9.阻害された場所へ―17
強化骨格の補助のお陰か、アギトの今受けていた痛みは大分引いた。近接戦闘用に構えなおして、アギトはギョクを睨む。
身体の心配は大丈夫だ。確かにそうだ。――だが、近接戦闘は良くない。この状況。一撃必殺とも言える一撃を持った相手に、接近戦を挑む等間抜けのする事である。だが、しかし、アギトは強化骨格に頼らざるを得なかったのだ。
それほど、アギトの状態は悪かった。
(何が龍騎士だ……あんな攻撃、巨神でも殺せるだろう、が……)
アギトは無駄だと分かっていながらも、視線でギョクを脅す。
だが、ギョクも察したのだろう。
「……なんか、一気につまらなくなったわねぇ」
瞬間、疾駆。アギトの眼前に瞬間移動の如く出現したギョクは、アクセスキーのスキルも使わないただの一撃を、アギトの水月を穿つかの様に叩き込んだ。
「グフッ……あ、」
その一撃もまた、大きすぎた。そうだ。元々、恐ろしい程の力を持っているギョク。たとえアクセスキーのスキルがなかろうとも、弱体化したアギトを叩きのめす程度の力を放つ事は出来る。
「ッあ、……くっそ……」
その一撃がアギトに到達した瞬間、アギトの緊張は全て解き放たれた。反射的にかアクセスキーも離れ落ち、柄状へと戻される。同時、アギトも膝から崩れ落ちて――ギョクのすぐ足元に、倒れ落ちてしまった。
「……正直、期待はずれだったかも。それでも、あの一撃を耐えた事は褒めてあげるけどねぇ」
そう本当に詰まらなそうに落としたギョクは、ひょい、とアギトの身体を持ち上げて、肩に担いでみせた。
44
「オォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
レギオンが地を蹴ると、転がっていた実験体と共に固い床が穿たれ、恐ろしい数の破片と見えない衝撃が数メートル先で余裕を見せるセオドアに襲い掛かる。
だが、衝撃やら何やらがセオドアに到達する直前、セオドアの周りに盾となるよう出現する無数の武器がそれを阻み、セオドアを守ってしまう。
「あぁ、くっそ! むかつくスキルだなァ!!」
既に辺りが崩壊する程にレギオンは暴れた。だが、それでも、セオドアには全くダメージが通っていなかったのだ。
セオドアの武器を自由に出現させるスキルに、何処かに貯蔵され、先のスキルによって自在に出現させることの出来る無数の武器とそれぞれに対応したスキル。厄介以外の何物でもなかった。
レギオンの驚異的な破壊力を持ってしても、攻撃は通らない。挙句、
「退屈だな」
セオドアがひょいと指を動かすと、何処からとも無く剣やら刀やらの武器が出現し、レギオンへと向かって飛んでくる始末だ。
レギオンは身を翻してかわし、再び攻撃を仕掛ける。
疾駆。近づけば、何かしらの攻撃が降りかかってくる可能性がある。だが、
(衝撃で無駄なら直接攻撃するしかねぇ)
「近づこうとか」
レギオンの接近にいち早く対応するセオドア。レギオンの進行経路を塞ぐようにして、無数の武器が絡み合い、出現し、壁を作り出す。
これは、対決だった。
仮に、出現した武器の壁をレギオンが壊せたとしたら――レギオンは接近戦に持ち込めば、セオドアに対抗できるという事になる。
仮に、レギオンが武器の壁を壊せなかったら――レギオンに、なすすべはない、といえる。
「ぶっこわしてやるッ!!」
そして、衝突。レギオン元来のバケモノ染みた力と、強化骨格型アクセスキーによる強烈な右拳が武器が折り重なる壁に突き刺さった。
ガラスを叩き割るような鋭利な音が耳を劈く。ドーム状の天井に反響して、より一層その音は響いた。と、同時、レギオンの拳が――武器の壁を撃ち砕いた。
よし、とレギオンは思わず口角を吊り上げて笑んだ。眼前の武器の壁はやぶられた。刃を粉々に粉砕し、破片が舞う中で出来上がった武器の隙間を一瞬で通りぬけるレギオン。
そこで、レギオンはアームドとしての能力を振るい、右腕の形状を変化させて、突き出すようの前へと出した。すると、右腕はゴムの様に伸び、セオドアを、捉えた。
「ぐぅ!?」
レギオンの伸びた右腕はセオドアの首を確かに掴んだ。セオドアの表情は険しい。武器の壁を打ち破られるのは予想外だったのかもしれない。
瞬間、セオドアの抵抗としてセオドアの頭上に無数の武器が出現し、その切っ先をレギオンの右腕へと向け、すかさず放たれる。
だが、レギオンはすぐに右腕を元に戻すように収縮させ、セオドアを引っ張りつつもその攻撃をかわした。セオドアが立っていた位置、そして伸びた右腕があった位置を辿るように数々の武器が振り落ち、床に突き刺さったり、衝突したりして制止した。
「捕まえたぞ」
「ぐぬっ!!」
そうして、セオドアをすぐ目の前まで引っ張る事に成功したレギオン。当然の如く、彼等の頭上にセオドアの武器が複数出現するが、セオドアを掴んだまま上手い具合に身体を翻し、移動する事でレギオンはそれらの攻撃を華麗に全て避けてみせた。




