9.阻害された場所へ―6
そして、アギトは疾駆。小さな武器であるが、アギトはそれでも突っ込んだ。それを迎え撃つは当然ギルバ――そして、背後の悪魔。ギルバが剣を振り上げたと同時、悪魔も右手を振り上げる。
そして、一撃。悪魔の腕と重なったギルバの一撃が、向かってきたアギト目掛けて叩き落される。直後、耳を劈く様な轟音が響く。だが、ギルバの剣はアギトを捉えていなかった。剣の切っ先は、固い床を僅かに穿った。
気付けば、アギトはその一閃を低くした体制を翻す様に交わし、ギルバの横に出ていた。そして、小型のナイフの切っ先がギルバの顔面目掛けて突き出される。
「オッとォ……!!」
その一瞬の攻撃を、一瞬の動作でギルバは避けた。だが、頬を掠り、ギルバの白い肌に僅かに赤が滲んだ。そして続くアギトと第二撃。突き出したナイフを器用な動作で逆手へと持ち替えて、アギトは横に避けたギルバの顔面を狙う。だが、ギルバは左手でそれを受ける。悪魔と重なった左腕は見た目異常の固さを誇る。ナイフの刃は、ギルバの腕で止まった。
「チッ、」
忌々しげに舌打ちし、アギトは咄嗟のバックステップでギルバから距離を取る。同時、ギルバの反撃がアギトの足元を掬おうと狙うが、アギトの判断の方が僅かに早かった。アギトが先程までいた場所の床が穿たれるに終わる。
すると、ギルバもバックステップ。
頬から垂れる血を指で拭い、それを確かめる様に舐め、舌で転がし、咀嚼の様な素振りをみせながら、言う。
「なる程なァ。狭い場所、それに近づいてしまったら刃の小さい方が有利ってなァ。考えてみればそうだ。だが、そう上手くいくかァ?」
ニヤリ、と不気味な笑みを表情に貼り付けるギルバを見るは怪訝そうなアギトの表情。
「そう思っちゃいねぇよ。お前を殺すため、俺の持ってる全ての力をぶつけてやろうってんだ」
そう言ったアギトは右手を一振り、アクセスキーは巨大な斧となった。
それを見て、ギルバは笑いを漏らしながら、言う。
「オイオイ、それじゃァ、さっきのナイフたァ、真逆でデメリットの塊じゃねぇか」
「いや、そうでもねぇさ」
言ったアギトは肩に担いだ巨大な斧を両手で構え、そして、一歩、踏み出す。それと同時だった。アギトは巨大な鎌を下ろし、横に薙ぎ払った。壁を砕き、えぐり、ギルバへと襲い掛かる一閃。その破壊力は、閉鎖空間という事を関係なしにした。
それをギルバは盾に構えた剣で受止めるが、圧される。
「ギヒヒ……」
力に圧倒されたギルバは足を滑らせ、左へとなぎ倒されてしまいそうになった。だが、そこで、新たな動きが邪魔に入った。
ギルバの背後の、悪魔の一撃が、アギトの頬を嬲った。
「ッが!」
悪魔の固い拳がアギトの頬を叩き、アギトは攻撃のモーション途中で後方に大きく吹き飛ばされた。床、壁と衝突し、何回か跳ねてアギトは壁にぶつかり、やっと止まった。
全身を打ちつけたか、アギトの体は至る場所が悲鳴を上げている。
どうにかして起き上がり、アギトは斧状のアクセスキーを刀へと変化させる。
「くっそ……」
確かに、ギルバはアギトの攻撃を受止めていて、攻撃の動作には移れなかったはずだ。だが、しかし、悪魔は確かに攻撃してきた。
(ギルバの動きと必ずしも連動している、という訳ではないか……)
初めに、ギルバの動きと悪魔の動きが連動している光景をみてしまったがため、勘違いしてしまっていたのだ。
そんなアギトの心中を掌握するかの如く、ギルバが興趣の笑みを浮かべて吐き出す。
「誰も背後のコレと俺の動きが連動してるなんて言ってねェよなァ」
「誰も聞いちゃいねぇってんだ。お喋り野郎が」
そして、気を奮い立たせ、アギトは再びギルバへと向かう。
その間に、アギトはアクセスキーを増やし、二刀流の構えを取る。そしてギルバは、
「手数は負けやしねぇ」
そう言ったと同時、背後の悪魔の両腕に、紫色の光の粒子が出現した――かと思ったその時だ。その光の粒子は急速に形を作り、ギルバの手に収まる剣と形が良く似た、剣が二つ、出現した。
「これで三本だァ」
「一本の差はねぇよ」
そして、衝突。その攻防は狭い通路上には大きすぎた。
斬りあい、守り、そして反撃と恐ろしい数の手数が炸裂する。その度、恐ろしい程大きな、弧を描く様な一閃が飛び交い、通路の床、壁、と次々と穿たれ、場は更に荒れてゆく。
迫り来る三本の刃の攻撃に、アギトは苦戦する。最初こそ攻撃に転じてはいたが、今はどうしても、防御中心の体勢を取らざるを得ない状況であった。身を軽々と翻し、攻撃を交わし、刃で受止め、とするが、次々と繰り出される攻撃に隙を見つける事が出来ないでいた。
「くっそ……!! ムカツクぜ……」
迫り来る攻撃を受止め、弾きながらアギトは忌々しげに吐き出した。
そして、その時だった。アギトがどう、機転を利かそうか、と思ったその時。
空が、開示された。




