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9.阻害された場所へ―11

 捨て台詞だったのかも、しれない。言葉を残し、決して尾を引かせる事なく、ギルバは、呆気なく、終焉にしては余りにも惜しみなく、エラーへと、その身の全てを埋めてしまった。途端、ギルバがいなくなった事で制御を失った複数のエラーが、消滅し始めた。それは爆発的に広がるように連続し、あっという間に、最初から存在しなかったかの如く、消滅した。そしてやっと、アギトに空が姿を見せた。

 アギトは念のために、と辺りを一瞥するが、エラーに閉じ込められる前から何一つとして変わっておらず、アギトはやっとアクセスキーを柄状へと戻し、腰にしまったのだった。

 落ち着いて、アギトは気付く。

「メールが来てるな」

 そう呟いて、右手首を二回軽く叩く。そして、携帯を展開。届いたメールを確認する。差出人は、アヤナだった。

 ――『ギルバと会ってくる。心配するだろうけど、大丈夫だから! 一応報告』

 という内容。アギトは思わず眉を顰めた。

(何のために、ギルバと会うてんだ? ……それに、今、殺したばっかりだっての)

 何にせよ、ギルバは死んだ。消滅した。アギトがその手で殺した。故に、返す返事は現状関係なしに決まっていた。新たに展開させたキーボードを器用に叩き、アギトは返事を打つ。

 ――『ギルバは今、始末した』

 セオドアの事はまだ、話すつもりはない。だが、ギルバの事なら問題はないだろう、とアギトはその文をアヤナへと送りつけた。

 送信を確認したアギトは携帯の展開を終わらせ、施設を見上げるように視線をどこか遠くへと投げる。

「レギオン。どうなってっかね……」




    40




「死ね!」

 ドッ、と、レギオンの拳が音速の域を超えて空気の壁を突き破り、ただ不気味な笑みを表情に貼り付けるセオドアの顔面に、突き刺さろうとしていた。

 だが、

「その程度では、私を倒せないだろう」

 その演技めいた台詞とほぼ同時だった。レギオンの拳が――空を切った。

「物分りの悪いヤツだ」

 そして、レギオンのすぐ横から、セオドアの声が響いた。

「ッ!?」

 レギオンは反応し、即座に振り返って拳も振るうが、今度は、姿さえ見つからなかった。

「レギオン。貴様では私に勝てない」

「私は武器開発の第一人者とも呼ばれるであるぞ?」

「所詮、筋力アップ程度のモノ。どうにかなるのだろうか」

 あちこちから、パラボリックに声が反射してきているようだった。声がする度にレギオンは反応して振り返り、時折拳も振るうのだが、どうしても、当たらない。その姿を目で追えない。振り返ったその一瞬だけ、レギオンの視界に焼き付くかげぼうしの様に姿が見えるのだが、何かしよう、と思ったその瞬間には既に遅い。追いつく事が出来ない。

 移動系のスキルなのか、それとも、また、別の特殊なスキルの力なのだろうか。とにかく、セオドアのスキルは厄介だった。

 面倒だな、とレギオンは歯噛みする。倒せない、なんて事は絶対に思わない。だが、力に自信を持つレギオンと、武器の第一人者であり、研究家と名乗るセオドアとでは、相性が悪いのかもしれない。

 暫くの間。数分ほど、その光景は続いた。そしてまた、数分の時が流れ、ついに事が動き出す。

 背後からの一撃。

「ッ!!」

 レギオンは突如として降りかかってきた攻撃に対応が出来ない。僅かに前へとつんのめってしまうが、もう、一撃が正面から迫ってきて、レギオンはくの字に折れまがった大勢を立て直す事も出来ずに、強制的に打ち上げられる、

「がっ、は……!!」

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