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2.向き合う世界―16

 そうしてアギト達は昨日の様にミライの小さな背中を追いかける事となった。

 ミライは繁華街の脇道から繁華街を離れ、寂れた住宅街の様なエリアを抜けて、町へと出た。そのまま暫く突き進み、アギト達を巨大な建物の目前まで案内したのだった。

 建物は三階建ての何か講堂の様な建物だった。ミライはここにレジスタンスのお偉いさん方がいる、とアギトに説明して、中へと導く。

 このレジスタンスのアジトの中は一見すればただの民家である。玄関があり、脇にリビングもあり、と生活臭が漂っている。アギト達はそんなアジトの中をミライに案内されて最上階の三階へと辿り着いた。そこには巨大な細長い部屋。会議室、と呼ばれて連想するそんな空間があった。

 中には細長いテーブルに、周りに椅子。そして、七人の面子。その面子は全員がそれなりの歳をくっている様に見える、少なくともディヴァイドでの成長限界である二三歳と思われる人間はいない。恐らくこの場でアギト達を待ち構えていたこの七人の面子全員が初期メンバーである。

 ミライは会議室の扉を開けて、アギト達に中へ入る様促して、外で待機している。

 ミライに頷いて合図を送って、アギトにアヤナが会議室の中へと入った。背後に扉が閉まる音を聞いて、アギトとミライは簡単な一礼。

 と、部屋の一番奥に鎮座する如何にもリーダーな老人が髭の間から覗かせる口を開いた。

「アギトに、アヤナか」

 重く、圧し掛かるような重圧な言葉にアギトはムッと眉を潜めた。

 いくら初期メンバーであれ、いくらレジスタンスのリーダーであれ、この場でそんな偉そうな態度を取る理由はないであろう。と苛立った。心の隅で元老院右席のプライドの憎たらしい面影を思い出しながら、嘲るのだった。

「だからなんだよ、クソジジイが」

 アギトの言葉にアヤナ含めたその場の全員が凍りついた。まさか、といった感じだろうか。アギトの鋭い眼光とリーダーの厳つい眼光はぶつかり、火花まで飛ばしている様に感じる。

 長いようで短いその時間が過ぎ去って、痺れを切らせたのか、リーダーの方が口を開いた。

「ガンの飛ばしあいなど何の意味も持たぬ。自己紹介もなしに失礼したな。私はレジスタンスのリーダー役であるゲンゾウである」

 それを聞いてやっと、アギトは呆れながらも言葉を返す。

「俺がアギト、隣の白くて小さいのがアヤナだ」

 言うアギトの隣でアヤナが何か言いたげに見上げるが、この場の重苦しい雰囲気に負けてか言葉は我慢していた。

「ここにいる全員はレジスタンスをの重役ばかりだ」

 大変重々しい口調でゲンゾウは言うが、アギトはその言葉に眉を潜めるばかりだ。というのも、ゲンゾウがこの場にはお偉方しかいないのだよ、という自慢でもしているかの如く話すモノだから、アギトは僅かに苛立っているのだ。今まで一人で傭兵として力を振るってきたアギトにとってお偉方は金を積んでアギトの参戦を頼む立場でしかなく、もとより、ベータ国民でもレジスタンスメンバーでもないアギトにはこの場のお偉方等関係ないのだ。

 つまり、相手が偉そうな、威圧的な態度を取る事はアギトに不快感しか与えない。

「だから何だよ?」

 心中の隅でミライに僅かばかりの申し訳のなさを感じながらも、アギトは反発する。斬りあいなら望むところだ、という姿勢だ。

 今までずっと威圧的な態度で生活でもしてきたのか、ゲンゾウの態度は折れる気配がない。そして、アギトも同様。アギトからすれば偉そうに接せられる理由はない。そしてゲンゾウは明らかにアギト達を見下している。アギトの苛立ちは言葉を紡ぐ度に増すだけであろう。

「貴様のその態度は大目に見よう。さて、本題であるが、」

 フンと、鼻を鳴らして、ゲンゾウは「お前を許してやる」と言った意味の上から目線の言葉を吐き出すモノだから、

「あ? ……お前何様だよ?」

 アギトも切れた。ミライの存在がなければ、エラーの存在を放っておいて、ベータを出てしまう程に切れた。

「ちょ、ちょっとアギト!?」

 隣でアヤナが大慌てでアギトを宥めようとするが、

「うるせぇ、黙ってろ」

 たった一言で気圧されてしまう。アヤナの様な強気な性格であれど、数々の戦場を駆けてきたアギトの迫力には、箱入り娘だったアヤナには恐ろしすぎたのだ。

 ギンと獲物を射殺すような視線をゲンゾウへと突きつけるアギトは吼える。

「あのな、俺とアヤナはエラーを閉じに来た部外者なんだっての。レジスタンスがどうとかしったこっちゃねぇのは分からないか? ミライの世話になったから、俺はミライのため、と思ってここに来たんだ。そんな威圧的な態度で上から見下される覚えはないっての。テメェが初期メンバーでレジスタンスのリーダーだって事ァ分かるが、その立場が俺にも通用すると思うな。本題とか言って頼みごとでもしたいなら金を用意して正式に俺を傭兵として依頼しにこい。それでも今みたいな態度だったらお断りだがな」

 吐き捨てる様に、まくし立てるように言うだけ言って、アギトは踵を返し、しまった扉を強引に開け、出て行く。その背中にアヤナが慌てて付いていく。

 部屋を出てすぐミライと顔を合わせるが、アギトは「すまないな、俺にあの連中の世話は無理だ」と吐き捨てる様に言って、すぐに階段を下りていく。アヤナがミライに一礼して、その背中を追って降りていく。

 その二人の姿を、悲しそうに見るが追う事はできないミライだった。




「ちょっと! アギト! 落ち着きなさいってばっ!」

 寂れた町をズカズカと歩いて止まらないアギトにやっとアヤナが追いついた。アヤナはアギトのロングコートの裾を引っ張って止め、呼吸を整える。

「苛立つのは分かるけど……、あの人達何か言いたげだったし、聞くくらいは良かったんじゃない?」

「はぁ? 俺等はエラー閉じるだけだっての、あいつ等なんか関係ない」

「うーん……」

 結局、アギトの苛立ちをどうしてやる事も出来ず、アヤナは唸り、フェードアウトするように押し黙ってしまうのだった。

 ベータは大国アルファの上に位置する横に長い国だ。現在でいう東京都とその形面積ともに似ている。現在はその西側三分の一がレジスタンス(つまりは反フレギオール派)の生活圏、東の残り二分の一がフレギオール派の土地となっている。フレギオール派はベータの全てを得るためにエラーの力を利用し、レジスタンスの生活圏をも徐々に犯し始めている。

 つまりレジスタンスは現在、フレギオール派に平伏すか、殺されるのを覚悟して戦うしかないのだ。

 電脳世界ディヴァイドでの『死』は何よりも力を持つ脅しだ。

 そんな恐怖に怯えさせられるレジスタンス一同に、権力と力を持ち荒ぶるフレギオール派、そして、エラーを閉じるためにフレギオール派に戦いに向かうアギトとアヤナ、二人のアクセスキー所持者。

 三つの勢力が交差し、アギトとアヤナ、二人の初めての戦いが始まる。

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