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11.集結後の終結。覚悟―4


 アギトは当然、その言葉に眉を顰めて怪訝に思う。

「その話は今は関係な、」

「貴方はクライムを殺した際に『ラスボス前だから』という言葉を使いましたね? その、ゲームのような使い回しは良く判りませんが、そういうフィナーレ目前の劇では、イロイロと明かされるのが普通なのではないですか?」

 アギトの言葉を途中で遮ってそう言ったヴェラは携帯を操作して、アギトへとメールを送信してきた。

 不思議に思いながらも携帯を展開してヴェラからのメールを確認するアギト。メールの文面には何も書かれていなかった。だが、添付ファイルが一つ。

「これは?」

 アギトが問うと、携帯の展開を閉じたヴェラがただ言う。「開けば分かります」

 頭上にクエスチョンマークを浮かべながらもアギトはその添付ファイルを開く。と、文字の羅列が表示される。

 ――『エヴァン・サウスサイドの伝説』その見出し。

 チッ、とアギトは吐き捨てる。嫌な記憶を掘り起こされた、そう思いながらもアギトは文字を視線で読み進めて行く。

 ――『ディヴァイドが出来てから千年程の出来事。エヴァン・サウスサイド(登録名)という黒髪の青年が世を支配しようと目論んでいた『魔王』を単独で撃退。『人を殺す力』を持っていた魔王が消滅した事で世界は安息の地を取り戻した』

「……どこから見つけたよ、この記事」

 アギトは全てを読みはせず、携帯を閉じてヴェラに呆れるような視線を突きつける。

「世界中――いえ、『世界中』探してやっと見つけましたよ。当然『このディヴァイド』のモノではありません」

「…………、」

 アギトは押し黙る。アギトも薄々察していた、という気持ち。そんなアギトを放って置くようにヴェラは一人続ける。

「エヴァン・サウスサイドという名前はどれだけ探しても登録されていません。それどころか、『このディヴァイド』ではサウスサイドという名前は一つも存在しません。この事実が指す意味は――、」グッと息を呑む瞬間。そして、告げる。「『別のディヴァイド』の名前ですね」

「…………、」

 ここでもまだ、アギトは言葉を発しない。

「アギトという名前は偽名だと伺っていました。七人の龍騎士と謳われた際に、その恐ろしく強い力の象徴として龍の顎、つまりはアギト という名前を与えられたから、と。ですが、何故なのか、アギト、という名前の登録が『此処』にはあります。当然、改めて登録しなおす制度はあり、後から本名をアギトと変えた可能性はあります。ですが、本名がエヴァンであれば過去の記録として残っているモノです。ここまで聞けば私が何処まで知っているか、分かりますね?」

 アギトは首肯した。だが、まだ喋りはしない。

「エヴァン・サウスサイド。貴方は『この電脳世界ディヴァイド』にアギトという名前で存在するまで、『別サーバーのディヴァイド』にいましたね。愛したルヴィディアだけには本名を伝えた。事実、そうでしょう? アギトという名前は七人の龍騎士から。それに、ルヴィディア以外の人間でアギトのエヴァンという名前を知る者は一人としていない。こちらへ来てから、適当な偽名を使って生活し、時間が経ってアギトとなってのでしょう? 貴方がこのディヴァイドに来てから過ごした時間は一○○○年ほどでしたね? 実際は、もっと長く生きているのでしょう?」

「……そうだ」

 ここでやっと、アギトは首肯した。そして、答える。

「その、別のサーバー、って考えはなかったが……。俺は初めてこっちに来た時、異世界にでも飛ばされたのかと思ってた。表現が正しいか分からないが、俺が前にいたディヴァイドは時間と比例していないが、確かに歳を取る世界だったからな。直さらだった」

 さっき送ってきたファイルの点は、と前を置いて、「あれも今の状況と似てる。『望まない死』、そして歳による死以外はあの世界ではなかった。だが、それを越える存在、『魔王』が現れた。それに立ち向かった内の一人が、生き残りが、俺だ。記事では単独で、となっていたが、仲間がいた。……今思えば、一人傭兵してたのもその経験からかな」

 アギトの言葉に、ふふっ、と笑ったヴェラは、最後に、と言う。

「ずっと上手く隠したようで、隠しきれてないですね。でも、まぁ、過去の詮索は良いでしょう。確かに、気になってもやもやした部分を晴らす事は出来ましたが。ふふっ……では、良いでしょう。もう」

 そうして、ヴェラは横にずれる。そして、その先を指して、言う。

「私はこのディヴァイドの中央塔最高官ヴェラです。元老院においても、最高の位置にいます。確かに、この世界が所詮機械の実験場だったとしても、それに気付いたのは最近の事です。それほど情報を持っているわけではないという事です。ですが、知っている事もあるのですよ」

「ふん……。ありがたいね」

 アギトはアクセスキーを柄状に戻して、歩き出す。ヴェラの指し示す、最後の道を辿るために。




    58




 誰も知らない空間。それが――中央塔最深部に位置する『この』電脳世界ディヴァイドのメインサーバールーム。そこは公に後悔されているメインサーバールームとは違う、世界を構成するための、『ディヴァイドのサーバー』。

 空間は広い。恐ろしいばかりに広い中に、何もない空間。アギト達がそこに存在するというのに、扉一つない空間。

「では、終わらせてくださいね」

 ヴェラはそう言って、そこから居なくなる。扉などなく、どこから入ってきたのかも分からないのだ。消える、という表現が一番しっくりくるだろう。

「まぁ、なんとかしてみるわ」

 ヴェラの居なくなった空間でアギトは一人そう呟き、アクセスキー、あの、魔王から譲り受けたアクセスキーを手にする。そして、柄状のそれを天高く掲げるようにして、開錠。

 柄状のアクセスキーの先端から、レーザーが照射され、その恐ろしく広く、何もない空の空間の天井に突き刺さる。そうして出現したのは――エラーだった。渦巻く漆黒の闇。どこからみても円に見えるが球体ではないそれは、天井に出現してから急激に広がり、壁、床とアギトを飲み込むように部屋を包み込んだ。

「……終わるな」

 アギトはそうポツリと呟く。アギトは今、この状態で、特別思考する事はなかった。あれだけの惨状を招いてから、アギトはただ終焉に向かう事を目指し、特別考えることをやめていた。故に、クライムを殺した際も特別な変化、心境の揺るぎを見せなかった。

 周りの景色は流れる。だが、流れるのは漆黒のみでアギトには変化が手取れない。

 暫くして、その漆黒の中に白が浮かび上がってきた。

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