10.そして集結する―19
始めに入るのはヴェラの斬撃。アギトの腹を叩き斬るようなその一撃は――砕かれた。アギトは意識はないにしても、記憶としてヴェラの武器がアームドである事を理解しているのだろう。アギトの斧型に変化したアクセスキーの舞うような一撃に、容易く、砕かれてしまったのだ。
悲鳴が聞こえる間すらなかった。粉砕されたアームドは紫色の光の粒子となって、消滅する。
「なっ……ッ!!」
呆然と動きを止めてしまうヴェラ。最早手の打ち様がない。アギトの素早いアクセスキーの変化。斧から刀となったアクセスキーは、ヴェラの脳天をかち割るといわんばかりに落とされる。だが、そこに飛び込む小さな白い影。当然、アヤナだ。
アヤナの巨大鎌は振り切るという意思を持っていない。ただ、一撃でも当ててやろうという構えでしかなかった。だが、それが幸を制した。
ヴェラを眼前に捉え、懐にまで視線を送っていなかったアギトの胸元に、巨大鎌の切っ先が突き刺さった。
アギトは瞬時にそれに気付いて瞬間移動しようとするが、
「う、わぁああああああああああああああああああああああああああ!!」
アヤナの、懇親の一撃。一歩踏み出し、切り上げる斬撃。その瞬間、アギトの身体の表面は確かに裂かれた。漆黒に染まった身体に深紅が浮かび上がり、噴出す。
その瞬間、アギトは思わずよろけた。アギトといえど、暴走状態といえど、人間として設定されているため、限界はいずれ来る。百余名の数を力の限りなぎ倒してきたのだ。たとえその時間が短くとも、アギトの身体にかかっていた負担は計り知れない。
ドッ、と衝撃が走る。アギトは一撃に反応して瞬間移動して、後ずさるが、その時既にアギトは斬撃を受けた後。アヤナ達から僅かに離れた位置に出現したアギトだが、最早その身体に力はなかった。あれだけの数を相手にし、レギオンの攻撃を防いだ。それだけの、常人であればとっくに死んでいるような行動を耐えてきたのだ。当然といえば当然で、今、その疲弊の色が出てきたのは感心する程に耐えた証拠でもある。
故に、反応が追いつかない。
アヤナがアギトのすぐ眼前にまで踏み込む。そして、
「アタシが殺してあげる……」
そして、一撃。
鮮血が漏れる――互いの口から。
ズブリ、とアギトの首下から腹部まで沈むアヤナの持つ巨大鎌型のアクセスキー。そして、――アヤナの咽喉下を貫く、アギトの持つ刀型アクセスキーの刃。
「がっ、……あっ、」
アヤナは声が出せないのか、鮮血と吐息を漏らしながら、巨大鎌を握る手に最後の力を込める。アヤナが僅かにでも動けば、首に突き刺さる刃が動き、その鋭利さでアヤナの咽喉を徐々に掻き切る。
だが、それでも、アヤナは止まれない。
(アギト……。もう、どうしてこうなったかな……)
アヤナの巨大鎌がアギトの身体を断ち切ろうと進むたび、アギトの身体からはこれでもかと鮮血が溢れ出す。
アギトは声こそ出さないが、苦痛に表情をゆがめていると思えた。この状態で、最早アギトの身体は動かない。動かす事が出来ない。だから、故に、アギトの持つアクセスキーはアヤナの咽喉に突き刺さったがまま。
アヤナの白い肌、服装を赤が染め上げてゆく。もう白が見えない程に赤が流れたと同時。
「アヤナ!」
ヴェラは駆け出すが、間に合わない。
アヤナも、アギトも、そこで――落ちる。
その後、ヴェラの前で光輝く粒子と、紫色に淀む粒子が入り混じって舞い上がる光景が長い事流れたのだった。




