10.そして集結する―5
リリカの甲高い声が聞こえて、やっと、アギトは気づく。
走りながらも首だけで振り返り、二人の姿を確認する。表情には驚愕が覗いているが、アギトはそんな状況、心境の中でも、彼女達が装備する武器を確認していた。意識せずともそう出来る程、アギトは洗練されているのだ。
と、アギトは急停止した。駆ける足を急に止め、右足で踏ん張り、軸足として、一八○度ターン。そして、向かってくるギョクと向き合った。そして、衝突するかの如く、アギトは再び疾駆。
「ッ!!」
そして、アギトは向かってくるギョクの横を抜けた。
それは、アギトの機転を効かせた動きだからこそ、出来た芸当だった。間抜けにも横を抜かれたギョクは再び驚愕を表情に貼り付けた。だが、即座に不気味な、妖艶且つ艶かしい興趣の笑みを取り戻して、それだけの事が出来るアギトを評価する。
「いいわぁ……。だからこそ、殺す価値がある。さぁ、本気をみせてちょうだい……!!」
もう追いかけるだけの行為には飽きた、と言わんばかりに、ギョクはアクセスキーを光らせた。そして、掲げる。
ギョクの頭上に巨大な拳が出現する。それは、ギョクの動きと連動するように、ギョクが、腕を振るうと、一人でに動き出して、アギトを叩き殺そうと向かった。
「悪いな、借りるぞ」
その間、アギトもただ背中を向けて遁走を続けるに留まらない。ビビッドのすぐ目の前まできたアギトは、そう呟く様に吐き捨てて、ビビッドを飛び越えた。その際に、アギトはどんなテクニックを使ったのか、ビビッドの背中から、二本の薙刀型アクセスキーを抜き取って、手にしていたのだった。
着地、同時に振り返って、アギトはビビッドの前へと出る。
そして、二本の薙刀型アクセスキーを構え、内一本を、投げた。それは真っ直ぐギョクの作り出した拳へと向かって、突き刺さる。弾かれる可能性も見えたが、どうにか突き刺さった。それでも、拳は勢いを衰退させない。恐ろしい速度で、恐ろしいばかりの衝撃を乗せ、アギトを叩き殺そうと向かってきていた。
それがアギトに到達するまでの一瞬の間。アギトはまだ、諦めない。
「悪いな」
二本の薙刀を捨てるように投げたアギトは、すぐ背後にいたリリカの腰からレイピアを無理矢理に奪い取り、それを片手で構える。
「ちょ! 私のアクセスキー!」
リリカが喚きたてるように言うが、構っている暇等ない。
拳に二本の薙刀を突き刺したまま、向かってくるギョクのアクセスキーのスキルによって作り出された拳が、アギトに突き刺さろうとする。
――だが、薙刀の柄が、地面に突き刺さり、その勢いを弱めた。そして、レイピアを横にする様に構え、拳を受止めようとするアギト。
辺り一帯に衝撃が広がり、轟音が炸裂する。アギトは確かに攻撃を受止めたというのに、勢いだけで足元の砂塵が舞い上がり、景色をゆがめた。
「ぐぅっ!?」
リリカとビビッドが持っていた武器をアクセスキーだと信じ、アクセスキーの耐久性を信じて、アギトは攻撃を受止めた。受止められると思ってからこそそうした。確かに、動きを受止める事が出来た。だが、その衝撃はとてもじゃないが、相殺すら出来なかった。
アギトの身体に、強烈な付加が掛かる。
だが、『オラクルの恩恵』が付加されたアギトの『調子の良い』身体は、一度自身を殺しかけた攻撃を、防いでみせたのだ。
衝撃が放射状に広がる事で、リリカとビビッドにも衝撃は走る。可愛らしい悲鳴と共に、二人が僅かに吹き飛んだのが分かる。
辺りは騒然としていた。街中である故、少し離れた場所には一般人もいた。当然、その全てが衝撃に圧され、尻餅をついたり転んだりしてしまっているのだが。それでも、あちこちから悲鳴が上がっているのもまた事実。ギョクの恐ろしい一撃で、辺りは騒然となってしまった。
「オラッ!!」
細身でありながら強烈な殺傷能力を誇るレイピア型アクセスキーを弾く様に振るうと、迫っていた拳は砕けて散るよう、ガラスが割れるような音と共に消滅した。
そしてその場に二本の薙刀型アクセスキーが警戒な音を立てて落ちる。
「いひひひひっ!!」
眼前にあった巨大な拳が消えた事でその先の光景が見えてくる。そうして、アギトの視界一杯に映ったのは、不気味な笑みを携えるギョクの姿。視界が開けると同時に奇襲をかけてきていたのだ。
「ッ!!」
「あの一撃を防いでみせた事は十二分な評価に値するわぁ……!!」
細身のレイピアでは心細いか、アギトは即座に足元に落ちていた薙刀型アクセスキーを蹴り上げ、レイピア型アクセスキーを適当に放り投げ、蹴って浮かせた薙刀型アクセスキーを手に取り、斜に構えてギョクの突進を受止める。
そして、衝突。同時、アギトは薙刀型アクセスキーを器用に動かし、刃をギョクの脇の下に通すように差込、――いなす。
ふわり、とギョクの身体が回転しながら、宙を舞った。




