11.集結後の終結。覚悟―3
「ッ」
アギトは応戦する。が、手数の違いで圧倒されてしまう。
アギトは攻撃を弾き、その間にアクセスキーを二本の薙刀へと変化させる。ビビッドの使っていた形体のモノだ。アギトは組織に協力した際に、組織のアクセスキーの殆どを接触させ、コピーしていたのだ。
振るい難いと思われる薙刀だが、アギトの技術とその動きに任せれば容易く扱えた。
薙刀の先から尾までを完全に使い、数々の攻撃をいなして、時折攻撃を交えて行く。
暫くの攻撃を続けて、アギトはまたアクセスキーを変化させる。そして次に変化したのはサングラス型のアクセスキー。これは、ニオの所持していたモノだ。
薙刀で一瞬の隙を生み出したアギトはアクセスキー型へと変化させ、終わらせるために攻撃を仕掛けたのだ。視界内にクライムの剣を捉え、そして、発する。
「消え去れ」
同時、クライムの周りを漂っていた剣は弾ける様に消滅する。
――だが、その全てがずっとアギトの視界内に留まっているわけがなかった。アギトの無秩序な攻撃を避けた剣一本と、アギトに弾き飛ばされていた二本の剣が奇襲。アギトは二本の攻撃を巧みな動きで交わす。サングラス型アクセスキーの弱点は刃がない、という事。攻撃は避けなければならない。
「ッ、」
だが、アギトが交わした動きを察知するように、第三撃が動いた。アギトの眉間に、その第三撃は突き刺さる。
「がっ!!」
その第三撃、鋭利な刃の先端がアギトのアクセスキーに衝突した。そのお陰でアギト自身に刃が突き刺さり、ダメージとなる事はなかったが――アギトの掛けるサングラス型アクセスキーが、砕けた。
「アクセスキーがぶっこわれただとッ!?」
真ん中から二つに砕け、アギトの両サイドを落ちてゆくアクセスキーだったもの。
そして、そこに突き刺さろうとする残り三本の攻撃。両手に剣、そして宙に一本剣を浮かせるクライムがアギトへと迫る。
「今度こそ、終わりだ」
そう言って、クライムはアギトの懐へと入り込む。
「くっそ!!」
アクセスキーが壊れる、などアギトといえど予想出来なかった。アギトはそこでやっと気付く。アクセスキーとて武器。耐久力は恐ろしい程にあり、頑丈だ。だが、一物質。酷使し、耐久度がガリガリと減っていたのだろう。武器職人と会いにいけなかった事もここで影響が出ているのかもしれない。アクセスキーも、限界だったのだ。
そして叩き込まれる斬撃。
「がはっ、」
吐き出される鮮血と共に、両者の動きは止まり、戦いは終わった。
――突き刺さる、『漆黒の刃』。
吐血したのは、クライムだった。
「悪いな。今の俺はラスボス前なんだ。アクセスキーが二つあるくらいの恩恵を受けてても不思議ではないだろうよ」
そして、アギトの右手に握られるのは、魔王から譲り受けた漆黒の刃を持つアクセスキー。そして、その切っ先はクライムの胸部を貫き、黒い刀身に鮮血の赤をなぞらせている。
「がはっ……ぐっ……くそ。そん、な……アギ、ト……!!」
クライムの両手から剣が落ち、彼のすぐ側で浮いていた武器もまた、力なく地に落ちた。
落ちた三つの武器は即座に人型へと戻るが、それと同時、アギトはクライムの身体を引き裂く様にアクセスキーを横に薙ぎ払う。
「ぐあ、」
マトモな悲鳴は聞こえなかった。クライムの断ち切られた身体から噴出す鮮血が戻ったばかりの三人のアームドに吹きかかかると同時、クライムの粒子化が始まった。その色は当然、紫。
「……後はどうにでも、なれ、だ。……救世主を演じて、みせろ、よ。アギト」
粒子化されながら、クライムは無表情で最後にそう吐き出し――消滅した。
そして、その場に残された三人は動きを迫力という威圧のみで際され、動けなくなる。ただ、怯えた表情でアギトを見上げるのみとなった。そんな三人にアギトは言う。
「別に殺しはしねぇよ。ただ、面倒だからな。移動手段を借りるぞ」
57
悲鳴が恐ろしいばかりにこだました。そんなおぞましい場所は中央塔。
ヴェラがモニターでアギトの行動を予測し、牽制したのだ。当然、アギトもそれを予測していて、クライムの部下から奪い取った船で中央塔に到達したとたんにアクセスキーを構え、振るっていた。
超階層の中央塔はエレベーター代わりのワープ装置を使わなければアナログに階段を上らなければいけなくなる。
当然、ワープ装置の電源は消されていて、アギトは階段を駆け上がる。階段には数多くの兵士達が配置されていた。連中の中には中央塔所属ではな影も見えた。ヴェラも、全力でアギトを止めようとしているのだろう。その役割を全うするがために。
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 邪魔するヤツは全員殺してやるぞコラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
アギトもまた、やはり負ける気がない。半ば暴走気味にアギトは体力の分配をも考えず、突っ走って階段を駆け上がり続けた。
そうして暫くして、アギトは全てが始まったともいえるあの巨大な空間へと出た。元老院と初めて出会った場所。そしてここは、アヤナと初めて出会った場所でもある。ここには、兵士の姿は見えなかった。変わりに、入り口から離れたこの部屋の最深部に一人の影。当然その影は、ヴェラ。
アギトがこの部屋に侵入すると、背後で扉が閉まった。だが、アギトは振り返らない。
「……やっぱこうなるよなぁ……」
アギトはそう吐き出して、アクセスキーを握る手に力を込める。
そして、遠くから返事が返される。
「……戦う気はありませんけどね。『あんな光景』を見た後ですし」
「だが、ヴェラ、アンタは中央塔の人間で、挙句被害者だ。俺を止めようと思うんだろ?」
「そうも思うんですけどね……。いや、でも、私は分かっているつもりです。貴方が、全部を終わらせる手段をただ唯一持っているという事も」
「……一体何がしたい? こんな舞台を用意しておきながら?」
アギトは眉を顰める。いまいち行動や心を決めきれないような態度を取るヴェラの本心を見透かせないアギトはまだ攻撃を仕掛ける気にはなれない。
アギトの問いに、ヴェラは返さない。そして、言う。「アギト。貴方がエヴァンという名を捨てたのは……理由が何かあるでしょうか?」




