2.向き合う世界―15
言ってアギトはアクセスキーを腰に戻し、話を戻す。
「つー訳だ。ついで、じゃねぇけどよ。俺の目的はミライのそれと被ってんだ。任せてくれていいぜ。まぁ、情報提供くらいはして欲しいもんだけどさ」
言い終えると、アギトは僅かに笑顔を浮かべてミライを安心させる様にしていやる。と、僅かばかりではあるがミライの表情が明るくなった気がした。
その後はミライの話しとアギト達の人数制限や戦力を考慮した上での作戦を話し合い、ミライがどこかへと帰っていった所でアギトは風呂へと入り、床に付いたのだった。
「オイ、起きろ!」
苛立ち気味に言って、アギトは毛布を引っぺがした。アギトがいるはアヤナがいる部屋。アヤナが眠るベッドの前だ。アヤナはあれだけこの宿に不満を見せていたというのに、毛布に包まって快眠。朝になっても起きなかったため、アギトが叩き起こしに来たと言う訳だ。
毛布を引っぺがすと、そこには真っ白なアヤナの姿。パジャマまで白いのかよ、という心中での突っ込みを抑えてアギトはアヤナに近づき、未だ起きないアヤナの真っ白な頬をペチペチと叩いてやる。
アヤナの肌は雪の様に真っ白だった。だが、その白は死んだような色ではなく、綺麗な雪景色の様な白――だったのだが、アギトがペチペチと叩き続けたせいでその白は赤へと変わり、挙句若干腫れ始めてきてしまっている。
「うがー!」
「おぉ、やっと起きやがったか」
暫くして、ダメージの蓄積でもあったのか突然アヤナは飛び起きた。
「ねぇ、なんで何回も何回も叩くのよ!?」
「お前が起きないからだろうが」
「起きてたし!」
「どこがだよ……」
まぁ、と立ち上がってアギトは、
「準備が出来たら俺の部屋に来い。今日の事を話す」
言って、踵を返して自身の部屋へと戻るアギト。そのアギトの背中を見送りながらアヤナはやっとベッドから起き上がり、足を床に付ける。
(結構寝れたわね)
大きな欠伸をしながらアヤナは着替え、純白のフーディローブを纏ってすぐにアギトの部屋へと向かった。
そうしてアギトの部屋にて二人は対面。アギトの口から本日の行動の説明が話される。
「ミライの情報によれば、フレギオール派はこの国の西半分を陣取って、そこから徐々に東に進行しているらしい」
「フレギオール派……?」
昨日のアギトと同じでアヤナは疑問を浮かべる。ミライの話しを聞いていないのだ、当然である。が、
「まぁ、そこら辺の話しは道中にでもするから聞いてくれ」
と、アギトは続ける。
「フレギオール派閥がエラーを隠し、その力を使ってこのベータを力で支配しようとしているらしい」
「じゃあフレギオール派が敵って事?」
「まぁそうだ。つまり、今日俺達はフレギオール派の下まで行く。そこで、なんとかエラーを見つけ出して閉ざす。必要になったら戦闘だが、なんせ相手はベータ最大の宗教団体だ。無理して戦えば数に圧されてそれこそ昨日みたいな事になるからな。目標はあくまでエラーを閉ざす事。エラーさえ閉じてしまえばフレギオール派は一気に弱体化するらしいしな」
「フレギオール派が宗教団体でエラーを悪用してて今回の目標だって事は分かったわ」
「それだけ分かれば十分だ」
大体の事情を説明しながら二人は宿を出た。宿主が上機嫌に「また来てな」なんて見送って貰えるものだからか、あれだけ嫌がっていたアヤナはこの宿にちょっとした申し訳のなさを感じ取っていたのだった。
と、そこで二人の目前に待ち構えていた影と遭遇する。
「お、ミライ」
アギトがすぐに気付いて声を掛けて近づく。アヤナも気付いて彼の背中を追いかける。レジスタンス一同が生活するこの空間で、ミライは一人アギト達を待っていたようだ。
「おはよう、ございます。アギトさん……、もう行っちゃうの?」
ペコリと可愛らしげに頭を下げたミライは首を傾げてアギトに問う。
「おう。とっととエラー閉じてくる。エラーはココにあるだけじゃないしな。早く終わらせて次に周らないといけねぇしよ」
アギトの言葉が終わると、ミライは何故か僅かに俯いて、申し訳なさそうに言う。
「あの、お時間、ありませんか?」
まるで意中の相手をお茶に誘う様な物言いにアギトもアヤナも首を傾げる。
「何かあるの?」
アヤナの問い掛けにミライは小さく頷く。身長こそ似た様なモノでも、そこは僅かにアヤナが年上なんだな、と感じさせた。
するとミライは面持ちを上げ、アギトとアヤナを一瞥した後に相変わらずの腰の低い声色で話しかける。
「あの、レジスタンスの、皆が、アギトさん達に、会って話しがしたい、って」
言われて、アギトは周りに目を配った。気付けば、商売をしている者、繁華街の一本道を右往左往している者、買い物を楽しんでいる者、そんな人間達殆どがアギト達にこっそりと視線を投げている事に気付いた。
(全員俺達の事を知ってるってか)
アギトはアヤナへと視線を戻して、問う。
「そういえば、だが」
「?」
「レジスタンスなんて言うくらいだ。戦士はいないのか?」
一瞬の間が空き、
「今から、案内、する」
と、ミライはアギトを見上げ、そのまん丸な目でアギトを見据え、言葉を待っている様だ。付いてくるか来ないか、その答えを律儀にも待ってくれているのだろう。
暫く――とは言っても数秒の――間を使ってアギトは考える。が、ミライに世話になった身。この程度の頼みごとを断る理由はない。
「分かった。付いていけばいいんだろ?」




