12.救出―2
一瞬の弾き合い。恐ろしいばかりの力で弾きあった二人の間には一瞬の余裕が出来る。
そして、互いともアクセスキーを節剣に変化させた。
(やっぱり魔王のもマルチウェポン型アクセスキーか……!!)
予想は出来ていたが、いざ見るとやはり、と思って眉を顰めるアギト。そのままアギトと魔王は互いとももう一度のバックステップで距離を取り、そして、節剣を振るう。互いの節剣の刃はジャキジャキと音を立てながら伸ばし、互いに突き刺さろうと向かう。それは互いの中間地点で衝突。刃と刃は絡まり合い――互いを、引き寄せた。
ぐん、と磁力のように引かれた二人。二人は衝突する前にアクセスキーの節剣状態を解除。一度柄状へと戻し、更に鎚状へと変化させて、衝突。
あまりの衝撃に、二人はまた距離を取る様に後退する事となってしまった。
「ぐっ、」
「くっそ!」
自身の力はこんなにも厄介だったのだな、と忌々しげに心中で吐き捨てながらも、アギトは次の手に出るために疾駆する。
アクセスキーを二本の薙刀状へと変化させ、その内の一本を槍の様に、魔王へと目掛けて投げた。恐ろしいばかりの速度で魔王へと向かう薙刀。それに続くようにアギトはもう一本の薙刀を構えて疾駆。魔王との距離を詰めようとする。
「甘いな!」
だが、魔王はアクセスキーをサングラス型に変化させて対応。アギトの投げた薙刀とアギトを視界に居れ、「止まれ」
「ッ!」
アギトは咄嗟に跳躍し、それを避けたが、アギトの投げた薙刀型アクセスキーはそこで制止し、カラカラと渇いた音を立てて地に落ちた。
アギトが地に降り立つよりも前に、魔王はアクセスキーを変化させて杖状へと変化させる。そして、宙を跳んで向かってくるアギトに向かって、杖を振りかざす。すると、フレギオールでも出現させきれなかった巨大な火球が魔王のすぐ上に出現。そして、アギトへと向かう。
「ッ!!」
咄嗟の反応でアギトはアクセスキーを盾状へと変化させ、それを防ごうとするが、衝突。その余りの衝撃と熱にアギトは耐え切れない。思わず吹き飛ばされてしまうが、アギトもまた、負けられない。空中で体制を立て直す。と、続いてそこに火球が跳んでくるのが見えた。
アクセスキーを節剣へと変化させたアギトは自身の足元に向けて刃を伸ばし、突き刺し、そして、火球を交わすためにその刃を収縮させ、地上へと急速に降りる。そのすぐ直後、アギトの頭上を火球が恐ろしいばかりの迫力で通り過ぎ、何処かへと衝突して消え去った。
地上に降りたアギトは即座に疾駆。その間にアクセスキーをレイピア状へと変化させ、そして、魔王へと迫る。
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
雄叫びと同時、アギトはレイピアによる連続突きを放つ。それを、魔王は強化骨格型アクセスキーの装備による反応速度で僅かな身体の動きで全て避けて見せる。
「ッ!!」
咄嗟にアギトも強化骨格型に変化させ、拳での応戦を試す。
アギトの右ストレート。それを首だけの動きで避けたと同時、自身のすぐ横を抜けたアギトの右腕を下から両手で掴み上げ、いなす。
「何ッ!?」
アギトの身体は放り投げられ、魔王の頭上を越えて反対側に落ちそうになる。が、アギトもただ負けやしない。魔王の頭上に到達するまでにアクセスキーをナイフ型に変化させ、一撃を頭に叩き込むが、魔王もナイフ型にアクセスキーを変化させ、打ち合ってそれを交わした。
魔王のすぐ背後に着地したアギトはそのままナイフでの斬撃を見舞う。だが、即座に反応して振り返っていた魔王もナイフでそれに応戦した。互いに逆手にナイフを構え、乱舞のように振るわれるナイフは幾度となくその刃を打ち合わせた。
そして幾度かめの攻撃で、――互いの刃が互いに到達した。
魔王の刃はアギトの頬を掠め、アギトの刃は魔王のコメカミを掠めた。
「っ、」
「くっ……、」
互いに初めてのダメージに二度のバックステップで距離を取る。そこでやっと、初めて、一度動きが止まった。
「早いな……」
アギトは忌々しげにそう呟く。実際、魔王の動きは相等早かった。アギトの全力を僅かに上回る速度であるといえる。相手が強化骨格に変化させた場合は、アギトもまた、強化骨格にしなければ絶対に速度では追いつけない。
だが、魔王もまた、感じる事が在った。
「早いな……流石はシグマサーバー最強の戦士」
吐き捨てた魔王は、続ける。
「ハンディキャップとして、私の思考速度を常人の倍に跳ね上げているのだがな、それでも、お前には追いつけない、か」
魔王の呆れる様な言葉に、アギトは刀状へと変えたアクセスキーの切っ先を魔王へと向けて、叫ぶ。
「そうだ! 俺にはルヴィディアからの恩恵があるからな……!!」
そう、アギトは気付いていたのだ。ルヴィディアが放ったあの漆黒の弾丸は、アギトを暴走させようとも、その後必ず助かると信じた上で、アギトの身体能力をバグと認識するまでに高めるだろうと、ルヴィディアが予期して放った弾丸だったのだ。
故に、アギトは再出現を捜索された際に事実、魔王と全く同じバグとして確認された。そして、自身でもありえないと思うような動きを可能とした。
「成る程……理解したぞ」
アギトの言葉にそう答えた魔王は、口角を吊り上げて謳う。




