10.そして集結する―1
暫く頭を抱えて待っていると、ニオからの返信が来た。内容は――、
――『アギトをさらったのは七人の龍騎士の一人、『ギョク』という女戦士。今まではアギトの影に隠れていたようだけど、ついさっき、アギトを打ち破った恐ろしく強い戦士だ。向かった先はニューという町。オメガの端にある街だ。詳しい位置情報は添付ファイルにしてある。確認して、救出に向かってくれ』
指示だった。やはりな、と二人は思う。
携帯の展開を終了させて、リリカは言う。
「黒の融合武器でも勝てない様な相手をどうやって相手しろっていうのよ……」
そう吐き捨てて、彼女はまた頭を抱えた。
「正直、二人でかかっても勝てる気はしませんね」
「その通りよ……」
はぁ、とリリカの嘆息が響く。
だが、その時、既に動いている者が、彼女等とは別にいたのだが。彼女達は知るよしもなかった。
46
「ッ、がぁ、あああああああああああああああああああああ!!」
アギトが目を覚ましたのは自身の左腕と身体の付け根辺りに走った激痛によって無理矢理に引き出された自身の悲鳴の音声によって、だった。
覚醒した瞬間にアギトが見た光景は、自身よりも僅かに低い位置にいるギョクの不気味な笑み。部屋は薄暗く、そこまで広くもない空間だ。ギョクの後ろに一枚の扉があり、そこが唯一の出入り口と見えた。
「あら、おはよう」
そう言って笑みに深みを見せるギョク。
見れば、アギトの左肩に、ナイフが突き刺さっているではないか。
「ッ、」
絶句しながらも、自身の状況を見る。と、自身がキリストかの如く十字架に貼り付けにされているという事実に気が付いた。鎖の様な屈強な何かで手足と首が固定されていて、試しに動いてみるが、解放されそうにはなかった。
「お楽しみの時間よぉ……。目を覚ましていないと退屈だわぁ」
そう笑みの隙間から漏らして、ギョクは新たなナイフをどこからともなく取り出して、それを――アギトの腹に突き刺した。迷いの無い、一撃だった。
「ッぐ、ふ、」
激痛と共に、鮮血が腹からこみ上げて来て、アギトの口端から漏れてしまう。
そんな拷問まがいの光景をすぐ眼前で見て、ギョクは表情に悦を混じらせ始める。そして、何も言わず、ただ笑んだまま、新たにナイフを取り出して――アギトの左肩に、新たに突き刺した。
途端、異常な程に噴出す肩口からの鮮血。先に入れていたナイフと重なって――完全にアギトの左腕を断ち切っていた。ズルリ、と肩から腕が外れる血みどろの感覚がアギトを戦慄させた。
「ぐううぅわああああああああああああああああああああああああああ!!」
アギトの悲鳴が響く。それと同時に、左腕は完全に離脱した。今や、手首を固定していた鎖に支えられ、アギトから離れた位置で十字架にぶら下がっている状態である。
アギトの悲痛の悲鳴がこだまする中で、ギョクはアギトの左腕を無理矢理分捕るように十字架から引き抜いた後、それを自身の足元に叩きつける様に落とし、足で踏みにじる。
「あらぁ……、大分楽しめているみたいねぇ」
そう悦を漏らして、悲鳴をあげ、苦しんでいるアギトを他所に再び新たなナイフを取り出したギョク。ギョクはそれを逆手で、両手で構え――アギトの右肩から僅かに首に寄った位置につきたてた。そして、一気に、引き裂く様に、下へと、落す。
身を穿つ、抉る、そんなおぞましい一撃がアギトの身体を斜に断ち切った。
右肩から、左の腰まで、一閃が炸裂した。
「ッ、」
最早、悲鳴は出なかった。全身の力が抜け落ち、アギトはただ、口から鮮血を漏らしながらうな垂れる。と、同時、切り裂かれた傷口から一気に大量の鮮血が噴水の様に噴出して、ギョクごと部屋を真っ赤に染めた。
と、同時だった、
――ついに、アギトにも限界が来てしまった。
戦いならまだしも、一方的な拷問に、アギトといえど耐えられるはずがなかった。
アギトの身体から剥がれる様に光の粒子が出現し、アギトの身を削りながら、浮かび始めた。
「もう終わりなの。まぁ、仕返しくらいにはなったみたいだしぃ、いいけどねぇ」




