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9.阻害された場所へ―9


 そして一斉に、レギオンへと向かってくる。間違いなかった。レギオンも言いこそしないが確かにそうなるだろうと予測していたし、セオドアもそう指示していた。

 当然だった。セオドアが作った何らかの人間。レギオンは対人戦闘に恐ろしく弱い。故に、結果はとっくに見えていた。

「くッ、」

 声を上げる暇なんて当然なかった。

 数千かとも思える大群が一斉にレギオンに降りかかったのだ。

 レギオンも抵抗をみせ、向かってくる人間を殴り倒すが、だが、一時の抵抗にしかならない。人混みはあっという間に収束し、レギオンを、完全に被った。だが、それでもまだ人間の数は余る。自重で押しつぶし、圧迫死させるつもりでもいるのか、数の余る人間共も次々とその上へと乗っかっていく。

 そして、ドーム状の人間の山が出来上がった。

 それを少し離れた場所で見上げるセオドア。彼の笑みには恐ろしく不気味な笑みが張り付いている。

「フハハ。滑稽な光景であるな」

 セオドアの口からはそんな言葉が漏れる。だが、セオドアもまた、分かっていた。

 ――人の山が、突如として吹き飛んだ。

 無数の人間がブワッと舞い上がり、壁や天井に衝突して飛散した。人間どうしでもぶつかりあい、パチンコ玉の様にはじけ跳ぶ。

 そして、元居た場所にレギオンの姿。どさりどさりと無数の人間が落ちていく中で、レギオンは、チッ、と舌打ちする。疎ましく思う気持ちと一緒に、レギオンは苛立ちを感じている。

「……あれだけ固まれば、巨体と変わりもしねぇって」

 物凄くくだらなそうに、重く、吐き出す。

「だと思ったよ」

 対してセオドアもそう言う。互いとも、これは前座だ、と言わんばかりに。

「ふざけた時間稼ぎしやがって、とっとと終いにしてやる」

 セオドアを睨み、ゆっくりとセオドアとの距離を詰めながら、レギオンは進む。彼が四肢を動かす度、アクセスキーがカチャカチャと音を鳴らす。それは、迫る死の宣告か。

「いいだろう。終いにしようか。レギオン、お前との戦いは我が歴史に語れない」

 そう言ってセオドアは向かってくるレギオンと完全に向かい合う。

 同時、レギオンは疾駆した。セオドアを殺してやろう、と。

 そこに、特別な感情はない。昔アカシック・チャイルド候補として拉致され、むごたらしい実験を受けた事に対して恨みもない。むしろそれはレギオンにとってプラスになったくらいだ。

 だから、ただ、アギトが邪魔だというから、アヤナのためになるから、殺すだけである。

「オォオオオオオオオオオオオ!!」




 ギルバの指が音を鳴らしたと同時だった。まるで、アギトを囲むかの様に、無数のエラーが出現した。離れた場所ではあるが、背後に、横に、上に、と半ドーム上にそれは次々と出現し、渦巻き始めた。

「なんだこりゃぁ……」

 アギトは首だけ動かしてそれらを確認して、気だるそうにそう吐き出す。最早、エラーの出現程度では驚かないのだ。アギトにとってそれは邪魔でしかない。ただ、ギルバを殺すまで障害。だから、排除するまで。

「これはデスマッチだ」

 そう言って、ギルバは数歩進む。すると、エラーは完全なドーム状になるかの如く、ギルバの背後、横、上にも出現して、アギトを囲んでいたソレと繋がった。そうして、舞台は仕上がった。

「成る程な」

 アギトはくるりと周りながら辺りを見渡して、そう言った。アギトとギルバを囲む渦巻く大量のエラー。エラーが完全に太陽光を遮っているが辺りは明るい。ソースコードがギルバによって弄られているのだろうか。

 エラーが渦巻く音が無数に響いていたが、それは暫くすると意識外へと消え去った。

「場外はエラーの中。つまりは地獄、死、最期、世界からの堕胎。分かりやすくて良いだろう。なァ?」

「そうだな。お前をぶっとばすだけで良いんだ」

 アギトの手中で、アクセスキーが鎌の形となった。それを両手で構え、アギトは眉を顰める。決意は固まった。この場で終わらせてやる、と決めた。

「よし、来いよォ。黒いの。最期だァ」

 その台詞が落とされると同時だった。ギルバの背後にいた半透明の存在だった悪魔はギルバに溶け込むように沈み――ギルバとなった。ギルバは悪魔の姿を纏い、両手に剣を備えた。その光景だけみれば、悪魔へと変身したように思える。

「…………、」

 アギトはただ、それを見据えた。今更何が出てきても驚きはしないのだろう。歪な悪魔の姿となったギルバは、アギトにとってはどうでも良い。ただ、目の前のギルバという存在を殺すだけ、それだけである。

 そして、始まる。

 アギト、ギルバ両者共に駆け出す。そして、衝突。二本の刃と湾曲する歪な刃が衝突する。

「オォラッ!!」

 アギトはとっとと片付けようと、鍔迫り合いを避けて鎌を振り切った。眼前のギルバに鎌の刃の外に付く五つの棘がギルバに襲い掛かる。

「ッと、」

 ギルバはそれを上体を逸らして避ける。棘の切っ先がギルバに僅かに届かない位置でギルバはそれを避けると、バネの様に上体を戻し、体を捻るようにして二本の剣を振り切る。その速度は悪魔を纏ったからか、物凄く早かった。

 だが、アギトも反応を追いつかせる。

 鎌の柄で二閃を受止め、弾き、柄を突き出すようにしてギルバを突く。それは確かにギルバの腹に衝突した。だが、

「固い……!!」

 確かに突き出し、多少なりとも怯ませたはずだが、今のギルバの体は人間のそれでない。ただ、岩にむかって棒切れを突き刺してみただけ程度の、感触。逆にアギトの手が痺れ、怯んでしまうようだ。

 その隙を狙ってギルバが二本の剣を交差させ、振るう。

 アギトはバックステップでそれをなんとかかわす。

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