8.人間という名の武器―6
フレミアはそこから一歩たりとも進むことは出来ない。そして当然、アギト達の下へと赴く事も出来ない。そんな状況をフレミアは忌々しげに眉を顰めて耐えるしかないのだ。
(……どうやら、私が手を出せるのはここまでみたいね……)
そしてフレミアは沈黙する。
視線の先に老人の真っ白な姿を捉えながら、フレミアは鳥篭の隙間からアギトが映るモニターを見上げる。
「役者は揃った。舞台も出来上がってる。だから、後は頼んだよ」
28
大爆発が起こった。爆風も、爆煙もない大爆発だった。もの凄い衝撃が拡散し、見えない力が辺りの全てを押し退ける勢いでパラボリックに広がった。
まるで隕石が落ちたかの様に、その中心点からクレーターが生まれる。
「おぉ、すげぇな! 巨体相手ならお前一人にでも任せた方が楽そうだな」
そんな光景を外れた場所から眺めていたアギトが素直に感心し、言うのだった。
「ったく……バケモノが出たって言って連れてきといて観客役とはな。呆れるぜ」
そう言葉通り呆れた様に言うのは、クレーターの中心に立つレギオンだ。レギオンは両手を大袈裟に広げて、やれやれ、と首を横に振った。そして、両手をポケットに突っ込み、気だるそうに踵を返してアギトの方へと向かって来る。
今、エラーが出現し、その内から這い出てきたバケモノを片付けたのだ。
小さなバケモノが無数に出現し、道を邪魔していたがアギトの素早い攻撃で片付け、最後に待ち構えていた巨体のバケモノをレギオンが片付けた。ある種のコンビネーションである。
互いの苦手を補う事が出来る。それは、相性が良いといえよう。
「お疲れ」
「おう」
そしてハイタッチ。パチリ、と心地の良い音が静かに広がったのだった。
一仕事終えて気分も良い二人。
だが、
「レギオン! お前また……っ!」
声と、無数の足音が響いてきた。
アギトは突然のそれに思わず振り返る。その途中で、レギオンが眉を顰めている表情を浮かべていたのが、やけに印象的であった。
「なんだ?」
アギトはその光景に首を傾げる。
見れば、この街、ヘータの住民、つまりはアームドと思われる人々数十名が怒り心頭な表情を浮かべて駆け寄ってきているではないか。
「おい、なんだ、あいつら?」
アギトが駆け寄ってきている連中を指差してレギオンへと問うが、レギオンは視線を上げようとなんてしない。ただ、俯いて忌々しげに表情を落としている。そして、舌打ち。何をそんなに苛立っているのだろうか、とアギトは更に疑問を増やす。
そして連中は到達する。影は様々だ。男女が入り乱れたその人混みはがやがやと騒ぎたてながらレギオンへと詰め寄ってくる。
「また力の誇示か!」
「『裏切りの力』を使って、また暴れていたのか!」
「なんでそんな迷惑になる事ばかりするんだ!」
「我々だけでなんとか出来るといっただろう!」
「本当最低!」
そして、人混みはアギトなんかいないモノと言わんばかりに無視して通り過ぎ、レギオンを囲む様にして詰め寄り、そうやって、アギトには理由の見えない罵声を次々と浴びせるのだった。
「お、おい……」
困惑しながらもいきなりの酷な状況を止めようとするアギトだが、あまりの迫力、そして理解できない状況に対しての対処が分からず、今一歩踏み出せないのだった。
罵声が浴びせられる中、その中央で、レギオンはワナワナと震えながらもただ、俯いて言葉に耐えているのみである。レギオンの力であれば、連中を無理矢理にでも黙らせる事が出来るだろう。だが、レギオンはそうしない。傷付けるどころか脅しさえしないのだ。
「おい! 言いすぎだろ!」
流石に痺れを切らしたアギトが、無理矢理な手段だ、と思いながらもそれなりの大音声を上げてレギオンを囲む人ごみを割ったのだった。
そして、集まる視線。当然、アギトへと、だ。
「お前、その腰の……裏切りの力……っ!」
「あなたもレギオンと同じアームドを殺す者か!」
「最低。どうしたらそんな非人道的な事が出来るのよ……」
次に、罵声が向けられたのはアギトだった。
(腰の……?)
浴びせられた罵声によって、連中が何を忌避しているのか、気付く事が出来た。
アクセスキーだ。そうだ。アクセスキーはアームドによって作られた。正確に言えば、アームドを素材としてフレミアによって作られた恐ろしく非人道的な武器なのだ。
それを、アームドが憤怒するのは当然だった。
最低、という言葉が場に跋扈して、拡散する。




