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11.集結後の終結。覚悟―1


 アギトに眼前の魔王という存在が重く圧し掛かる。こいつが、元凶。こいつが何かを仕掛けた。こいつのせいで、世界が滅びる。そう思うと、止まっている自分に腹立たしくなる。だが、どう足掻いても魔王を今殺す事は叶わない。殺してしまえば全てが終わるのかもしれない。だが、殺してしまう事で取り返しのつかなくなる事もある。それに、『あの戦い』の一件もある。とりかえしの付かない事をする、という自覚が異常なまでに強くなり、自制がやたらと効いた。効いてしまった。

「くっそ……」

 吐き出して、アギトはアクセスキーを柄状に戻して腰のベルトに戻す。そして、アギトの手に残るのは魔王から渡されたアクセスキーのみとなる。

「試しに、展開してみろ。貴様の記憶と経験を頼りに変形するように、つまりはフレミアの作ったそれと同じ様に設計してある」

 そう言うと老人は一歩下がって、腕を組み、アギトのその行動を待つと言わんばかりに制止した。

 訝しげに思いつつも、アギトは譲り受けたアクセスキーを左手から利き手の右手へと持ち帰る。

 アギトが心配する中で、それを察したように魔王が口を開く。「心配するな、罠なんてない」

 どうにもその言葉に嘘を感じ取れないアギトは、訝しげにした表情を崩さずに、まだ、疑いながらもアクセスキーを今までの様にふるってみる。――と、鋭利な音と共に、柄状のアクセスキーは刀へと変化した。だが、その刃は、今までアギトが使っていたアクセスキーとは違い、漆黒。その漆黒は余りに黒く、アギトが暴走してしまったあの影を連想させる。

「……何故黒?」

 アギトが更に眉を顰めて問うと、老人はケタケタと笑みながら言った。

「アクセスキーは例外なく全てが白だっただろ? 気になって挑戦してみたのだよ。色を変える事が出来るのか、とな。……結果はご覧の通り。それも容易く出来た。白だったのはフレミアのこだわりか、フレミアだからという理由があるのかもしれないな」

「ふーん……。そうか、で、」アギトはそう言ってそのアクセスキーを柄状に戻してフレミアのアクセスキーを締まった場所とは反対の場所に掛けて、言う。「で、これを渡しただけで終わりじゃないだろう?」

 詮索したアギトは魔王を睨む。だが、そこに戦闘意思は見えない。

「そうだな。それだけで終わるはずがない」そう言った魔王は腕組みを解き、静かに言う。

「そのアクセスキーに付加したスキルについて説明しておこう」一瞬の間。アギトが生唾を飲み込んだと同時、始まる。「そのアクセスキーは『マトリクスの狭間』への道を開くスキルを持っている。つまり、それがあれば、私とフレミアの場所まで辿り着ける、そして、最終決戦を終える事ができる、という事だ。ラスボスを前にした勇者へのご褒美だ」

 そう言う魔王はどこか笑っていた。その様子にアギトはフレミアが言った言葉を思い出す。

 ――魔王は、『楽しみたいんだと、思う』。

 そこでやっと納得が言った。魔王は、この現状を楽しんでいるのだ、と。自身が支配する、自身がラスボスとなるゲームで、勇者が、アギトがどう動くのか、と神の目線で楽しんでいるのだ。フレミアは魔王は現実と電脳世界との『中間』にいると言った。機械の攻撃をも支配し、調整する立場。力。魔王は、やはり、全ての根源だ、とアギトは再認識した。

「そしてこれはサービスだ。マトリクスの狭間、フレミアの言うもう一つのディヴァイドへの扉は――『中央塔にある』」

 そう言った魔王は踵を返してアギトに背を向けた。そして、右手をひらひらと振りながらゆっくりと歩き出した。背中を見せて隙だらけだろうと、アギトは追ったり、奇襲をしたりなどしなかった。

「すぐに辿り着くからな……」




    56




 アギトは魔王と別れてから、自身の記憶を辿りながら辺りの様子を確認するために徘徊していた。アギトはあの戦いの中で『暴走』してからも、意識だけはあったのだ。身体が言う通りに動かず、別の人格が支配し、動かしていたような状態だった。

(くっそ……俺はなんて事を……。俺のせいでこの状況が出来た様なモンじゃねぇか……。それに、俺がレギオンとアヤナをこの手で殺してしまった……くっそ……くそ!)

 苛むアギト。だが、覚悟を決める理由ともなる。

(俺が、全部終わらせてやる。たとえ、魔王の掌の上で遊ばれていようがな……)

 アギトはそのまま暫く辺りを徘徊した。数時間も休憩なしで辺りの様子を確認したアギトは、ヴァイドの事を思い出すが、「……会わせる顔なんてねぇよな」と、面会は諦める事にした。報われる事はないが、今アギト自身に出来るのは魔王を倒して世界を救う事だけなのだ。

 と、そんな時だった。殺風景な景色の遠くから――複数の足音。

 何だ、とアギトが目を向けると、見覚えのある顔が目に入った。

「……クライム」

 そう、彼の下に向かってきたのはクライムとその部下一同。

 アギトへと近づいて距離を詰めた彼等。クライムはアギトの正面に立つと制止し、部下達は一斉に武器を構え、アギトを囲んだ。

「もう一つの反応は……? そうか、消えたか」

 クライムは携帯で捜索隊のメンバーとの連絡を終え、アギトを鋭い視線で捉える。

「どこへ行く気だ。アギト」

 そして、静かに問うた。

「全てを終わらせに行くんだよ。命に代えてもな」

 そう返すアギトは、自然と警戒態勢に入っていた。聞き手の右手がフレミアから譲り受けたアクセスキーに添えられているのが何よりの証拠である。

 だが、クライムはアギトを許さない。

「あれだけの惨状を真似ていておいて、実行しておいて、その身が自由にあると思うているのか? アギト、お前はただちに拘束。そして中央塔へと連行して――死刑だ。もし、反抗するならば……この場で殺す」

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