10.そして集結する―12
アギトの表情は怒りに歪む。そして、感情のままに大音声の怒声を上げる。
「ルヴィディアとこの旅の中であったのは三度程だがな。それでも、お前はおかしくなったと俺は思ってる。どうしてなんだ。昔はそんなんじゃなかっただろう。それに今はヴァイドだっている。ルヴィディァ!! お前には守るモンがあるじゃねぇか。それなのに、なんで全部ぶっ壊すような真似を……!!」
だが、アギトのその言葉はルヴィディアの不敵な、低い笑みで遮られる。
「フ、フフフフフ……。先は、言えないからな」ルヴィディアは静かにそう言って、ふと、拳銃の一つを持ち上げて、その銃口を自身のコメカミへと突きつけて、言う。「一番に分かりやすい答えを示そう。これが、覚悟だ」
同時、ルヴィディアはその引き金を引き絞った。
そして、発砲音が炸裂する。ルヴィディアの頭は大きく揺れ、そして――倒れなかった。倒れないと思うと、同時、ルヴィディアのコメカミから『漆黒が彼女の身体を支配し始めた』。
徐々に彼女の身体を真っ黒に染め上げるその漆黒を見て、アギトは思い出した。
(スカーエフの時と同じか……ッ!!)
あの、恐ろしいばかりに力を増幅させる漆黒だった。そうだ。スカーエフやホープのあの力はルヴィディアが与えたモノ。あの銃型のアクセスキーに、その力が宿されていたのだ。
だが、完全にその身を漆黒に染めたとて、彼女のその様子はスカーエフやホープとは僅かに違った。力を手に入れてなお、自我を完全なまでに保っている。そんな様子が感じ取れた。
その漆黒から、僅かにひずんだ声が漏れる。
「どちらが勝つにせよ、私からすれば変わりないからな」
そう言った瞬間だった。ルヴィディアは地を蹴る。すると、恐ろしいばかりの勢いで彼女はアギトへと迫った。一瞬だった。一度の蹴りで、恐ろしいばかりに加速したのだ。身体能力を恐ろしく向上させた結果の動きだ。
くそ、と吐き捨てる時間もなかった。咄嗟にアクセスキーを強化骨格へと変えようとするアギトだが、その速度に追いつかない。
ダガン、と発砲音。散弾銃の弾丸がアギトの全身を恐ろしいばかりに叩いた。運良くか、それと同時にアクセスキーが強化骨格型へと変わったため、致命傷は避ける事が出来たが、大ダメージになったのは言うまでもない。
アギトの身体は列車に突っ込まれたかの如く大きく後ろに吹き飛んだ。
だが、その吹き飛んだ先に既にルヴィディアは待ち構えている。が、アクセスキーを強化骨格型へと変化させたアギト。空中で、ダメージを受けて吹き飛ばされているという無理な体勢の中、強化骨格型アクセスキーの補正による身体能力で無理矢理に身を翻して、正面からルヴィディアへと突っ込もうとするアギト。
振るわれる拳、それと向き合う銃口。
「あぶねっ!?」
咄嗟に避けるアギト。そして、ルヴィディアの横を通り抜けて転がるアギトはすぐに体勢を立て直して、振り返る。
そして、正面には漆黒のルヴィディア。その手には純白のサブマシンガン。
トリガーが引かれると同時、恐ろしい数の銃弾がばら撒かれる。それは全てアギトの体に向かって真っ直ぐ向かい、突き刺さる。強化骨格型アクセスキーの補正があるために銃弾が突き刺さり、貫通して死に一直線、とはならないが、それでも、降りかかる雨の様な弾丸に叩かれるダメージは恐ろしい力だった。
アギトは地にひれ伏せられ、そのまま弾丸を浴びる。
「ぐっ、ああああああ!!」
なんとか転がって移動し、大勢を立て直そうとするが、中々起き上がれないアギト。
「エヴァン。耐えるのは自由だけど、苦しいのは貴方」
「ぐうううううう……」
敢えてアギトはルヴィディアの足元に迫る様に転がり、ルヴィディアの足下に入り込んだところでアクセスキーを一瞬の隙の内に盾型へと変化させて、迫る銃弾を一時のみだが防ぐ。
盾を構えるアギトの手には恐ろしいばかりの衝撃が連続して走る。が、防御が出来ているという事実。その間にアギトはルヴィディアの足元を掬うように寝転がった体勢からのフットスウィープを放つ。それを避ける様に盾に跳躍するルヴィディア。その間にアギトは立ち上がり、恐ろしいばかりに跳躍したルヴィディアを見上げる。
真上に跳んだかと思ったルヴィディアだが、どうやら弧を描く様に大きく後退するように跳躍したようで、数十メートルも彼女は飛んで距離を作ったのだった。
「あんな長距離飛んでどうする気だ……?」
視界の中心にルヴィディアの姿が見えるが、物凄く小さく感じる。それ程の距離があるのだ。それだけの距離があると、サブマシンガンやショットガン、拳銃の弾丸は当たらないと断言できる。それくらいの距離である。
だが、ルヴィディアの手はあれだけではない。手にした銃型アクセスキーはその形を変化させて――ライフルへと変わる。スコープのついた、スナイパーライフルだ。
遠目にその光景を見るアギト。これだけの距離があっても、ルヴィディアの手にあるそれが何かははっきりと理解できた。
発砲音が遅れて聞こえてくる程の距離ではなかった。だが、避けるのは精一杯だった。
横に跳んだアギト。だが、そこに追撃が入る。咄嗟に盾を構えると、盾の中心に恐ろしいばかりの衝撃が走った。
「ッう、」
距離があるとはいえど、ライフル相手には良い距離。衝撃が弱まる事はない。
アクセスキーによる銃撃だ。残弾数という概念はないのか、攻撃が止む事はなかった。次々と盾の形を取るアクセスキーに突き刺さる銃弾。辺りには発砲音だけが響く。
だが、そんな中、発砲音を掻き消す程の大音声がアギトの後方から響いたのだ。
「アギト!!」




