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9.阻害された場所へ―3


 キバがおどけている様子は見て取れなかった。そして、キバを知るアギトはキバがそこで嘘を付いたり知らない振りをして誤魔化すような人間でないと知っている。アギトはあれやこれやと適当な過去を抜粋してキバへと今までの事を説明した。

「そんな事があって、アギト達はそんな活動をしていたのか」

 再び歩みを再会して、キバは頷きながらそんな事を言った。

「エラーを閉じる事ができるのは限られてるからな。俺達みたいなのがいなければ、とっくに世界は滅んでたかもしれない」

 プライドを担ぎなおして、レギオンは言う。

「まぁ、結局、追い詰められてる状態だがな」

 余りに素っ気無い態度でアギトはツンと言う。その裏に焦燥、そして、強さへの渇望が隠れている事に気付いたのはレギオンだけだった。




 キバを見送った後、アギト達は予定通りに『ラムダ』へと到達した。ラムダの一角にある広大な敷地を誇る国立公園へと足を運ぶと、そこでアギト久しくみていなかった顔と再会した。

「流石だ」

 そう言ってアギト達の前へと足を運んできたのは百余名の部隊を率いたクライムだった。

「連れが多いな。まぁ、プライドのした事とその存在の重要性を考えれば当然の事、か」

 そう言ってアギトは右手を軽く上げてレギオンへと合図を出す。と、レギオンはプライドを担いだがまま数歩進み、気絶させて置いたプライドをクライムの足元へと放り投げた。

 クライムは自身の足元に落とされたプライドを一瞥し、すぐに視線を上げてレギオンを不思議そうな目で見る。

「お前がアギトが言っていたレギオンか?」

 応えるのはアギト。「そうだ」

「よろしくな」

 レギオンは空いた両手を演技めいた動作で広げて、クライムに一礼。

「こちらこそ。お前達に、世界の未来は掛かっているからな」

 そういったクライムは口角を吊り上げて僅かに笑んだ。そんなクライムの表情を見て、アギトは、変わったな、と思った。最初に顔を合わせた時と比べ、大分様子がよくなった、とアギトは思う。

 思い出してみれば、アギトと元老院達の最初の誰何は、余り好ましい物ではなかった。だが、今は違う。お互い、世界のために動いている同業者という感覚だろうか。不可視の位置で共感できる部分があり、それを共有しているのだ。

「それより、ヴェラさんから聞いているか?」

 クライムをしっかりと見据え、アギトは僅かに目を細めて問うた。アギトが話しを進めた事でレギオンも思わず息を呑んだ。

 そして、返ってきたクライムの答えは首肯。クライムは右手首を僅かに二回叩いて携帯を展開。不可視状態のままスムーズに操作したかと思うと、アギトの携帯にデータ受信の知らせが届いた。

 クライムは携帯の展開を閉じて、アギトを見る。

「今送ったデータに、セオドア・クラークの情報、知る限りの情報全てが入っている。元老院の身が言うのも何だが、正直違法な手段までをも使って調べつくした情報だ。これ以上はないと思う」

「そうか、ありがとうございます」

 携帯の展開を心待ちにしながら、アギトは素直に頭を下げて礼を言った。そんな光景を見て、レギオンはアギトでも言葉を改める事があるんだな、と思わず笑いそうになった。

 プライドの身を部下達に預けたクライムは踵を返す。背を向けたまま、右手だけで会釈し、クライムは気取った声で言う。

「感謝する」

 それだけ言うと、クライムと部下達は歩き出した。

 彼等の姿が見えなくなるまで見送った二人は、早速、と情報を確認する。アギトが携帯を展開、可視状態へと変更してレギオンにもそれを見せる。クライムから送られてきた情報を選択し、展開。

 そこに載せられていたのは、セオド・クラークの所在、現在の容姿、身辺情報、武器情報、生活情報、等の様々なセオドア・クラークに関する情報だった。その個々は詳細に、画像付きで載せられていて、アギト達は思わず面くらった程だった。

「すっげぇな」

 アギトの携帯を覗き込みながらレギオンは感心し、唸る。アギトも思わず息を呑んだ。

「違法な手段、とか言ってたけどどんな手を使えばこんな情報が手に入るってんだよ」

「そうだよな。元老院の権力って本当にすげぇんだな。改めて実感した」

 再度情報に目を通して頭に叩き込み、携帯の展開を閉じる。そして、アギトとレギオンは互いを同じタイミングで一瞥。互いの目的を定める。

 そして、二人は歩き出す。

「目的地は『ミュー』。ここからそう遠くはない」

 アギトが力強い言葉で言う。両拳は強く握り締められ、その意思が感じ取れた。

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