9.阻害された場所へ
9.阻害された場所へ
電脳世界ディヴァイドには中央塔を囲う四つの大陸がある。黄金郷、理想郷、理想郷、そして、最後の大陸が――『阻害地』だ。この大陸には国は僅か二つしかない。シグマと、オメガのみである。
シグマを中心に置き、その他全ての地をオメガが占めている。そんな、阻害された地である。
そこに、プライドはいた。そして、その情報を得たクライム、そしてその配下の部隊。更に、クライムから情報を受け渡されたアギト、レギオンもこのディストピアへと渡っていた。
「プライドはギルバと陣を取って何処かで身を隠しているだろう。そこを見つけ、叩く」
クライムは言う。一○○人程にまで増員させた部隊を眼前に携え、大音声を響かせる。己を主張するように、そして、覚悟を誇示するかの如く。
「プライドを捕らえるのが最終目標だ。ギルバは二の次で言い。最悪、倒すのは次の機会でも良いと考えている」
「あぁ、そうかい。了解」
また別の場所で、アギトとレギオンも動き出していた。
オメガの西部に位置する『カッパ』という街。そこに、アギト達はいた。寂れた町という印象が強く滲み出ているこのカッパのはずれにある安宿を借りていた二人はカッパを出て、プライドの情報を探そうとオメガの国を歩く。そして次に向かったのがカッパと特別変わらず、寂れた様子が感じ取れる街『ラムダ』だ。この街の広さは対してないが、何故かディストピアで人口密度が高い場所となっている。
アギトとレギオンはそこで早速聞き込みを開始するが、特別情報を得る事は叶わなかった。名前を知る者もいなければ、その姿形を見たという目撃証言もない。
(時間はねぇんだっての)
苛立つアギト。そして、彼に黙って着いていくレギオン。
「やっぱり偶然遭遇するでもないとダメってか……」
「だが、止まっている訳にはいかないだろう」
諦めをついに口から漏らしたアギトにレギオンが励ます。それ程に、プライドの情報はなかったのだ。
今はまだ期を伺っているのか、プライドも身を隠す事に専念しているのだろう。その証拠が、今の状況である。
ギルバの行方もまた気になっていた。クライムの情報から、ギルバと一緒にプライドがいた事が判明しているが、アギトはギルバがずっとプライドと共にいるとは思っていない。ギルバはそういう人間だ。もとより、ギルバが好んでプライドと一緒にるとは誰も思いやしない。
「畜生、面倒だな」
そう、アギトが呟いた時だった。
僻遠の彼方に、膨大な量の灰色の煙が上がった事に気付いた。そして、その光景から僅かに遅れて反響する爆発音が小さく響く。
アギト達ならず、その場にいた大勢がその煙の見える方向へと、足を止めて視線を向けていた。そして辺りは騒然とする。喧騒が生み出され、ガヤガヤと騒ぎが起こり始める。
「……行って見る、か」
アギトは景色を見ながらそう呟いた。
もし、この場にアヤナ若しくはエルダがいれば、爆発を感じたその瞬間にプライドの存在を察知しただろうが、アギト、レギオンだけではそうはいかず、走り出す程には至れなかったのだった。
35
「未来は、変わるのよね?」
アギト達と一時の別れとなったアヤナとエルダは、来た道を戻り、そして、再び『オラクル』と対面していたのだった。理由は明白。アヤナが、あのイオタで出会ったソーサリーから話しを聞き、希望を持ったが故である。
そうなのよね? とアヤナは一歩、オラクルへと迫った。オラクルの伸びきった眉毛が僅かに反応を見せる。アヤナを見上げ、嘆息を吐き出すと、伸びきった白髭が微かに揺れて機微な反応を示す。
この場にエルダはいない。アヤナは自身で決めてエルダへとオラクルの予言を伝えたが、オラクルが一人ずつしか予言をしないのは既に決まっている事、とエルダは外で待たせてある。
エルダという『保護者』のいない空間で、アヤナは言いたい事を言いたいだけ無秩序に言う。当然だ。アギトに殺されず、旅を出来るかもしれない。そう思えば、アヤナはがむしゃらにでも進むしかない。
「ソーサリーがディヴァイドに干渉すれば、予測された未来が変わって、アタシがアギトに殺されるっていう未来も変わるかもしれないのよね!?」
そしてまた、アヤナは一歩迫る。
「そうさな」
オラクルはそんなアヤナの秘められた意思に気圧されたか、ついに言葉を漏らした。
「可能性はあるだろう。低いのは明瞭であるが。可能性は、僅かながらある。確かに、ある。だが、言おう」
そこで一瞬の間。一瞬のはずなのに、恐ろしく長い間が過ぎ去って、オラクルは告げる。
「それを可能とするソーサリーは、いないぞ」




