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8.人間という名の武器―10


 アギトは節剣を振るい上げ、その刀身を延ばす。節を次々と増やし、刀身はあっという間に伸び、アギトの頭上にいた漆黒の龍の腹へと、その切っ先をズブリと埋めた。

 漆黒の龍はそれに気付いた様だが、大した痛みは感じていないようで、身を僅かに動かして眼下を覗いたに過ぎなかった。

「とにかく、あの赤い方は任せたわ」

 言って、アギトは節剣の刀身の収縮によってアギトは上空へと舞い上がっていった。

 そんなアギトを見送ったレギオンは嘆息する。そして、宙を舞い、今にも炎を吐き出しそうな深紅の龍を見上げて、呟く。

「まぁそうだよな。やるしかねぇって訳だ」

 そう呟きを終えたその瞬間。レギオンは、ロケット発射の様に、真上に、発射された。空気の残像がそこに残るのがただ唯一、レギオンがそこに立っていたという証拠である。ほぼ無動作で跳んだそれを見れば、レギオンの身体能力の異常なまでの高さ、そして、アクセスキーの補助機能の高さを伺えた。

 レギオンは一瞬にして深紅の龍の眼前に到達する。すぐ目の前には、深紅の龍の大きく開いた鋭利な牙が並ぶ口が、あった。

「う、うぉおおおおおおおおお!?」

 その光景には、流石のレギオンも驚きを隠せず、無様に間抜けな面を浮かべて声を漏らしてしまった。

 龍は真下にいたレギオンの動きを察知していたのだ。そして、その巨躯からは想像も出来ない素早く、小回りの効く動きでレギオンが到達するであろう地点を予測し、大口を開けて待ち構えていたのだ。

 そして――レギオンは喰われる。

「おッ、おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 だが、レギオンもそう易々と身を引く訳にはいかないのだ。

 レギオンは咄嗟の判断で、両手を挙げ、両足で顎を踏み、必死に、耐えたのだった。

 龍の破壊力は凄まじい、レギオンが上顎と下顎を押さえて必死に抵抗を見せているが、力の差は歴然だった。アクセスキーの補助、レギオンが持つ本来の驚異的な身体能力を持ったとしても、龍の力には勝てなかった。

 レギオンはどんどん圧され、その身をかがめていく。

「むぐっ、うぉおおおおおおおお……!!」

 なんとか耐えるレギオン。だが、先は長くないだろう。そう、思った時だった。レギオンの眼前、つまり、龍の咽喉元が、明るく灯火を灯らせる光景を見た。火種は見えない。だが、確実に『炎が来る』と理解できた。

「ッ!? マズい!」

 レギオンとて、炎で身を焼かれてしまえば生きて等いられない。いられるはずはない。

 レギオンに考えている余裕は最早なかった。咄嗟の判断と賭けで、レギオンは両足に強く力を込めた。龍の顎を一瞬でも怯ませる事が出来ればよい。そう、強く願った。もしそうならなければ、レギオンは足の力を外した時点で龍の口内にダイブ、だ。

 だが、レギオンは運が良い。レギオンの両足は、龍の顎を叩いた。そして一瞬、たった一瞬だが、顎は怯んだ。レギオンはその隙に飛びのき、再びその身を宙に投げ出した。くるり、とレギオンは龍の眼前で回転した後、右手を伸ばす。するとその瞬間、右手は異質な形へとなる。鋭利な爪を供えた恐ろしい形の腕へと。そして、それは巨大化し、伸びる。

 そして、向かってきていた深紅の龍の顔面を、掴み取った。その瞬間から、龍の抵抗は始まる。手の捕縛から逃れようと、必死に暴れるが、レギオンもまた負けていられない。顎ごと押さえ込み、なんとか炎を吹かせないようにと、レギオンは必死に右手に力を込める。

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 そのまま左手を右手同様に伸ばし、右手の補助へと回す。

 して、両手で龍の顔面を押さえ込んだレギオン。

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 咆哮を上げ、そのまま巨大化し、異質な形となった両手を振るい、龍を、巨躯を誇る龍を無理矢理に地面へと、落としたのだ。

 無理矢理に投げられた龍は抵抗むなしく、そのままやはり地面へと堕ちる。

 そして、衝撃。巨躯が落ちた地面は激しく揺さぶられ、自身でも起きたかの様に激しく揺れた。砂塵が恐ろしい程に舞い上がり、地上にて武器を振るってバケモノと戦っていた連中、そしてバケモノの動きも止まる。

 砂塵が広がったため、景色は失われた。

 だが、上空は未だ明瞭な視界を残している。故に、アギトはまだ、戦っている。

「オォラッ!!」

 漆黒の龍の背に飛び乗ったアギトはその上でアクセスキーを刀に変え、背中に一閃入れる。だが、浅い。

(甘いよな……)

 すぐにバックステップでその場から離れる。そして、尾の付近に到達。その瞬間、龍は動き出す。身を翻して、アギトを落そうとする。案の定アギトの身体は宙に浮いた。その瞬間にアギトはアクセスキーを節剣へと変え、突き出す。節剣の刀身はバラバラと伸び、なんとか、龍の腹へと突き刺さり、アギトは地に堕ちずにすんだ。

 龍は元の体制に戻る。その下十数メートル程先に、アギトが刀身の伸びた節剣にぶら下がっている姿。

「あっぶねぇ……」

 そう吐き出して、節剣の刀身を収縮させ、その勢いで再び龍の背中へと戻るアギト。龍の背中へと戻るその瞬間にアクセスキーを振るって斧の形を取らせる。

 そして、重量のある一撃を龍の背中へと叩きつける。弧を描く刃が龍の背中にズブリと沈む。だが、まだ、浅い様だ。

 アギトの足元の龍の背中からは流血すらありはしない。それどころか、反応すら見えやしなかった。

「くっそ! どうしろってんだよ!」

 

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