表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
148/169

10.そして集結する―11


「オォオオラッ!!」

 踏み込みと同時に、アギトは膝蹴りをルヴィディアの横っ腹目掛けて叩き込む。だが、それは構える銃の銃身によって防がれる。が、アギトはそれを見越していて、曲げていた膝を伸ばすようにルヴィディアの頬に足の甲を叩き込む。

「ッ、」

 ルヴィディアは脅威の反射神経でそれを片手で受止めよとするが、強化骨格の補正の掛かった一撃。片手のみでは防ぎきれない。

 豪快な打撃音が炸裂した。そして、ルヴィディアがノックバックして数歩分の距離がそこに生まれる。よし、と思う前にアギトはその距離を詰めようとしていた。相手は遠距離武器の使い手、距離を生み出せば負ける。

(威力だけで言えば強化骨格が最適だな。ルヴィディアでも崩す事が出来る……!!)

 一気に距離を詰めると同時、アギトはルヴィディアの懐にもぐりこむように体勢を低くして、体勢を戻す勢いを利用した、強烈なアッパーを放つ。空気の層すらをもぶち破る勢いで放たれたアッパーはルヴィディアが変化させ、手にもっていたショットガンを下から打ち上げる。

 強烈な一撃は確かにルヴィディアをも超えていた。ショットガン型アクセスキーはルヴィディアの手から離れ、彼女の頭上高く打ちあがった。

 いくらルヴィディアとはいえ、アクセスキーのない状態では差が生まれてしまうはずだ。

 アギトのアッパーからのジャブがルヴィディアの頬に向かう。だが、ルヴィディアはそれを――容易くいなして見せた。

「!?」

 突然の出来事にアギトの思考は追いつかない。くるりと捻りあげられるように攻撃を流されたアギトの身体は宙を舞い、ルヴィディアの足元に背中から間抜けにも落ちたのだ。

「がっ、」

 揺れる視界を落ち着かせる間もなく見上げると、宙を舞ったショットガン型アクセスキーを上手い事キャッチし、その銃口をアギトへと向けたルヴィディアの無表情に近い怜悧な表情。そして、その背後の淀んだ赤い空の背景。

 最早考える暇などない。咄嗟にそこから飛びのくアギト。同時、ショットガンからの発砲。恐ろしい程の衝撃と発砲音が走り、アギトが一瞬前にいた地面が隕石が衝突したのではないかと思う程に穿たれ、土と煙をばら撒く。

 あぶねぇ、と口内で溶かしつつもアギトは次の攻撃に出る。

 強化骨格の補正を借りた攻撃を放ち、ルヴィディアの発砲まじりのカウンターと防御が入り乱れる恐ろしい戦闘。気付けば、二人の足元は銃弾やアギトの足があらした跡を派手に残している。

 だが、ダメージは互いに少なかった。時折空いてに打撃を打ち込むことこそあれど、刃を振るわないために傷跡を残せないアギトと銃弾を放つもなんとか避けられてしまうルヴィディア。致命傷には至れない。

 互いとも時間を掛け、体力のみを削る戦闘の中で、声を上げる。

「ルヴィディア! どうして機械側に付いてるんだッ!!」

「どうでもいいだろう。今ハッキリしているのは互いとも負けられないという事情」そこまで言ったルヴィディアはアギトの拳を上手い事受止めながら、不敵に微笑む。「強くなったな。……『エヴァン』」

 そう言われたその瞬間、一瞬ではあるが、アギトの動きは止まってしまった。

 アギトではない、エヴァン。それは、彼の本当の名。

 思わず面食らってしまったアギト。その間抜けともいえる表情に、ショットガンの後部が叩き込まれた。ガッ、と鈍い音が炸裂して、アギトの表情がブレ、吹き飛ぶ。

 最早ノックバックという後退ではなかった。アギトの身体は盛大に吹き飛んだのだ。二メートル程も宙を舞って飛び、地面に落ちて数度バウンドまでした。当然の如くアギトはアクセスキーを手放さないが、それでも、距離が開けてしまった。

 転がった勢いを利用して即座に体勢を立て直してアクセスキーを盾型へと変化させるが、そこに向かってきたのは銃弾ではなくルヴィディア自身。伸ばされた華奢でありながらも豪腕な右腕が盾の縁にかけられる。

「!?」

 そしてそのまま、持ち上げるように盾は上へと上げられてしまい、その隙にルヴィディアの一撃がアギトの頬に入る。先の一撃もあってか、恐ろしいばかりのその一撃はアギトに負担となって響いた。鼻血が飛び、吐血する。

「だが、まだまだ私には勝てぬよ、エヴァン」

「くっそ……が、!」

 アギトの返す一撃。だが、やはり銃身に受止められてしまう。

 そして、もう一撃。縦に叩き下ろすようなアギトの拳を落とす攻撃。それを横に構えたショットガン型アクセスキーで弾こうとする。だが、アギトも考えていた。攻撃が衝突するその瞬間、アギトの背中に張り付いて四肢に補助骨格を伸ばしていたアクセスキーが突如として剥がれ、アギトの右手に戻り、節剣となったのだ。

 節剣の刃とショットガンの銃身がルヴィディアの目前で衝突する。当然攻撃はヒットしない。だが、節剣の刃はショットガンに衝突したと同時、節をバラし、その真っ直ぐだった刀身を曲げ、ルヴィディアに降りかかるように襲い掛かった。

 ルヴィディアの表情に一瞬だが焦りが見えたような気がした。ルヴィディアは咄嗟にバックステップでその攻撃を避けようとするが、節剣の刀身は恐ろしいばかりにまで伸ばす事が出来る。攻撃は避けられてしまうモノの、掠り傷ではあるが、ルヴィディアの頬を浅く切ったのだった。

 ルヴィディアの頬に赤い傷が浮かび上がる。

 二人の距離は三メートル程。だが、互いとも動きを止めた。

 頬に出来た傷から滲む血を腕で拭い、それを詰まらなそうな視線で確認したルヴィディアは表情を挙げ、言う。

「実際見るのとは違うな、やはり」

「…………、」

 ルヴィディアの言葉にアギトは沈黙で応えた。ルヴィディアのその言葉は、アギトの事を事前に調べ、戦いに備えていた、という事実と繋がる。

(ルヴィディアでも備えるんだな)

 そんな事を思いながら、アギトは言葉で返す。

「世界が滅んでも良いと? ヴァイド含めて全員が死ぬ事になるぞ。いくらここが現実世界じゃなかろうが、ここで死ねば現実の肉体も機械に破棄される。分かってる事だろ?」

「ハハハ……エヴァン。……自分が何を言ってるのか分かってるのか?」

「……?」

 眉を顰めて怪訝な表情を見せるアギトに、ルヴィディアは告げる。

「私は思考は普通だ。自分で思う限りはな。だから当然、私もそう――世界が滅んでしまうのは、と――思っている」

「だったら何で、何故そんなことしてんだッ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ