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8.人間という名の武器―14


 イオタまではそう遠くはない。当然、徒歩となればそれなりの時間を要してしまうのだが。

「武器職人と会った後はさ、どうするつもりなの?」

 アギトの横をひょこひょこと歩くアヤナが可愛らしげな声で問う。

 対してアギトはアヤナを一瞥。すぐに視線を前へと戻して言う。

「特別ねぇよ」

「考えてないの?」

 アギトの素っ気無い返事にアヤナは不満げに頬を膨らませながらも、首を傾げて再び問うた。

「目的は定まってる。だが、よ。道筋は立ってないっての」

「ふーん」

「何でも良いさ。お前はただ俺に着いてくれば良い」

 そう言ったアギトの視線は前へと向かっていて、最初の一度以外アヤナへと向けられなかった。

(…………、)

 言葉に、余りに当然の如く放たれた言葉にアヤナは一瞬だが、誰にも気付かれない程の短い時間だが、アヤナは息を呑んだ。

 ただ着いてくれば良い。その言葉に今まで体感した事がない程の衝撃を受けた。そして思う。この人に、着いて行きたい、と。例え、その人に殺されるとしても。

(でも、やっぱり、避けられたいなら避けたいわよね)

 はぁ、と溜息を吐き出す。アヤナはどうにも逃れられないしがらみに囚われ続けている。そしてこれからも、囚われ続けるだろう。何か、解決策でも見つかれば話しは別であるが。だが、見つかるだろう、という希望は持てない。

 旅の道中は今までにない程に穏やかな物だった。エラーの出現はなし。唐突な出会いもなし。

 そうしてアギト達はイオタへと辿り着くのだった。




   33




 エラーの出現は加速している。アギト達が必死に閉じて回っているが、それでも爆発的進行は止まない。アギト達が一つエラーを閉じれば、その間に数十のエラーが出現している状態である。

 アギトも勢力を拡大させている。数人ではあるが、最初のアギト一人の状態から今気付けば四人だ。速度も力も両用できるアヤナに、戦闘経験豊富で破壊力のあるアクセスキーを使いこなすエルダ。そして異常なまでの身体能力とアームドとしての力を誇るレギオン。

 力は十分だ。四人でもし、戦争でも起こせば国一つ支配できるだけの力がある。

 だが、だが、アギトは、まだ足りない、と思う。

 これでは、世界を救う事は出来ない、と邪推する。いや、推測だ。

(まだだ、まだ、足りない)

 故に、アギトは進む。だからこそイオタへと向かった。

 だが、イオタは、既に、『エラーに侵食されつくされていた』。

「ッ!! こんな事になんのかよ!」

 アギトは思わず膝を落として、拳を地に叩き付けた。痛みが滲むが、アギトの気はそこには回らなかった。

「嘘……。こんな、エラーの展開が進むと、こんな事になる、なんて……」

 アヤナも絶句した。

「ありえない……こんな、事になるなんて」

 道中の穏やかさを振り返り、見て、改めてエルダも実感する。

「くっそ……。マジかよ……」

 レギオンも、忌々しげに表情を沈めた。

 四人の数歩前から先の光景は、全てが『黒』。空は僻遠の彼方に僅かに覗くが、辺り一面黒。漆黒。そう、これが、エラーに犯された末路なのだ。

 一歩でも踏み出せば、少しでも手を伸ばせばエラーへと吸い込まれてしまいそうで、思わず億劫になる。

「くっそ……くそ!」

 自身の力が足りない、そう思っていたアギトは殊更に悔しがった。そして、自身の力が及ばないのが悪いのだ、と自身を攻め立てる。苛むアギトは糸切り歯を剥き出しにして歯を食いしばる。

(もっと、もっと強くならなければ……)

 そしてアギトは異常なまでに焦りだした。強く、強くならなければ、ルヴィディアをも凌ぐ力を得なければ、世界は救えないぞ、と自身に何度も何度も言い聞かせる。

 と、その時だった。

 アギト達の眼前の漆黒の闇が裂けたのは。

「何だ!?」

 落ち込んでいる場合ではない、と全員が咄嗟に数歩下がって警戒を示した。

 すると、四人の前に、漆黒を割って、漆黒の中から、一つの人影が出現した。男だ。姿は細い。だが、その節々、各所の先端には鋭利さを兼ね備えている男。坊主頭に不良を連想させる厳つい表情。そんな男は、エラーをものともせず、そこから這い出てアギト達の前に姿を現した。

「誰だ……お前?」

 腰のアクセスキーに手を添えて、アギトは訝しげに眉を顰めて警戒する。

 すると男は完全にエラーから這い出て、自身の衣服をパッパッと軽く掃った後、その厳つい表情を上げる。ギルバとはまた違う、厳つさがアギト達に直面した。

 そして、吐き出すように言う。

「おっと、こりゃあ……勇者様達じゃねぇですか」

 そう言った男は両手を晒すように広げて、アギト達に敵意がない事を示してニヤリと笑んだ。

「お前は誰だ、そう聞いてんだよ」

 苛立ちを警戒として放つレギオンが低い声を上げる。

「おぉおっかない。敵意はないってのに」

 そう、やれやれ、と演技めいた仕草を見せた男はかしこまったように返す。

「俺の名前はどうでも良い。問題はそこじゃなくて、俺が『ソーサリー』だって事だ」

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