12.救出―3
「ルヴィディアがアギト、お前に真実をはかなかったようだしな。説明してやろう」
魔王はそう言って、一度、演技めいた咳払いをした後、話しだす。
「ルヴィディアは私が支配していたのだよ。理由は簡単だ。あの時点で、シグマサーバー一の実力を持っていたのが彼女だったからな。容易かったぞ。『機械共が世界を滅ぼす協力をしろ、そうすれば最後までヴァイドの命は保障してやる』そう脅し、私が技術者であるという証拠をみせれば大人しく彼女は従ったさ。実際、私が機械の侵攻を阻んでいたのだがな。ハハハ……」
「ふざけやがって……」
苛立ちを吐き捨てるアギトを無視して、魔王は続ける。
「だが、どうにも、そんな状況にあった中でも、彼女はお前を信じていたようだな。アギト。彼女もまた、お前と同じのようだ。犠牲を厭わず、とにかく全てを終わらせようと願った。故に、アギト、お前に力を託したのだろう。例え、自身が死のうが、アギト一人に絶望を押し付ける結果になろうが、彼女は厭わなかった。……ヴァイド一人、救おうとしたのかもな。いや、アギトも、か?」
「くっそ……!!」
「ハハハ……!! だが、ルヴィディアの判断を責める者はいないだろう。彼女の判断は最善だ。いくらアギト、お前が旅をした中で成長したといえ、ルヴィディアの補助なしでは今の私の相手にならなかっただろうしな」
「…………、」
「黙るか、まぁ良い。……互いに能力補助している。フェア精神には則っているよな」
そう言って笑んだ魔王に、アギトは鋭利な視線で返す。
「……言うだけ言うよなぁ……。お前、魔王。まだまだ、力を抑えていると聞こえるっての」
「言っただろう? フェアに戦っているのだ。実際、私の技術者としての権限を制限なく使えば、お前を殺す等呼吸するに等しく可能なのだ。『楽しむ』という目的がある中、そんな事はしないさ」
「成る程ねぇ」
アギトは魔王のその口から『楽しむ』という言葉を聞いてやっとハッキリとした怒りを感じ始めた。フレミアから聞いた魔王が世界を弄ぶ理由。それは、魔王が楽しむ、という事。それが本当に、本当に事実だと確認できた今、アギトは容赦しない。
「俺だってルヴィディアと同じだ。厭わない。俺が出せ理全力を超える全力で相手してやるよ……!!」
アギトはそう言って、アクセスキーを――銃へと変化させた。そして、その銃口を自身のコメカミに突きつける。
「じゃあな。俺はもう呑まれやしない」
そして――発砲。
『漆黒の銃弾が、アギトを貫いた』。
同時、あの時の様な暴走が始まる。コメカミから漆黒の侵食が始まり、深紅に染まりあがった瞳を除いて、身体は完全に漆黒へと染まる。
――だが、前とは違う。
一度暴走したからか、それともルヴィディアはこの状況をも予期していたか、暴走で身体の自由を奪われる事は、なかったのだ。
「シッ!!」
アギトは疾駆。その恐ろしいばかりの速さは瞬間移動とも取れる。
だが、魔王はシグマサーバーの全てを司る技術者だ。
「私もそれなりの相手となろう」
そうして、『魔王の能力は制限の開放』を打ち込まれる。
恐ろしいばかりの衝撃がこの何もないはずの空間を揺らした。アギトと魔王の衝突。刀と刀が衝突しただけで、恐ろしいばかりの衝撃が炸裂した。
「オォオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「ムウウウウ!!」
一瞬の鍔迫り合いの後、互いにバックステップ。最初と同じだ。だが、速度が違った。
アクセスキーが互いとも巨大鎌へと変化。そして、互いともそれを投擲。物凄い速度で回転しながら互いへと向かって――互いの中間地点で衝突、弾かれ合う。だが、アギトも魔王も既に駆け出していた。弾かれた巨大鎌を落ちる前に手に戻し、そのまま二刀流へと変化させて――交差。
とてもではないが目で追う事は叶わない斬撃の打ち合いが始まる。
薙刀、斧、鎚、刀、ハンドアクス、槍、節剣、巨大鎌、メリケンサック、剣、トンファー、杖、強化骨格、二刀流、銃、鉤爪、と、様々な武器にアクセスキーは変化して、そして、戦いは異常なまでに続く。
アギトがこの場に到達してから二時間は経過してしまった。アギトにいたっては中央塔やクライムとの戦いの連続で恐ろしいばかりに体力を消耗していたが、暴走によって無理矢理に動いていたのだった。アギトはそれでも、止まるわけにはいかなかった。無理をしてでも、いや、死んででも、彼は終わらせるまで止まれない。
「オォラッ!!」
アギトの刀が、魔王の刀と重なった。再び、全てを揺るがす程の衝撃が拡散される。
そして、幾度目かも分からない弾き合い。アギトのアクセスキーがメリケンサックへと変化する。
「クラエッ!!」
アギトの恐ろしい攻撃が叩き込まれる。アギトの動きに合わせるように巨大な、機械的な拳が出現する。それはアギトをも一撃で唸らせたギョクのアクセスキーのソレ。
ソレは、真っ直ぐ魔王へと向かう。
「ヌウウウウウッ!?」
あのアギトを一撃でダウンさせた攻撃だ。それに今、アギトは制御しつつも暴走状態にある。そんな一撃を、魔王は受止める。
魔王は即座にアクセスキーをアギトと同じメリケンサックへと変化、そして、自身のすぐ目の前に機械的な掌を出現させる。そして、その掌を広げて――アギトの放ったそれを受止める。
最早、人知を超えた衝撃だった。
その余りの衝撃には互いとも耐え切れず、アギトも魔王も、その場から大きく吹き飛んだ。
「ガッ、」
「ッツウ……、」
そうして互いの間に出来た距離は一○メートル程。




