9.阻害された場所へ―2
一瞬地を蹴り、バックステップでレギオンは距離を取った。すると、だ。砂煙の中から、レギオンのいる方向とは別の方向に、飛び出す影があった。当然、その影はプライドである。
「逃がすと思うな!」
見つけ次第、レギオンも疾駆。異常なまでの身体能力を持ち、アクセスキーによって補助された恐ろしい脚力でレギオンはプライドを追う。と、なれば当然、プライドは捕まる。すぐに追いつかれ、捕縛されてしまう。
だが、そうは、いかなかった。
レギオンのすぐ眼前で、プライドは――切捨てられた。
「何っ……!?」
レギオンは思わず立ち止まった。プライドは斬られ、地に堕ちて転がる。傷はどうしてか浅いようで、まだ、死にはしていない。だが、放っておけば死ぬだろう。
そして、プライドの前に立つ男。男が、いた。
「誰だ、お前?」
白を基調とした装飾が施された鎧とマントを纏う凛々しい顔立ちの男を睨みつけ、レギオンは吐き出す。
すると、男はレギオンを一瞥。すぐに視線を僻遠に見える稜線へとやって、静かに言う。
「私はオメガにいたのだが、ここのところ、こうやって狼藉を働く者がいる、と知ってな。追って見れば容易く見つけられたがため、切り伏せたまでだ」
そう言った男は右手に携える象嵌の目立つ巨剣を腰の鞘へと収めた。どうやら、レギオンを敵視はしていないらしい。
男は言い終えると、足元に転がって呻いきながら、地を這うプライドへと目をやって、言葉を落す。
「トンファーか、また珍しい武器を使う者だな。スキルが爆発で、爆発を起こして回っていた、という事か……?」
眉を顰める男に、レギオンが言う。
「アクセスキー、知らないのか?」
「アクセスキー?」
「その武器の事だ」
レギオンの言葉に、男は、ほう、と唸って、「どこで手に入れる武器なんだ? そんな特殊な分類されている武器は知らない」
「……それについては、」
そう、レギオンが言おうとした時だった。
「アン? 珍しい顔がいるじゃねぇか」
アギトが、レギオンの後を追ってやってきた。
二人はすぐに声のした方へと目をやる。と、何故なのか、男は目を丸くして驚いた。そして、声を落す。
「……アギト、か?」
倒れているプライドの姿を確認したアギトは急いでいた足を緩め、歩く。そして邂逅するように手をひらひらと振りながら、男へと視線をやり、言う。
「おう、キバ。久方ぶりだな。プライドはお前が倒してくれたのか。助かった、殺してない事含めてな」
「どういう事だ?」
訝るキバという男に、アギトは言う。あれやこれやと今回の一件の事を説明した後、問う。
「ギルバっつう白い男はいたか?」
「いいや、見なかった」
「そうか、まぁ良い。そのプライドの身は俺が預かろう」
アギトの言葉に、キバは素直に頷いた。事情を聞いた今、断る理由はないのだった。
アギトは携帯を展開、操作して中央塔のヴェラへとプライド捕獲の連絡を送った。集合地点をオメガのラムダという街に約束し、三人は進む。
プライドを担ぐのはレギオンだ。レギオンの力であれば人一人持ち上げる事は容易い。
「ところで、キバ。お前こんなところで何してたんだ? お前はエルドラドの騎士だっただろ?」
アギトとの問いに、キバは凛とした態度で答える。
「依頼だ。エルドラドを介して入ってきた重要な依頼を受注した。だから、ここにいる。俺はシグマで、『フレミアの両親の護衛』に付いている」
まさかのキバの言葉に、アギト、レギオン共に足を止めてしまった。
「なんだって?」
プライドを担いだがままのレギオンが、眉を顰めて問うた。
「フレミアの両親の護衛?」
アギトもまた似た様な表情で問う。
言われてみればそうだ、と思った。フレミアが初期メンバーでない以上は、両親がいる可能性はゆうにある。その両親が、どんな環境におかれているかは、容易く予想できた。
恐ろしいまでの数のメディアに追われ、生活すらまともに送れなくなるだろう。
「なんでそんな反応を? フレミアの両親が、どうかしたか?」
キバがおどけた様子で問い返す。
「……アクセスキーはな、フレミアから貰ったモンなんだよ」
レギオンが捕捉するように言うと、今度はキバの足までもが止まった。
「なんだと? フレミアは、死んだだろう?」




