8.人間という名の武器―8
そう言ったアギトの表情は緩い。これから旧友と会うんだ、という邂逅する楽しみが現れているのかもしれない。
そんなアギトの表情を見たアヤナは思わず表情を綻ばせた。アギトが普段そんな表情を見せず、固く唇を一文字に結んでばかりいるからだろう。アヤナは素直に、嬉しい、と感じたのだ。
(……はぁ)
だが、数秒過ぎればどうしてもオラクルの言葉が思い浮かんでしまう。
――アギトに殺される、という真実。
今更オラクルの事を疑いやしない。だが、否定したい気持ちがあるのもまた事実。このまま、時折アギトの柔らかい表情を見ながら、ずっと旅をしていたい。そう、思ってしまうのだった。
「へぇ、そんな人との繋がりもあるんだねぇ」
感心したように、エルダが言う。
「まぁ、一応世界中回ってた時期もあるからな。大分昔の話しだけど。それに、アクセスキー持ってからは一回も会ってないからな。もし、居住場所が変わってたら会えないだろうけど」
そう言ったアギトは笑う。昔を思い出して笑う。そんな、人間らしい姿。
30
ガチャリ、と音を発ててレギオンの事務所からアギト達四人は外へと出た。事務所の前は更地に近い荒野が広がっていて、とてもじゃないが商売する土地だとはいえない。
そんな場所に四人全員が足を付けたと同時だった。
悲鳴が、どこからか聞こえて来た。それも、複数だ。歓声が上がるように、一気にそれは湧き上がった。
「街の方からだな……」
レギオンが眉を顰める。
「エラーだな。感じで分かる」
そしてアギトが鋭利な表情で固めた。ほんの数秒前まで、楽しく談笑していたのが嘘の様に、雰囲気は一変した。
「行くぞ」
アギトの言葉で四人は駆け出した。
辿り着いたのはヘータの街だ。そこに、エラーはあった。そう、あった。だが、アギト達がそこに辿り着いたとほぼ同時だった。武器を手にしたアームド達が、エラーから出てきたバケモノを次々と薙ぎ払い、いなし、蹴散らし、エラーを閉じたのだ。
アギト達が辿り着いたが、時は遅い。既にアギト達の活躍の場はなくなっていた。
「言っただろ。お前達は必要ない」
そして、アギト達の登場に気付いた連中が睨む様な視線を彼等に突き刺し、冷たすぎる声色を放った。
呆気に取られるアギト達。だが、
「エラーだ」
連中がエラーを閉じた位置に再び、エラーが再出現する、とアギトは感じ取り、声を上げた。と、同時だ。アギトの感じが正しいと証明するかの如く、エラーが渦巻き、出現した。
「なっ!? 今閉じたばかりだというのに何でだ!」
十数名程いたアームド全員が、驚愕の声を上げ、エラーの出現した方へと視線を投げた。
エラーはあっという間にその渦巻く動作を加速し、巨大化した。その大きさ半径五メートル程。中型のエラーだ。だが、エラーはそこで更なる動きを見せた。
出現したエラーの両脇に、更に二つ、エラーが出現したのだ。
大きさは中心と同様。中型のエラーが三つも同時に出現したのだ。
だが、まだ、まだ終わらない。
三つのエラーの後ろに、追い討ちを掛けるかの如く、また、エラーが出現した。その大きさは先の三つを遥かに越え、半径一○メートルをも誇る、大型エラーだ。
「な、なんだよこの数と大きさは……ッ!!」
レギオンも、その光景には驚きを隠せなかった。あれだけ威勢の良かったアームドも、自ずと数歩下がっている。驚愕を隠せず、誰しもが武器を握る手を震わせてしまっていた。
「デカイのと……数が来るぞッ!! 気をつけろ!」
アギトの大音声と同時、エラーの回転は一瞬の停止から、急加速を見せた。それと同時だ。エラーの渦巻きの中心から、次々とバケモノ共が出現し始めた。
三つの中型エラーからは、おぞましい形をした、バケモノが出現した。それは三角錐の形をしたバケモノ。頭から足元まで一枚布で隠した、おぞましい巨躯。唯一露出している両腕は見れば人間そのものであるが、デフォルトで血の汚れが付いていて、おぞましさを増している。その右手には巨大な鉈。その大きさ(刀身は約二メートル)は鉈の範疇に入っていない。
肉屋。その数は数体。数十、とあっという間に増加していった。そして数が五○程になったと同時、出現はやっと終了したのだった。
そして、三つの中型エラーの背後、巨大な大型エラーからは、二匹の、二対の、龍が出現した。一方はアギトの様な漆黒。そしてもう一方はレギオンの様な深紅。
二対の咆哮が轟き、大地が怯え始める。
アギトはその龍を見て、思わず身震いした。フレギオールの出現させた龍の事を思い出したからだ。挙句、今回は二体もいるのだ。
「こ、こんな数……相手に出来るわけが……!!」
アームド連中のどこからか、声が上がる。
だが、
「逃げるわけにはいかないだろうが! 戦う意思のねぇ奴は退け!」
アギトの雄叫びが上がり、場の雰囲気は咄嗟に急降下を止めた。




