9.阻害された場所へ―18
暫く攻撃をかわしてやっと、止まったところでレギオンは思いっきりセオドアを引き寄せ、懇親の頭突きを叩き込む。額と額が衝突し、ごん、と鈍い音が炸裂してセオドアの表情が歪む。
「ぐぬっ」
ぶわ、とセオドアの鼻が叩き折れ、鼻血が噴出す。それは大量に噴出し、セオドアの身体を汚した。
頭突きの勢いで一度距離が出来たが、レギオンはすぐにセオドアを引き寄せて、再び頭突きをくらわす。
「っあ!!」
今度こそ、セオドアの悲鳴が聞こえた。鼻が完全に折れる。その瞬間、セオドアの抵抗として頭上に剣が一つ出現した。当然切っ先はレギオンへと向かっている。
そこでやっと、レギオンはセオドアを突き放すように離し、バックステップで降りかかる攻撃を避ける。
「ぐぉ、」
突き放された勢いでセオドアは後ろによろけ、尻餅をついてしまう。その情けない姿に勝敗は見えたような気がした。
バックステップで距離を取ったレギオンは着地と同時に即座に疾駆。そして、あっという間にセオドアの眼前へと辿り着き――、
「言っただろ、もう手は抜かないってな」
「や、やめろぉおおおおおおおおおおおおお!!」
レギオンの右足による蹴りが、セオドアの鼻面を叩いた。
強化骨格型のアクセスキーによる補助と、セオドアのアームドとしての、アカシック・チャイルドとしての馬鹿げた力が込められた強烈な一撃。間違いなく、人間といわず、生物、ありとあらゆる生物を確実に殺す一撃だった。
ど、と見えない衝撃が炸裂し、空気の層を破って広がった。
同時、セオドアの身体が、消滅した。蹴りを叩き込まれたのは鼻面だが、余りの衝撃に、身を粒子になるまで、吹き飛ばされたのだ。それは一瞬。一瞬で死に至らしめられたセオドア。身体を細胞単位で分断され、あっという間に死の宣告とも言える粒子へと還元され、そして、終わる。
死を表現する紫色の粒子は暫く宙を漂い続けた。
そして、激戦を終えて静まり返り、静謐となるこのズタボロの空間。
はぁ、と嘆息を吐き出してレギオンが辺りを見渡すと、飛散な光景が目に入った。あちこち破壊され、最早室内とはいえない状態に陥ったドーム。そして、レギオンの大暴れによってバラバラ死体の様になってしまった実験体の転がる死体。
「全く。畜生」
呆れる他、なかった。
が、いつまでもここで足を止めているわけにはいかない。
「セオドア・クラークは片付いたっと。アギトと合流しないとな」
そう言って、携帯を展開させつつレギオンは踵を返した。




