10.そして集結する―18
レギオンの本気の一撃。周りの組織を吹き飛ばしてでもアギトを叩き殺そうとする一撃。少数の犠牲は必要だ、と判断したが故の行動。その一撃が、アギトに突き刺さる。
二人の衝突。同士に目をくらます程の閃光が辺りにばら撒かれるように広がる。辺りで構えたていた組織の面々は余りの衝撃に吹き飛び、数メートルも転がった。だが、衝撃はあっという間に消滅した。
そして、閃光が消え、見えてきた光景は――強化骨格型アクセスキーを装備し、拳を突き出した状態で制止するアギトと――そのすぐ眼前で、舞い上がる紫色の光の粒子。
一目瞭然だった。レギオンが敗れた、という事実を確認するには十分すぎた。あの強烈な一撃は相殺されるどころか返され、利用され、倍返しの一撃を叩き込まれたレギオンは当然の如く死亡したのだ。
「そんなッ……! レギオンまで……!」
最早アヤナの手に負える問題でない事は明瞭だった。だが、止まるわけにはいかない。
組織の面々の数は最初に比べて五分の一にまで消滅していた。
「アギト!」
ヴェラが立ちはだかる。だが、結果は容易く予想できた。顔みしり、という事からか、アギトの深紅の瞳はぐるりと動いてヴェラを捉える。そして、疾駆をも越える瞬間移動。ヴェラの眼前に出現するアギト。
だが、その間に割って入った小さな白い影。
「アギトぉおおおおおおお!!」
巨大な鎌を携えた、アヤナだ。
(絶対に、アタシのアクセスキーで殺してみせる!)
アヤナのアクセスキーで殺す事が出来れば、再出現するために粒子化され、後に世界のどこかに再出現させられる。これで、アギトが漆黒から救われるという保障はないが、それでも、彼を『殺さずに』止めるにはこの方法しかなかった。
「アヤナ!?」
ヴェラが驚愕の表情で懐のアヤナを、そのアヤナの覚悟の決まった表情を見た。
「絶対に殺すから……」
アヤナはそのまま巨大な鎌型アクセスキーで切り上げる。だが、アギトは瞬間移動で容易くそれを避けてみせた。そして、アギトが次に出現したのは、彼女達から離れた場所。そこでまた、悲鳴を浮かび上がらせる。
「あっちね……!」
すぐに気付き、方向転換をして駆け出そうとするアヤナ。だが、それをヴェラが止めた。
「危ないですよ……。アヤナ」
だが、アヤナは手を振りほどこうとして――覚悟する。
「ヴェラ……協力してちょーだい。命の保障は出来ないけど……」
アヤナは確かにヴェラを見上げ、静かに、そう言った。その揺ぎ無い瞳にヴェラは思わず辟易した。
アヤナの話しは恐ろしい程に浸透した。全員が、その作戦に首肯したのだ。勿論、その話が広がるまでで十数人殺されてしまったのだが、生き残り全員の気持ちが団結した時点で、戦力、士気が上がったといっても良い。これが、最初で最後の好機なのだった。
そんな中でアヤナも覚悟を決める。「一瞬で良い。一瞬でも隙を作ってさえくれれば、アタシが死ぬ気で攻撃を叩き込む……ッ!!」
残る戦士の数は二○名程度。全員で押さえ込めさえすればアギトであれど動きは止まるだろう。だが、一撃で全滅される可能性もある。全員が、命を賭けていた。
アギトは再び動きだす。視線で追うのは不可能とも言える瞬間移動。刹那、アヤナのすぐ側で悲鳴があがった。
「アギト!」
アヤナは声のした方へと向き直り、数メートル先のアギトの姿を捉えた。やはりアギトは強い。今の一撃で三名程を容易く葬ったようだった。紫色に輝く粒子が舞い上がる光景の中、――アギトに飛びかかるように攻撃を仕掛ける組織の生き残りの姿が続いて見えた。
全員が一丸となったからか、生き残りは一箇所と言っても過言ではない程に固まった。これが、最後の好機であり、最後の危機。アギトの大振りの攻撃が炸裂すれば全員が纏めて葬られてしまう。だが、そのチャンスを与えず、全員が同時に仕掛けられさえすれば、アギトといえど動きは止まり、隙を生み出すだろう。
面々の攻撃が次々に炸裂する。アギトはその全てを瞬間移動を交えたアクロバティックな動きで避けてみせるが、殺す目標が近くにいるからか、遠くへ逃げ出そうとはしなかったのだった。
チャンスを伺い、巨大な鎌を構えるアヤナ。
だが、アギトもそう容易くいなせる相手ではなかった。
数秒。たった数秒が経過しただけの光景。その光景は――無残。今は、最後のヴェラがアギトに飛びかかる瞬間だった。
はっ、と気付いたアヤナは最早作戦等お構い無しに、ヴェラに続き、疾駆するしかなかった。




