刺した。右利きのアギトであるが、左で握った槍を放つそのフォームは素晴らしく綺麗だった。

 投擲するように放たれた槍はその切っ先で持ち主の顔面を貫き、その身を勢いだけで引きずり、壁に、突き刺さった。その後数秒、顔面に突き刺さった槍に支えられる形でその影は貼り付けにされていたが、数秒の後、また、紫色の粒子となって消え去った。その場には、槍のみが残る。

 その時既に、アギトは椅子に未だ腰掛けるゲンゾウの前に立ち、アクセスキーの刃を首に添えていた。

 部屋の光景は酷いモノだった。長机が消え、椅子だけが散らばり、様々な武器が転がっている。

「ちょっと! アギト! やりすぎよ!」

 部屋にアヤナの抑止が響く。だが、アギトは聞き入れない。

 ただ、ゲンゾウを見落とし、睨みつけて、

「お前は今、コロロギ村の村民と同じ立場にいる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ