12.救出―4
互いとも即座に起き上がり、体制を建て直し、そして、アクセスキーを刀へと変えて、接近。
「オォオオオオオオオオオオオオ!!」
「ヌオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
そして、衝突。
やっと、結果が見えてきた。
くるくると派手に回転しながら宙高く舞う『黄金の刃』を持ったアクセスキーの刀。
そして見えてきた光景は膝を地に落す魔王と、そのすぐ前で屹立して魔王を俯瞰し、そして、魔王の首下に漆黒の刃を添えるアギトの影。
「終わりだ」
そう言ったと同時、アギトは『自制』で暴走状態を解いた。そこまで、彼は成長していたのだ。元の姿へとアギトが戻ったと同時、魔王はアギトを見上げる。
「……流石だ、……勇者よ」
そして、呟いた。アギトが鋭利な視線で見下す中、魔王は続ける。
「勇者は必ず魔王を倒すモノだ。そう相場が決まっている。さぁ……終わらせろ。勇者」
「あぁ、言わずとも」
そうして、アギトは全てを終わらせるために、刀を、振り上げた。
――だが、魔王は『名を捨てた』。
アギトが刀を振り下ろしたと同時、魔王の首へと落ちる直前で――消滅した。
「な……ッ!!」
アギトも思わず言葉を失った。アギトの手に握られていたアクセスキーはガラスの様に砕け、その手の内からあっという間に消滅した。
そして、アギトのすぐ眼下に居る魔王は、不敵に笑んで吐き捨てるのだった。
「言っただろう? 気が変わるかもしれない、と」
「ッ!!」
咄嗟の判断でアギトはバックステップで魔王との距離を取る。そして、宙を舞った魔王のアクセスキーを見上げる。
(あれが魔王の手に落ちたら最後だ……。勝ち目は、なくなる)
その間に魔王はゆっくりと立ち上がり、言う。
「魔王が勝つ物語もまた、悦だろう。私は、俺は、僕は、楽しみたいだけなのだよ……!!」
アギトの位置からでは、落ちてくる魔王のアクセスキーを奪い取るには間に合わない。そう気付いた魔王は悠々と右手を落ちてくるアクセスキーに向けて伸ばす。
素手のアギトでは、その隙だらけの魔王にダメージを与える事は出来ない。
「くそ、くそ、くっそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ここまで来て、手詰まりか、とアギトは感情を方向として放つ。
数メートル先では、落ちてくるアクセスキーを見上げ、不気味で傲慢な笑みを表情に貼り付ける魔王の姿。アギトが今疾駆して、魔王の懐に到達しても、それと同時に魔王はアクセスキーを手に入れるだろう。
今からアギトが出来る事はただ一つ。そのまま振るわれる攻撃を避ける事だけだった。いや、魔王は自身の魔王という自身で定めた役割でさえ捨て、技術者としての無秩序な力を使ってアギトのアクセスキーを破壊した。最早、楽しむという目的は摩り替わり、アギトを殺してエンディングを作り上げるという目的になっているだろう。故に、魔王はどうしてもアギトを殺すだろう。きっと、演技めいた口調で決め台詞を吐きながら。
だが、人類はそんな魔王に打ち勝ってきた。アギトが前にいた世界もまたそう。オラクルがいたガンマサーバーもまたそう。
――支配化に置かれながらも、人間は時として不可解な力を使ってまでも現実に打ち勝つ事がある。
ただ真上を見上げていた魔王は気付かないだろう。ただ、それにはアギトは気付けた。
魔王の手にアクセスキーが落ちるように、アギトの進路に落ちてくるもう一つの影に。
「……ッ!!」
気付いたアギトは諦めを捨て、疾駆していた。まだ、もがく。
落ちてきた『ソレ』を掴み、アギトは、魔王へと突っ込む。
「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
そして、斬撃。
魔王の手にはアクセスキーが握られている。だが、その右手は、宙を舞っていた。
「なっ!? な、な、……ああああああああああああああああああああああああ!!」
そうして悲鳴を上げたのは、アギト――ではない。魔王だった。
魔王の右手、いや、上半身の右半分は、アギトの持つ『ソレ』に断ち切られ、宙を舞い、消滅した。
魔王は慌てふためきながら、情けない悲鳴を上げながら、まだ、強がる。
「ひ、ヒヒヒヒ……!! 初めての体験に思わず悲鳴を上げてしまったががががががががが、私は技術者! これくらい念じただけで修復が出来、」
だが、魔王の首下に、弧を描く様な刃が添えられ、魔王の言葉は途中で止まった。そして、魔王は動けなくなる。
「念じる暇も与えない。俺が勇者やってんだ。お前は魔王として死ね。これで全てが終わりだ」
魔王の背後に立つアギト。その手に握られるのは――巨大鎌。刃の側面に巨大な紫色の瞳が付いた――『アヤナの巨大鎌』。スキルは自由移動。何処にでも、転送する事が出来、何処からでも、何処にでも呼び出す事が出来るというスキル。
それが、今、アヤナが、今、アギトを、エヴァンを、勇者を、助けたのだ。
そして、終結。
「ギヒッ、」
魔王ももう察したか、アギトへと首だけで振り向いて、えげつなく笑んだのだった。その魔王の視線の先には、暴走もしていないのに黒く淀んだアギトの表情。その鋭利な視線に、魔王はただ笑っていた。
――白い空間に『■色の』光の粒子が舞った。




