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2.向き合う世界―14


 ずかずかと進んだアヤナはそのまま宿に突入。玄関口から覗いて宿主すら意味不明な勢いだけで押し退けて、アヤナは気合の入った声を上げる。

「たのもー!!」

 表情は真っ赤だった。林檎顔負けな程に、真っ赤であった。

 そうして訪れる沈黙、アギトとミライは肩を合わせてただ呆然とその光景を繁華街の一本道から見守り、宿主は突然のアヤナの登場に驚いて腰まで抜かしている。一方でアヤナは、叫んでからその羞恥に気付いたのか、玄関を思いっ切り開けた所で動きを止めて、プルプルと小刻みに震え始めた。そのまま表情に赤らみを増加さしていく。

「やっちまったな」

 アギトの呟きに、申し訳なさそうにミライが頷く。

「あぁああああああ!! もうっ!! ここに泊めてください、うわぁああああああああああああああ!!」

 数秒の後、事切れた様にアヤナは、うがー、と雄叫びを上げて、狂ったように頭を掻き毟りながら宿内で叫び声に良く似た悲鳴を上げた。

 宿主は相変わらずアヤナの側で腰を抜かしているて、アヤナはその慌てるあまりその存在に気付いていない。そんなどうしようもない現状にアギトは嘆息して、宿の中へと入ったのだった。

 そうして何とかして、今晩の落ち着きを手に入れた一同。

「ミライ、ありがとな」

「ううん。気にしないで。必要なら、明日も何か、お手伝いするよ」

 アギト達が借りた部屋は二部屋。アヤナが「アンタなんかと一緒の部屋で寝られるかー!」との事で、こうなったのだが、金銭面で困る事はないのでアギトは承諾し、礼を伝えるためにミライを部屋まで招いていた。

 ワンルームのボロ部屋にベッドと小さなテレビが一つずつ。それ以外に何もないこの部屋で、アギトは床に胡坐をかいて座り、ミライにベッドに腰掛けさせ、アギトがミライを見上げている。

「で、聞きたい事が山ほどあるんだが、いいか?」

 エラーのありか、現在のベータの情報。問いたい事は無数にあり、アギトは確認を取る。が、すぐに首肯が返って来たのでアギトは間髪入れずに言葉を続けるのだった。

「まず、このベータの現状を知りたい。首都に向かったが、鎧をきた無数のバケモノに襲われただけだし、人間の影は全く確認できなかった。辺り一帯も廃墟しかねぇし……。一体どうなってんだ?」

 アギトの訝しげな表情に僅かに俯いたミライがボソボソと応える。

「……内戦は、フレギオール派の勝利で、終結しました」

「ちょっと待ってくれ」

 ミライの言葉途中でアギトが遮るものだから、ミライは僅かに驚いて表情を上げ、首を傾げた。

「どうか、しました?」

「申し訳ないんだが、俺はベータで内戦があった、つー事しか知らないんだ。だからその……、フレギオール派とか言われても、よく、わからねぇんだ。ごめん」

 申し訳ない気持ちを表して、アギトは僅かに羞恥心を感じながら吐く。テレビやメディアに目をやっていなかった事が、こんな事にまで響くとは、といった気持ちであろうか。

 そんなアギトの状況を聞いたミライは「説明不足でごめんなさい」なんて謝罪をして、

「この内戦は、エラーを世界の進化の象徴だ、と主張するフレギオール派閥と、エアーは人類の危機であるというアルゴズム派閥との戦争、だったの。アルゴズムは、ベータの王。フレギオールは、遂行信教っていう宗教の、トップ、なの」

 ミライの話しに真剣に耳を傾けるアギトは理解を示すように相槌を打っている。

 アギトが話しを聞いているのを確認しながら、ミライは続ける。

「結果、アルゴズムはフレギオール派の人間に殺されちゃって、フレギオール派の、勝利で、この前内戦が終わった」

「なる程。国王アルゴズムが殺されたから、首都があんな状態になったって訳か」

「そう。フレギオール派はこの内戦の、結果を利用して、政権を握ろうと、しているの。だから、その象徴として、今まで首都だったあそこらへん、一帯を、破壊しつくしたの」

「……、正直俺達が来たタイミングは悪かった、って事か」

「うん」

 首肯。続けて、

「フレギオール派は、エラーの、その力を利用、して、バケモノの兵士を、どんどん作り出して、国民を力で、強制的に、支配し始めた……の。逆らった者は殺す、って。フレギオール派はそうして、次に、私とか、この繁華街の皆、みたいな、逃げ延びた人を、炙り出そうと、しているの。幸いにも国は広いから、すぐには見つからないけど、私達はフレギオール派からレジスタンスなんて、認定されちゃってるから、多分捕まったら最後、殺されちゃう」

 言いながら、ミライの表情は曇り始める。重力に引かれるがまま俯き、表情を落として、小声で吐き出す様に言う。言った。そんなミライを見てアギトは感じ取る。エラーという恐怖に怯える、被害者の気持ちを、だ。

 エラーの情報が問う前に聴き出せたのは良かったが、それと一緒にミライの小さな口から吐き出された現状の酷さはアギトにまでショックを与えたのだった。

(面倒な事になりそうだ……)

 アギト達はベータのエラーを閉じに来たのだ。それ以外の目的はない。当然、そこにミライ達を救ってやる、という目標はない。だが、この現状は、偶然にも利害の一致がある。エラーはフレギオール派の元にあり、エラーを閉じるためにはフレギオール派と一戦交わさなければならないだろう。そしてフレギオール派を倒せば、アギト達はエラーを閉じる事が出来るし、ミライ達もエラー、フレギオール派の恐怖から解放される。

 であれば問題はない。

 アギトは俯くミライを見上げ、非常に明瞭な声で言い切る。

「俺等がフレギオール派とやらを倒してきてやるよ」

「っ、」

 アギトが吐き出した言葉にミライは目を見開いて驚いた。表情を上げ、呆然とした様子でアギトと視線を重ねる。何か言いたげではあるが、焦燥でも感じているのか、口が金魚の様にパクパクと動くだけで言葉は出てこない。

 そんなミライを見て、暫く言葉は出てきそうにないな、とでも思ったのか、アギトが沈黙を破るように言葉を続けた。

「俺達はエラーを閉じにベータまで来たんだ。ニュースで見た程度の知識しかなくて、こんな現状になってるなんて知らなかったけどよ、ここに来たのは本当にエラーを閉じるっていう目的を掲げてきたんだ。それはつまり、だ。俺達はどちらにせよ、フレギオール派と戦う事になるだろ? フレギオール派はエラーのバケモノを生み出す力を利用してるんだし、俺達はそれを閉じようとする、恐らく、戦いになるだろ? もし、それで俺達が勝利すれば、エラーは閉じれるし、ミライ達がエラーとかフレギオールの恐怖に怯えることはなくなる。いいだろ?」

 言うだけ言って、アギトは得意げに笑んで見せる。

 が、

「って、えぇ……。エラーを、閉じるって、一体、どういう……?」

 驚くミライ。その姿を見て「俺も説明が足りてなかったな」とアギトは失笑。

「俺とアヤナはアクセスキーっていう鍵を持ってる」

 言って、腰のベルトから柄の状態のアクセスキーを取り出して、ミライに突き出しえ掲げる。

「これは、エラーを閉じる事ができんだ。エラーを閉じれば、バケモノも出てこなくなる」

「え、えぇ!! そんな、モノが、あるんだ……」

 ミライはアクセスキーを、興味津々な視線で見回している。現時点でアクセスキーの存在を知っているのはフレミアと会った者だけだ。当然の反応であろう。

「これが、アクセスキーな、の?」

 確認を問う様にミライはアギトが突き出すアクセスキーを指差して首を傾げる。

「おう。そうだ。正確に言えば、俺の、だがな。アヤナのはまた形も能力も違うし」

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