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3.永久の名を謳う規律―4

 が、結局出来る事は一つ。アギト達はレジスタンスのアジトへと気乗りしないまま戻るのだった。

 かくして、戻ってきたアギト達は、早速眉を寄せる事となってしまうのだった。

 レジスタンスアジトの建物の前に、クロム達コロロギ村の人間が肩を落として集まっているのを見つけて、アギト達は「何だ?」と駆け寄る他なかったのだった。

「どうしました?」

「あ……、アギト君にアヤナちゃん……」

 言って、アギト達に落とした視線を上げるクロム。その目に、生気が感じられなくて、アヤナは釣られて気分を害してしまうのだった。

 アギトは肩を落として沈んでいるコロロギ村の村民を見渡す。あの時、アギト達に文句を付けたスキンヘッドの男ですら落ち込んでいる光景を見ると、余程の何かがあったのだろうな、とすぐに察しは付いた。

 眉を潜めるアギトを見上げて、クロムは悲しそうな溜息を吐き出す。そして、嫌な記憶を抵抗しながら引き出すように、クロムは言葉を吐き出すのだった。

「レジスタンスのゲンゾウさん……だっけ? あの人に話しを通しに言ったんだけど……。見ての通りでね。レジスタンスはあくまでアルゴズム派の集まりだから、ただの生存者ってだけじゃ、匿えないとか、何とか」

「はぁ!?」

 聞いて、思わずアギトは声を荒げて吐いてしまった。その恐ろしい声にその場にいた全員が身体を震わせて怯えた。アヤナまでもだ。

 アギトは苛立ち募らせ、今にも爆発してしまいそうだった。荒げた声で叫ぶように吐く。

「あ、い、つ、らぁあああああああああああああああああああ!!」

 気付けば、手には刀となったアクセスキー。黒いロングコートの裾を翻し、その身をレジスタンスアジトの入り口へと向かい合わせる。そして、前進。

「え、あ、ちょっと! アギト!」

 大慌てでズンズン進むアギトをアヤナが止めに入るが、一度スイッチの入ってしまったアギトは止まらない。それに、アギトはゲンゾウに私怨があるも同然。どうしようもなく苛立ってしまうのだ。

 レジスタンスなんて名乗り、フレギオール派と対峙しているくせに、フレギオール派に追いやられているくせに、レジスタンスの連中は未だくだらないプライドを持っていたのだ。それに対して、アギト腹を立てていた。

 くだらないプライドなんかとっとと捨てて、今いる生存者もとい被害者を救え。と。

 気付けば、アギトはアジトの中へと足を踏み入れて、階段を上っている。引きずられるように、アヤナもだった。

「アギト! 落ち着きなさいってば!」

「落ち着いてても、俺は同じ事をしてる!」

 アギトは止まれない。止まらない。そうして、アギトはあっという間に三階へと踏み込んでしまって、

「オイコラァ!!」

 アギトが扉を蹴破り、レジスタンスのお偉方が佇むその空間へと踏み込んだ。

 アギトが蹴破った扉は破壊認定を受け、光の粒子となって空気中に溶けるように消え始めるが、誰もがそこには目をやらなかった。その場にいた人間全員の視線は、突然現れたアギトへと向けられている。

「貴様!」

 一番手前にいたお偉方の一人が腰を挙げ、声を荒げる。が、そんな中でゲンゾウは一人、ただ、凛とした態度で威厳を保ち、部屋の最も奥に鎮座し、鋭い眼光でアギトを睨みつけ、静かに、言い放つ。

「扉の代金は請求して良いのだろうな?」

 それは、単に挑発でしかなかった。

 言葉はアギトを高ぶらせ、激昂させた。これ以上、狼藉の一つでも働けば、アギトはこの場にいる全員を斬り殺すだろう。

「ふざけてんじゃねぇよ。テメェ……くだらねぇプライド持ちやがって。コロロギ村の住民を救う事すらしねぇでその余裕面、俺は我慢ならねぇってんだ!」

 吼えて、アギトは右手のアクセスキーを振って、武力でも何でも、どんな手を使ってでもその馬鹿げたプライドを叩き潰してやる、という意思を主張する。

 と、その時だった。腰を上げたレジスタンスのお偉方の内一人が、武器を構えたのだ。

 そして部屋を見渡せば、ゲンゾウ以外の全てが立ち上がり、それぞれ武器を構え、アギトを睨みつけているのが確認できた。

(なる程な……)

 アギトは光景を見て、ゲンゾウの余裕綽々な態度を理解した。この場にいるレジスタンス全員が、それこそ宗教の様にゲンゾウを崇拝していて、ゲンゾウを守り通す覚悟を持っているためだという事を。

(そりゃ、これだけの数のボディーガードがいりゃ、自身の身は安全だとか『勘違い』する馬鹿にもなるわな)

 ゲンゾウを覗いた六人の影が武器を掲げ、ゲンゾウ様には近づかせないぞ、という脅しの眼光をアギトへと向ける。アギト側はアヤナが戦ったとしても二人。六対二は圧倒的な差――そう、ゲンゾウ達は思い込んでいるのだろう。

 だが、アギトは六対一でも負ける気はなかった。

 傭兵として、それからエラーを閉じるためにバケモノと戦ってきた身として、この程度の数のただの人間に――負ける気はなかった。

「アギト、落ち着いて! 戦争でもないのに、こんな事しても意味ないよ!?」

「知るか。言って分からないヤツには力で教えてやんのが一番なんだよ。綺麗事が全て正しいと思ってんなら下がってろ。手を汚してでも俺は突き進む覚悟がある」

 アギトは何とか止めようとしてくるアヤナを振り払う。もとより、一人でもエラーを閉じて回るような身、アギトはアヤナの正義感に似た感情に苛立ちまで覚えていた。

 当然でもある。漫画や映画の様な正義感は常に正しいモノと映し出され、一般人に認知までさせてしまうが、――現実はそうではない。殺す事で世界は周り、裏の人間の金のやり取りで成り立つ国だってある。それが、現実。常時戦いに身を置いて、世界中を飛びまわって戦ってきた――世界を救うためだけにエラーを閉じて周る――アギトにとって、その正義感は偽のモノ、偽善でしかないのだ。

 部屋にはゲンゾウの得意げな笑みの呼吸の音だけが響き、緊張が張詰めた空間が生まれる。

 それを打ち破ったのはアギトの足音。――足音、とは言っても、ただ一つ、ブーツの踵が床を蹴った、その瞬間の音。

 だが、音とは裏腹に、アギトの姿はそこから一歩分では動けないであろう、レジスタンスの一人の眼前にあった。そして、手にした刀状のアクセスキーは、その刃で、彼の喉を貫いていた。

「あ、がっ……何が……、」

 流石にこの光景には驚いたのか、アギトが見据える先のゲンゾウは、目を見開いて、唖然としていた。この部屋にいた全員は今の一瞬で何が起きたのか理解できないでいた。どうやってアギトが距離を詰めたのか、反応できない速度で喉を貫いたのか。

「数いりゃ勝てると思ってたか?」

 吐き捨てる様に言って、アギトは刃を振り切る。と、喉を貫かれた彼の首は空中に投げ出され、身体と二分され、『紫色の』粒子となって消え去る。

(何……? あんな人の消え方知らない……!?)

 その光景を見ていたアヤナはその異常に気付いた。だが、そこに知識はなかった。アギトがソレに気付いていれば、『エラーから出てきたバケモノを殺した時の消え方』だ、と気付くのだが、血気盛んのアギトは気付かなかった。消えた相手に最早用はない、と、アギトは次の相手にその鋭利過ぎる視線を投げる。

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