表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/169

9.阻害された場所へ―1


 言ったオラクルの瞳は伸びきった眉に隠されて伺う事が出来ない。だが、アヤナはそれでも、オラクルの真剣な瞳に気付いた。

「で、でも!」だが、アヤナもここで立ち止まるわけにはいかない。「それはないでしょ! だって、既に未来を変えた人間がいるはずなんだから!」

 そうだ。アヤナはイオタでソーサリーに会い、変わった未来を見た、と云われたが故、希望を持ってここに立っている。だから当然、既に未来を変えた、未来を変える程の力を持ったソーサリーがいる、という事になる。その事実がなければ、アヤナは崩れ落ちていただろう。

「それは、云いて妙なり」

 オラクルはいきりたつアヤナを静かに見据えながら、静かに、椅子から立ち上がった。そして一歩だけアヤナへと迫り、髭の隙間から声を漏らす。

「それをしたのが、俺だからだ」

 確かに、そう、言葉を落とした。

「……へ?」

 いない、と言い切った男の言葉とは思えない様な言葉を真正面から受けて、アヤナは思わず間抜けな表情を浮かべて吐息を吸い込んだ。

「だ、だったら! だったら! アタシのために、お願いだからディヴァイドに干渉してよ!」

 そして放たれるのは当然の言葉。だが、

「それは無理だ。だから、いない、と言っただろう?」

 オラクルは僅かに状態をアヤナへと迫らせるように曲げる。その迫力にアヤナは素直に威圧され、呆然と立ちすくんでしまった。

「もし、御前の望まない未来が変わるまで、何度も何度もディヴァイドに干渉し、変化をもたらせれば、その時は、ソーサリーの力によって世界が破滅に追いやられるだろう。俺は『既にその世界を体験した』。間違いなく、そうなる。故に、御前一人の未来を変えるがためにそれは出来ない」

 オラクルの声色は既に変わっていた。その脅すような口調に、アヤナは思わず後ずさりする。

「じゃ、じゃあ……エラーによる破壊から逃れるために……」

 余りに弱々しい声でアヤナはまだ、粘る。だが、それも無駄だ。

「どちらにせよ、世界は滅んでしまう」

 表情を上げて、アヤナを今度こそ確実に視界に捉え、オラクルは強い口調で宣告するように言う。

「だから言っただろう。悲劇のヒロイン、姫だ、と。御前一人の命を取るか、世界を取るか、そこは、自分自身で考えてみろ」




    36




 爆発はラムダの街の端で起きたようだ。アギト達がそこに辿り着いたその時には舞い上がったはずの粉塵が静まり、辺りにあった家々や木々が吹き飛ばされた光景だけがあった。見回せば、泣き喚き、肩を寄せ合う人々の姿も見える。爆発の中心地に関係のある人間か、今の爆発の被害にあってしまった人々だろう。

「大丈夫か?」

 アギトとレギオンはすぐにその人々に駆け寄り、肩を叩いて声を掛ける。「何があった?」

「何か……、えぐっ、ぐず、坊主の厳つい人が来て、突然爆発が起こって……」

 嗚咽混じりの声にアギトは戦慄を覚える。

(イオタで会ったソーサリーじゃなきゃ、間違いなくプライドだな)

 そして、確信する。この場に、いたのだ、プライドが。

「レギオン、まだ、付近にいるはずだ……」

 アギトが怯えて震える人を抱いて、レギオンへと後頭部を見せたがまま、そう、呟く様に言った。

「あいよ」

 対してレギオンはそれに応えて、その場から跳躍した。真上へと異常な脚力を使って打ちあがり、遥か先まで移動したのだが、常人にその光景はその場からレギオンが消え去ったようにしかみえまい。

「大丈夫だ。ここは、任せるが、俺がその坊主男ってのをなんとかする」

 アギトはそう怯える民に言い聞かせて、立ち上がった。




「見つけた。画像データで見たときより痩せてんじゃねぇか?」

 そう嬉しそうに吐き出したレギオンは――上空から、急降下した。向かう先は呑気に悠々と街道を歩くプライドの眼前。そして、次の瞬間、プライドの眼前に、レギオンは落ちてきた。凄まじい衝撃音と衝撃が広がり、砂煙が舞い上がる。

「うぬ!?」

 突然の出来事に対応しきれないプライドは腕で顔を隠すようにして防御の体制を取るが、遅い。その腕を掴む異質な形をした手が、伸びてきた。

「!?」

「はい、確保」

 砂煙の中から、深紅のフーディーパーカーを羽織るレギオンの姿がぬっと出てきた。飄々とした口調であるが、その歪な形に変化した腕に込められた力は異常なまでだった。

 そのまま掴まれていれば腕が折られると察したプライドはアクセスキーを振るい、レギオンの腕へと叩き付けた。同時、強烈な爆発が起こる。

「ッ!! 面倒だな」

 手にダメージはないようだが、その勢いに押されてレギオンはプライドの腕を離してしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ