8.人間という名の武器―7
そうか、と気付いてしまうと、言い宥める事などできやしないのだった。ただ、黙って罵声を浴びるほかない。いくら自身達が世界を救うためにアクセスキーを振るっているとしても、アームドからすれば、それは裏切りの行為でしかないのだから。
だが、矛先がアギトに向かったからか、レギオンが声を上げて抵抗したのだった。
「いい加減にしろよ、お前ら……」
そして、ギンと鋭利な表情を上げ、連中を一瞥する。レギオンのあまりの迫力にか、囲んで罵声を放ち続けていた連中は思わず一歩身を引いてしまうのだった。
レギオンは今までもこういう事に耐えてきた。だが、関係のない、とレギオンは見るアギトまでが罵声を浴びせられ、とうとう『キレて』しまったのだ。だから故に、レギオンが初めて反抗的な態度を取ったといえる。そして、初めて見たレギオンという強大な力に、連中は怯んでしまったのだ。
罵声が止み、辺りは静謐な雰囲気が浸透する。
そこに響くのはレギオンの舌打ち。それと同時、連中は身を引き、レギオンへと道を譲る。
レギオンは溜息と共に歩き出し、アギトと合流して、連中を置いて歩むのだった。
「やっぱり、アームドの連中はアクセスキーに抵抗があんのかね」
帰路の途中。アギトは素っ気無くもそうレギオンに問うた。あれだけの事があった後だ。聞きたくなるのも、知りたくなるのも当然といえよう。それに、これは知っておかなければならない事情であろう。
「そりゃそうだろ。俺達アームドはある程度近くで見ただけでアクセスキーがアームドによって作られたって分かるからな。それも、アームドという人間を無理矢理に改造して、ってな。だから当然、罵声を上げたくもなるんだろうよ。いくらそれが、世界を救うために必要なモンだって言ってもな」
「気持ちはわからないでもないんだけどな」
「俺だってそうだ。だがよ、どうにもならない事もある」
そう言ったレギオンは両手を後頭部へとやって、顔を上げて夕暮れの空を仰ぎ見ながら、
「なんせアームドは、生まれた時点で『エラーを閉じる力』を持ってるわけだしな。自分達がエラーを閉じるから、非人道的な事をして他人の手に死体を渡すな。ってなるんだろうよ」
言葉に、アギトは思わず目を見開いて驚いた。足を止め、レギオンの方を見る。
「今、なんつった?」
アギトが止まった事に気付いて、レギオンも足を止める。
「あぁ、知らなかったのか? アームドは武器化すれば、それだけでアクセスキーみたいなモンなんだよ。フレミアが作ったアクセスキーみたいに、エラーを閉じたら何かが進化したり、使用者の能力補助なんてモノはないけどな」
「ま、マジかよ……」
フレミアがアームドをアクセスキーへとした理由は、分かったのだった。エラーを閉じる武器、もとい鍵をつくるには、どうしてもアームドを使うしかなかった。そしてアームドの特性――武器になれる、という――があり、心強い武器ともなった。
(成る程な、)
自身の腰に止められているアクセスキーを一瞥しながら、少しだけ、進歩したのだった。
29
「今後どうするの?」
四人集まって、レギオンの事務所にいた。日が暮れ、そろそろ就寝しても良いという時間帯。アクセスキーの事情、そして、アームドの事情を知るレギオンを仲間に引き入れため、アギトはもうこのヘータには用はない、と決断したのだ。当然、その事情の裏にはアクセスキーとアームドの険悪な関係の事も理由として隠されているのだった。
眠そうに目を擦りながら問うたアヤナにアギトは言う。
「エラーを閉じながら進むのは今まで通り。で、次に向かうのは――イオタ。ここからもそう遠くない場所だ」
アギトの言葉にレギオンが眉を顰める。
「イオタだぁ? あんな何もない所に何の用があるってんだよ?」
イオタはレギオンが言う通り、何もない、町だ。ただ極普通の街が広がるばかりで、田舎でも都会でもなく、ただ、街。近所同然であり、レギオンはイオタを地元と言っても間違いではない程に知っている。だから、気になる。そこで、何をするのか、と。
「イオタには、『伝説の武器職人』がいるんだ」
そう言ったアギトは出所の分からない得意げな笑みを表情に貼り付けた。
「あん? そんな奴いたか……?」
レギオンは聞いて、自身の知る限りを思い出すが、当然の如く、そんな人物、情報は思い出せなかった。
見れば、アヤナもエルダも首を傾げて不思議そうにしている。
それらを一瞥したアギトは、演技めいた笑みを改めて浮かべ、言うのだった。
「俺が傭兵だった頃、俺の武器を世話してくれてた武器職人だ。ま、伝説ってのァ言いすぎだけどな」




