12.救出―1
そこは、人目見て分かる滅びの世界だったのだ。
アギトが言葉を失い、戸惑うのを他所に魔王は続ける。
「身体どころか脳までをも破棄された世界だ。とはいっても、このガンマサーバーの人類格納庫が絶滅したのはつい最近の事だがな……。本当、人間の力には驚かされる」
意味深な言葉を吐きつつ、魔王は映像を切り替える。そうして、次に映ったのが、――青年だった。アギトと同様に、目の鋭利さが目立つ男だった。その男が草原のような場所で携帯を展開させ、何かを見ている光景。
「……誰だ?」
次は何だ、とうんざりしながらアギトが問うと、魔王は自嘲しながら言った。
「オラクルだよ。正確に言えば――坂月明人。オラクルのガンマサーバーでの名だな。ガンマサーバーは歳を取る設定がされている。DF(DIVID FORCE)というアノマリー存在が設定されている。この世界で言う携帯はコネクトと呼ばれている。そして、特異体質である、この世界で言う『ソーサリー』がこの世界とは比べ物にならない程にいる。そんな世界がガンマサーバーだ。そのガンマサーバーからシグマサーバーに転送されてきたのが――オラクルこと坂月明人だ。彼が、ガンマサーバー人類格納庫最後の生き残りだったのだよ。当然、アギト、お前とギョクとの一件でオラクルは死亡し、ガンマサーバーは滅びてしまったがな」
長広舌を終えた魔王は再び映像の画面を切り替える。そうして映し出された映像は、シグマサーバー人類格納庫へと戻る。気付けば、シグマサーバーの周りには無数の鳥が集まっていた。攻撃を仕掛けているのだろう、とアギトは察する。犇く鳥達は遠くから俯瞰すれば虫のようにも見える。
「どういうことか、分かるか?」
魔王はアギトへと視線を突き刺し、問う。対してアギトは静かに首肯した。「あぁ」
「察してもらえているなら話しは早い。こうして鳥が止まっているのは、私が制御しているからだ」
言った魔王が右手を軽く上げると、彼の背面に出現していた無数のモニターが、パタパタとドミノ倒しの様に倒れ、空間に溶けるように消滅し始めた。そうして、モニターが完全に消滅したと同時、魔王は言う。
「私は魔王となる以前にこのシグマサーバーディヴァイドの『技術者』だ。この世界と現実世界と、唯一繋がりを持つ存在。そして、その権限は中央塔を遥かに凌駕する」
そう言ったと同時、魔王のすぐ横に、ただ一つだけモニターが出現した。そこに映し出されるのは一つの人類格納庫に格納されたカプセルとその中に保存される管の生えた脳。
アギトが眉を顰めると、魔王はニヤリと不気味な笑みを浮かべながら、言う。
「この脳の所有者が分かるか? そうだよ、君が大切にしていたアヤナなのモノだ」
「何……!?」
すぐに察する事が出来た。確かにアヤナは『アギトがその手で殺した』が、今魔王の横に出現したモニターが映し出しているその光景、その中で、アヤナの脳はを格納しているカプセルはまだ、『開放されていない』。
つまり、
「アヤナはまだ、生きてるってのか……!?」
アギトの力強い問いに、魔王は不気味な笑みを表情に貼り付けたまま、首肯。
「そうだ。もとよりこのシグマサーバーは『死の概念が設定されていない世界』だ。そういう実験施設だった。試験的サーバーだった。故に、死という概念は鳥の人類格納庫への進入さえ許さなければ現実世界では適用されないのだよ。当然、人類格納庫外部からの攻撃により、エラーが出現したため、そして、フレミアが自身でアノマリー、『アクセスキー』を作り出してしまったため、シグマサーバーディヴァイド内で死が存在するが、まだ、『現実世界の脳は全て、生きている』ぞ」
「……何が言いたいんだ……?」
勘繰ったアギトが真実を問う。突き詰める。
そして、魔王は告げる。
「もし、『今から始まる戦い』で、お前、アギトが私に勝てたら、――お前が『あの戦い』で殺した人間を全員、蘇らせよう。当然、お前、アギトに私の『技術者としての権限』を委ねよう。つまり、エラーに支配されかけている世界もお前が救う。世界はもとに戻るという事だ」
私に勝てたらな、と最後に付け足して、魔王はモニターを消滅させた。
「私を殺せば、その全てが手に入るように設定してある。私が『仮に』、殺される直前で気が変わっても良いように、だ。安心しろ」
そして、
「フェア精神も尊重しよう」
魔王の右手に、アギトが以前まで使っていた純白の柄状アクセスキーが出現し、変化し、刀となって出現する。刃の色は黄金。形はフレミアに譲り受けたソレと似ているが、どうにも違うように見えた。
そして、宣告。
「さぁ、ラスボス戦を、始めようか」
真っ白で何もない空間に、白と黒の影のみが浮かび上がる。
「あぁ……。全力で終わらせてやる……」
アギトもまた、漆黒の刀状のアクセスキーを構えた。
そして――疾駆。
何もない空間に、放射状の衝撃が拡散された。
白い何もない、中央すら設定されていない空間の中央で、二人は刃を交えた。
「ふぬっ!」
「おぉおおおおおおおおおおお!!」
刃が接触したと同時、恐ろしいばかりに早い打ち合いが炸裂する。
どこまでが空間なのかも定められていないこの純白の空間に刃の打ち合う音が連続して響き、どこかで反響して二人の下に返ってくる。
「オォオオオオオオラッ!!」




